ブギーポップは笑わない:新旧アニメの比較

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2019年の冬にアニメ化された『ブギーポップは笑わない』ですが、19年前の2000年にも『ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom』として、アニメ化されていました。新旧ブギーポップのアニメの比較と、レビューをやっていきます。

目次 この記事の内容

  • 評価が出来なかった『ブギーポップは笑わない』
  • 後年のアニメよりも分かり辛いBoogiepop Phantom
  • 2019年版ブキーポップは笑わないレビュー
  • 映画として制作いていれば名作

評価が出来なかった『ブギーポップは笑わない』

出典 http://boogiepop-anime.com/ 死神と噂されるブギーポップ

2019年の冬アニメをランキングした時に、『ブギーポップは笑わない』は、評価出来ませんでした。というのも、再アニメ化された作品で、昔のアニメを見たことがなかったので、色々な批評にどう反応していいか解らなくなってしまったからです。

ぶっちゃけ、印象に残る作品が少なかった2019年の冬アニメの中でも強烈な個性のあった本作ですが、複雑なストーリー展開に、一気に見ないと内容が分かりづらいという、テレビアニメとして致命的な欠点がありました。

しかし、全18話をちゃんと通して見ると、各章毎の伏線がきちんと回収されていき、意味もちゃんと解るようになっています。

1〜2話と10〜13話を一挙放送するなど、製作陣も欠点について考慮した放送はしているのですが、いかんせん原作自体が、1990年代後半に流行した上遠野浩平のラノベ『ブギーポップシリーズ』ですので、話が古い印象がありました。

筆者が投稿した、この記事の動画バージョンです。

後年の『物語シリーズ』、『刀語』などで人気のラノベ作家西尾維新も本作の影響を多大に受けています。既に多数のメディアに波及している西尾作品の後で再アニメ化したブギーポップは、もはや時代を先取りするどころか、古臭いセカイ系の一つのように見えてしまうのです。

そこで、2000年の最先端としてのブギーポップシリーズのアニメを見てからでないと、正確な評論は出来ないと思いました。『仮面ライダーアマゾンズ』の2ndシーズン目的に加入したアマゾンプライムで、『ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom』を視聴しました。

後年のアニメよりも分かり辛いBoogiepop Phantom

出典http://boogiepop-anime.com/ 黒田慎平のキャラデザは大きく異なる

2000年1月から3月の1クール12話で、深夜アニメとして放送された『ブギーポップは笑わない Boogiepop Phantom』は、電撃文庫の原作小説、映画、アニメとメディアミックスすることが前提でした。

そんなことが解らずに、本作を視聴すると、1話から完全に置いてけぼりとなってしまいます。というのも、群像の各話の主役は、本編を描いた後年のアニメでも一度も登場していないし、見たこともない上に全然知らないストーリー展開だったからです。

正直、これには面食らいました。前のアニメの方が輪をかけて理解不能などと想像したことはありませんでしたから。ところが、話を見ていくうちに、このBoogiepop Phantom自体が、本編の後日談で外伝的なオリジナルストーリーであることに気づくのです。

『ブギーポップは笑わない Boogiepop and Others』の実写映画を先に公開して、アニメを後日談として展開する予定だったのです。しかし、公開が2000年3月とアニメ終盤と重なってしまうタイミングまで遅れたことにより、小説の方を読んでいないと意味が解らないアニメとなってしまっています。

出典 http://boogiepop-anime.com/ 宮下藤花の彼氏でブギーポップ唯一の友人竹田啓司はブギーポップ・ファントムには登場しない(正確には写真のみ)

また、最終話の時系列(宮下藤花や霧間凪の高校卒業時)が現在で、他の時間(1〜11話)は過去として暗めの色調で描写されています。これは、過去を表現しつつ、暗めでダークな雰囲気を本作に与えることに成功しています。普通のアニメに見慣れた層には不評でしたが、個人的には問題ありませんでした。

更に、PSの名作アドベンチャー『トワイライトシンドローム』シリーズのような雰囲気を出すため、登場人物の大半が棒読みという、極めて斬新な試みをしています(SEも含めて影響されている)。

ヒューマンやスパイクの名作アドベンチャーゲームに免疫のある筆者にとっては、普通だったのですが、当時のアニメファンからは色々と言われていたようです。噂話を効果音のように使ったり、当時としては最新の音楽であるポストロックに影響されたBGMは、2000年という時代を反映していて興味深かったです。

また、スガシカオの『夕立ち』によるお洒落なオープニングは、結構良かったので、全12話視聴の度に見ていました。アニメーション制作は、後年のブギーポップは笑わないと同じマッドハウスで、監督は『ヘヴィーオブジェクト』の渡部高志です。

おそらく、原作同様に各登場人物視点での話から始まって、全体像が見えてくる構造にしたかったのでしょう。しかしながら、話の大筋が見えてくるのは10話と、ほぼ終盤になってからであり、ブギーポップである宮下藤花が活躍するのは、10〜12話と本当に最後の方です。

それまでは、エコーズ(異星人)による光の奔流に影響されて生まれた、ブギーポップ・ファントムという本物とは異なる電磁波による存在が活動しています。この構造自体が、更にややこしくしており、こんなんだったら素直にブギーポップ本人が事件を解決する形でも良かったのではないか?と思いました。

ぶっちゃけ、この作品は小説か映画を観賞してからでないと意味が解らない作品になっています。このブギーポップ・ファントム単体だと、10話で全てのピースがハマるようになり、全体が把握できるようになる(ブギーポップ本編は別)ので、そこまで観なければなりませんので、ハードルの高い作品になっています。

マッドハウス作品が大好きな筆者でも、当時このブギーポップ・ファントムを予備知識無しに視聴していたら、途中で止めていたでしょう。おそらく小説を読んでいても、8話くらいまで、意味不明だったのではないでしょうか?

ただ、2000年代という時代が要求しているテーマや、時代背景が丁寧に描かれています。霧間凪の乗っているバイクが、スズキGSX750Sの1型(不人気のスクリーン無しの1982年販売の1型刀)という点や、CDウォークマン、ガラケーなどまさに、ブギーポップは笑わないがラノベ界をリードしていた時期の空気があります。

しかし、最初から本編をアニメ化しなかった理由はありました。シリーズ構成(脚本)の村井さだゆきは、原作はテレビシリーズ向けではないと言っていたそうです。実は、その印象は後年のアニメに対して、筆者も思っていたことです(大汗)。

30分の放送枠のテレビアニメの場合、放送は1週間毎になります。複雑な複数の登場人物視点から物語の全体像を把握させるスタイルの『ブギーポップは笑わない』をそのままやったのでは意味不明になってしまいます。

小説の場合、簡単にページを戻して読むこともできるので斬新な手法を取ることができたのです。皮肉なことにテレビアニメでは、この手法が最大の欠点となってしまいました。そこで、村井さだゆきは、各話を独立した1本の話として脚本を書き、10話で全体像が掴めるような構成にしたのでしょう。

結果として、このアニメは実験的な意味合いが強く、当時あまり流行しませんでした。よって本作は、基本となる本編の話を知っていたらオススメしますが、それ以外の人にはハードルが高い作品だと思います。ただ、筆者はこういったダークな作風のアニメは大好物です(大汗)。

2019年版ブギーポップは笑わないレビュー

出典 http://boogiepop-anime.com/ 炎の魔女こと霧間凪

2019年に放送が開始された『ブギーポップは笑わない』を最初に視聴したとき、1話の意味がよく解りませんでした。

普通の高校生、竹田啓司の視点での1話では、竹田の彼女の宮下藤花が、黒い奇妙な衣装で街を歩き、ボロボロの格好をした浮浪者を助けるところから物語が始まるからです。そして、宮下藤花は、自分のことをブギーポップと名乗り、世界の敵と戦っていると竹田に告げます。

ブギーポップは、宮下藤花の別人格の存在で、世界の敵と戦うことを目的としていました。確かに、浮浪者のようなエコーズ(地球外生命体)が警官に拘束されそうになった時に見せた、人間離れした体術を見た後だと、その話にも説得力があります。

竹田は、ブギーポップと屋上で度々会い、ブギーポップの唯一の友人となります。そして、ある時突然ブギーポップは、竹田に危機が去ったことを告げ、竹田の前から姿を消して、代わりに宮下藤花の人格が戻って、竹田と帰宅します。

そして、宮下に対して霧間凪が握手を求めるところで、第1話は終わります。何のこっちゃと思うかもしれませんが、筆者も意味が解りませんでした(笑)。2〜3話で、全体の話をするのですが、順番逆だろ!って思いました。ここからは、大まかなストーリーの流れを書いていきます。


地球外生命体であるエコーズが、統和機構と呼ばれる世界を影で操るほどの力を持った組織から逃げてきたところを、霧間凪の友人である紙木城直子に保護されます。

一方で、エコーズのデータを使ってコピーされた合成人間マンティコアは、深陽学園の生徒に成りすまし、人を捕食していました。世界を憎悪する深陽学園の早乙女正美は、マンティコアに狡猾な策を与え、マンティコアをも操作することのできるような影響力を持ち始めます。

早乙女は、マンティコアと出会うことで、世界の敵となり、世界の敵を排除する自動的な存在であるブギーポップの標的となったのです。

ブギーポップは、人間の潜在能力を限界まで発揮させることができます。また、鋼鉄製のワイヤーを武器にしていて、ここは菊地秀行の小説『魔界都市ブルース』の秋せつら(2重人格も武器も類似)の影響が見て取れます。

紙木城直子はマンティコアに殺され、その調査をしていた霧間凪は、早乙女に隙を突かれて頸動脈を切られます。エコーズは、霧間に生命力を分けてマンティコアとの戦いの前に消耗します。

そこに居合わていた新刻敬が危うくなったとき、エコーズは光となってマンティコアを倒そうとします。しかし、マンティコアを庇った早乙女が死に、マンティコアは新刻敬を殺そうとします。そこに、ブギーポップが現れて、ワイヤーでマンティコアを拘束し、紙木城直子の恋人の田中志郎が弓を射てマンティコアを倒し、仇を討つのです。

出典 http://boogiepop-anime.com/ 宮下藤花はブギーポップの時は喋り方が男性的になる

ブギーポップ・ファントムとは異なり、原作の第1作『ブギーポップは笑わない』を丸々3話分使って本編を描き切っているところは評価できます。しかし、テレビアニメとして、かなり構成に問題がありました。

  1. 1話で竹田がブギーポップと会話する内容が把握できない
  2. 各登場人物の視点が多すぎて情報が混乱
  3. 時系列が整理されていない

作画や、声優の演技(特に宮下藤花役の悠木碧。二重人格をトーンを変えて巧みに表現していた)、作品のテーマなどの素材はいいのですが、分かりにくい脚本のせいで、チグハグな印象を受けてしまいます。僕なら竹田の登場を最後にして、群像劇の視点を整理します。

この場合、重要な3人にまとめます。つまり、早乙女、新刻、竹田に固定するのです。こうすることによって、全ての視点を3人にまとめることができます。問題は、紙木城直子のところですが、ここは数分で誰かに語ってもらう(エコーズあたり)で対処できるでしょう。

大事なのは、小説の手法とアニメのテレビシリーズの違いです。原作を改変すると、原作厨には批判されますが、肝心なのはアニメの視聴者の視点だったと思います。というのも、大勢いる登場人物の視点毎に、時系列がごちゃごちゃの状態で描写したら、間違いなく混乱するからです。

幸いにして、原作のストーリーの骨子ははっきりしています。そこで、時系列をある程度まとめて、各話毎にちゃんとした流れを作って、脚本で整理していれば、新しいブギーポップのアニメとして受け入れられたのではないでしょうか?

映画として制作していれば名作

出典 http://boogiepop-anime.com/ 霧間凪の父で作家の霧間誠一

2019年版の『ブギーポップは笑わない』の制作は、前作と同じく老舗のアニメスタジオ、マッドハウスで、監督は『ワンパンマン(第1期)』、『ACCA13区監察課』の夏目真悟です。

おそらく、夏目監督は上記の問題点を把握しながら、原作の良さを生かそうとして、今回のアニメ化をしたのでしょう。次のVSイマジネーター編(4話〜9話)は通常の放送で、夜明けのブギーポップ編(10話〜13話)では一挙放送をしました。

これにより、10〜13話では制作陣のやりたかったことがはっきり解り(アホですみません)、もったいない作品になってしまったと思いました。というのも、アニメとしてのクオリティの高さや、原作のテーマの深さなどは、2019年冬アニメ屈指の出来だったからです。

もし、アニメ映画として3部作公開という形なら、欠点を補って、さらにクオリティの高い作品として評価されていたかもしれないからです。

アニメ最終章の、オーバードライブ歪曲王編(14〜18話)では、レッド・ツェッペリンを意識した(最後のキーワードを含めて)70年代ハードロック調のBGMが流れたりしていました。

牛尾憲輔によるEDM以降のBGMや、MYTH&ROIDによるオープニングなど、音楽面でも頑張っていただけに、放送の仕方を工夫するか、アニメ映画として公開してれば、もっと盛り上がったのではないでしょうか?

賛否両論あるブギーポップシリーズのアニメーションですが、個人的には好きな作品であり、新旧アニメも楽しめられました。

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  1. ピンバック: デビルマン クライベイビー:原作の最後まで描いたアニメ版! | K.T Dogear+

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