The Beatles (ホワイト・アルバム):多彩な音楽性の広がりのあるアルバム!

Pocket

1968年に販売された”The Beatles“は、偉大なイギリスのバンドザ・ビートルズの通算10枚目(マジカル・ミステリー・ツアーを含んだ場合)のアルバムです。アルバムのジャケットからホワイト・アルバムと呼ばれています。

ビートルズの多様性

筆者が投稿したこの記事の動画バージョンです。

同時期に発表されたクリームの”Wheels of The Fire“と同様に2枚組みのLPとしてリリースされたホワイト・アルバムは、“Sgt. Pepper’s Lonely Club Band”と”Magical Mystery Tour“の後に制作されました。アルバム制作の途中で導入された8トラックで録られた初めてのアルバムとなっています。

LP2枚組みで、30曲収録(ステレオバージョン)というとてつもない曲数のアルバムです。実験的なC、D面を含むLP2枚組みです。ビートルマニアを自負するなら、ホワイト・アルバムの曲は聴いておかなければならない理由があります。

SGTからの流れとして、メンバーの指向している音楽性が多岐にわたっていて、整合性が保てないほどになってきました。SGTでは、コンセプトアルバムとして制作することで、統一感を出せたのです。ホワイト・アルバムでは多様性そのものを強調したアルバムの構成となっています(諸事情によって結果的にそうなったともとれます)。

そして、今までになかった前衛的な部分をあえて後半に固めることで、「これこそがビートルズの音楽性の広がりだ!」と主張したかったのでしょう。そのため、ホワイト・アルバムは既存のバンドが到達出来なかったほどの振幅の大きいアルバムとなり、それ故にまとまりに欠けていると評価されているのです。

夏季休暇中だったジョージ・マーティンの代わりにクリス・トーマスがアシスタント・プロデューサーとして参加し、その結果として統一感がないともいわれています。最終的にジョージ・マーティンが全体のプロデュースを行っていますが、アルバムに明確なコンセプトはありません。

しかし、僕はこの幅広い音楽性こそが、後期のビートルズの特徴であり、セールスポイントでもあったと思っています。このC、D面を聴かずにビートルズを語ることは出来ません。また、その後の各メンバーのソロ作に繋がるような特徴が、ホワイト・アルバムの時点で出てきていることも興味深いです。

当時のイギリスは、クリームや、ジミ・ヘンドリックス、ローリング・ストーンズによって、ブルース系のギターサウンドが流行していました。ビートルズもそれらのバンドの影響で、エレキギターのトーンが1966年の”Revolver“からアンプで歪ませたものに変化していました。

ビートルズといえば、リッケンバッカーとVOXアンプの組み合わせによるクリーンからクランチのトーンが特徴的でしたが、1966年頃からエピフォン・カジノを使った歪んだトーンに変化し、ホワイトアルバムからはジョージ・ハリソンが、エリック・クラプトンからもらったギブソン・レスポール(ルーシー)を使用するなど歪んだギターが多用されるようになってきました。

意図的にオーバードライブさせたギターを増やした結果、ブルース系の音楽を意識した曲が増えたのです。ビートルズは、アメリカのロックンロールからの影響が大きかったので、ブルース色の強いバンドではなかったのです。ブルージーなギターの曲は、このホワイトアルバムから増えてきていました。

ブライアン・エスプタインの死の影響

ビートルズのマネージャー ブライアン・エプスタイン

SGTがリリースされた直後の1967年8月に、ビートルズのマネージャーのブライアン・エプスタインがアスピリンの過剰摂取で死亡しました。ビートルズは、1966年の8月以降、ライブ活動を休止しており、ブライアン・エプスタインの仕事が減小していたとも言われています。

ブライアンの死後、ブライアンの会社NEMSエンタープライズから、アップル(アップル・コア)というビートルズのメンバーによって運営される会社によってマネジメントをし始めました。

ビートルズのメンバーは、経営をしたことのないメンバーばかりでした。ポール・マッカートニーが、アップル・レコードを積極的に運営していたくらいで、他のメンバーはあまり会社運営に関わっていませんでした。

1968年から設立されたアップルは、多角経営から始まりましたが、レコードレーベルとしての側面のみに経営を縮小することになります。

結局、アップルの経営面での軋轢は、そのままメンバー間の不仲の原因の一つとなっていきます。ポールが主導してビートルズをまとめようとしたのも後の解散の原因となります。ブライアン・エプスタインは、文字通りビートルズの接着剤として機能していたのです。

The Beatles解説

1曲目の“Back in The U.S.S.R.”は、ポールがチャック・ベリーの”Back in U.S.A.”をパロディした曲です。ところが、ここでドラムのリンゴ・スターに、ポールがケチをつけたため、リンゴがレコーディングから1週間離脱する事態が起きました。

その結果、ポールが次のジョン・レノンの曲”Dear Prudence”を含めてドラムを叩いています。結局リンゴは、戻ってきたのですが、その際「出戻り歓迎」というメッセージと、花束が添えられていたという逸話が残っています。

新たに使用された8トラックの録音機材は、メンバー全員をスタジオに集める必要のないレコーディングを可能にしていました。その結果、5曲目の”Wild Honey Pie”や2枚目の3曲目”Mother Nature’s Son”では、ポールが1人で多重録音しています。

4曲目の”Ob-La-Di,Ob-La-Da“は、よくビートルズ唯一のレゲエ・ソングと呼ばれていますが、当時レゲエは流行していなかったので、ポールはカリプソ風の曲として意識してたようです。

この曲のピアノはジョンが担当していて、何度もやり直しをさせられ、力任せに弾いたテイクが採用されたというエピソードが残っています。そのため、ジョンはオブラディ・オブラダを嫌っているらしいです。


7曲目の”While My Guitar Gently Weeps“は、ジョージの曲で親友のエリック・クラプトンがリードを弾いています。ピリピリしたレコーディングに嫌気が差していたので、少しでも雰囲気を良くするためにクラプトンを呼んだとも言われています。そのとき、クラプトンはジョージに譲ったレスポール(ルーシー)を弾きました。

これがきっかけで次のゲットバックセッション(アルバムLet it Be)でビリー・プレストンをピアノで参加させたようです。

このホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープスは、ジョージのビートルズ時代の曲の中でもサムシングや、ヒア・カムズ・ザ・サンに並んで3本の指に入る作品です。ソングライターとしてのジョージの才能が開花した時期が1968年だったと思います。

14曲目の”Don’t Pass Me By“は、スターキー名義となっており、リンゴ・スターの作った曲です。リンゴが単独で作曲したのは、これが始めてで、ビートルズの作曲者イコールメインボーカルの法則は健在でリンゴがメインボーカルをしています。

11曲目の”Black Bird”と13曲目の”Rocky Raccoon”は、ポールの弾き語りがベースの曲です。17曲目の”Julia“はジョンの曲で、これも弾き語りがベースです。ジュリアは、このセッションでの最後の曲でもありました。

ホワイト・アルバムの弾き語り曲はメロディやギターのアレンジが凝っていて、アコギの練習に弾いてみても面白い曲です。特にブラックバードは、アコギで弾き語りが出来れば限りなくカッコいいのでおすすめです!

2枚目からは、実験的な曲が増えます。1曲目の”Birth Day“はアップテンポのポールの曲です。2曲目のジョンの曲”Yer Blues“は、ブルースに対する傾倒を皮肉った曲です。

4曲目の”Everybody’s Got Something to Hide Except Me And My Monkey“は、ジョンの曲で、ノリいいロックナンバーです。ジョンの曲の中でもハジケていてカッコ良く、個人的にも好きなナンバーです。この曲は、ビートルズの裏名曲の一つだと思っています。

そして、ビートルズの中でも最も過激な曲とされている”Helter Skelter”が6曲目に収録されています。ポールが、「ザ・フーのようなうるさい曲が作りたかった」とヘルター・スケルターを作曲した経緯を語っています。この曲を聴いてビートルズがポップバンドなどという寝言を言う人はいないでしょう。

そして、D面の最初の8曲目には”Hey Jude“とシングルでカップリングされたバージョンとは異なる”Revolution 1“が収録されています。シングルのレボリューションは、アップテンポですが、こちらはゆったりとしたテンポでけだるそうな雰囲気です(ジョンは寝転びながらレコーディングしたといわれています)。

ジョンは、本来こちらのバージョンを気に入っており、シングルはメンバーの説得によりアップテンポのバージョンがカップリングされました。

当時のイギリスは、アルバムの曲とシングルの曲は分けて収録されていたので、ホワイト・アルバムの曲でシングルに被っているのは、別バージョンのレボリューションのみです。ちなみにヘイ・ジュードも同時期にスタジオ録音されており、いかにホワイト・アルバムのセッションに名曲が多いか解ります

そして、12曲目に”Revolution 9“というビートルズの公式曲の中でも最も長い8分21秒の曲があります。レヴォリューション1の18テイクの12分の後半部分を基に、ジョンとジョージ・マーティンが様々な音を重ねた前衛音楽(ミュージック・コンクレート)です。

最後は、リンゴボーカルのジョンの曲”Good Night“でしっとりと終了します。全30曲の中には、ロック、ブルース、カントリー、ポップ、クラシック、フォーク、カリプソに前衛音楽といったありとあらゆる音楽の要素が詰まっています。

万華鏡のような多彩なアルバムとなっているホワイト・アルバムは、ビートルズが自信を持ってセルフタイトルをつけた名盤です。僕にとってもお気に入りのアルバムで、今でもたまに自宅での作業中にかけっ放しにすることがあります。

Rock名盤解説の関連記事はこちら

The Beatles (ホワイト・アルバム):多彩な音楽性の広がりのあるアルバム!」への4件のフィードバック

  1. ピンバック: US ROCKとUK ROCKの違いとは?後編:ブリティッシュ・インヴェイジョン | K.T Dogear+

  2. ピンバック: Rock名盤解説 File20:THE ROLLING STONES LET IT BLEED | K.T Dogear+

  3. ピンバック: Rock名盤解説File23:THE BAND | K.T Dogear+

  4. ピンバック: MONSTER:R.E.M.の中でもエレキ色の強いアルバム! | K.T Dogear+

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください