R.E.M.の名盤というと、前に紹介した“DOCUMENT”や、“AUTOMATIC FOR THE PEOPLE”を挙げる人が多いです。今回は、R.E.M.の中でもロック色の強い“MONSTER”を紹介します。
グランジ全盛のシーンとカート・コバーンの死
R.E.M.の9枚目のスタジオアルバム『モンスター』が発表されたのは、1994年のことでした。R.E.M.は、1981年にデビューして以来、着実にヒットを重ねトップクラスのバンドとして君臨していました。
前回紹介したアルバム『ドキュメント』で、バンドの詳しいプロフィールは紹介したので省きますが、R.E.M.は当時のアメリカのオルタナティヴ・ロックを牽引する存在でした。
1990年代前半は、ニルヴァーナやダイナソーJr.に代表されるようなグランジバンドが台頭していた時期です。R.E.M.はグランジとは異なるアプローチの音楽性のバンドでした。ピーター・バックのギターリフは、繊細なアルペジオや巧妙なコードワークが特徴的だったのです。
1992年に発表された『オートマチック・フォー・ザ・ピープル』は、アコースティックで内省的なアルバムでした。このアルバムは1994年にニルヴァーナのフロントマン、カート・コバーンが自殺したときに聴いていたという逸話が残っています。
ニルヴァーナとR.E.M.は、既存のロックの範疇から発展させるという意味において共通している部分があったのだと思います。カートは、R.E.M.に受けた影響を正直に語っています。
カートと、R.E.M.のボーカルのマイケル・スタイプは、1993年のニルヴァーナのベーシストのクリス・ノヴォセリックのホームパーティで知り合ってからというもの意気投合し、コラボレーションも企画していたようです。
モンスターの10曲目“Let Me In”は、カートに捧げられた曲です。マイケル・スタイプは27歳という若さで自殺した友人を本当に救いたかったのでしょう。「俺を中に入れてくれ」というタイトルから、マイケルの痛烈な叫びが聞こえるようです。
翌年のツアーで、レット・ミー・インが演奏されたときには、カートの妻コートニー・ラヴから送られたジャグスタングが使われたようです。ジャグスタングは、ジャガーとムスタングを掛け合わせたギターで、カートがデザインしてフェンダーが制作したギターです。
このジャグスタングは最初、ギタリストのピーターが使用していましたが、ツアーではベースのマイク・ミルズが弾いていたようです。
1993年のニューオリンズのキングスウェイ・スタジオで数曲を書いて準備をし、1994年の2月にジョージア州アトランタのクロスオーヴァー・サウンドステージで、モンスターの大半のトラックを録音しました。
モンスターは、オートマチック・フォー・ザ・ピープルやその前のアルバム”Out of Time“のアコースティックなアルバムとは違って、”GREEN“以降、5年ぶりとなるツアーに向けて制作されたエレクトリックギター色の強いアルバムとなったのです。
MONSTER解説
1曲目の”What’s The Frequency,Kenneth“は、アップテンポのディストーション・ギターのリフから入る曲です。CBSのニュースキャスターのダン・ラザーが暴漢に襲われたときのことを書いた曲です。
2曲目の”Crush With Eyeliner“は、ピーターのギターのフィードバックから始まります。付点8分音符のディレイを使った印象的なギターの曲で、U2のエッジとは違ってピーターは、歪んだギターで行っています。
次の”King of Comedy“は、マイケル・スタイプお得意のボーカルにエフェクトをかけた曲です。コミカルな題材の曲で、マイク・ミルズのベースとビル・ベリーのドラムのリズム隊がキモの曲です。
“I Don’t Sleep,I Dream“は、これぞR.E.M.といった浮遊感のある曲で、ピーターお得意の少し歪んだアルペジオに、マイク・ミルズのコーラスワークが絶妙です!5曲目の”Star 69“は歌詞が聞き取りにくいほどのエフェクトがかけられています。アップテンポのライブ映えしそうな曲です。
そして、バラード曲の”Strange Currencies“に繋がります。ここでもピーターは、エレキでバッキングギターを弾いています。7曲目の”Tongue“は、オルガンのバッキングが印象的で、なんと!マイケル・スタイプがファルセット(裏声)でボーカルしている珍しい曲です。
“Bang and Blame“では、再び付点8分音符を使ったギターに戻ります。そして、9曲目の”I Took Your Name“でも同じように激しく歪んだサウンドになっています。10曲目のレット・ミー・インは、カートに捧げられた曲で、エレキギターとボーカルによる弾き語りスタイルです。後半部分では、ストリングスも入ります。
そして、このアルバムのハイライトともいうべき曲11曲目の”Circus Envy“に入ります。アルバムのモンスターという題名は、間違いなくこの曲の歌詞から取られています。東洋チックなAメロのリフとメロディ、そして一転してシンプルで強烈なBメロのアップテンポの曲です。
そして、このまま壮大な広がりと、多国籍的な浮遊感のある”You“に繋がります。私的な恋の曲のような歌詞ではありますが、意識の深淵のような広がりを感じる不思議な曲です。サーカス・エンヴィとユーは、49分12曲のアルバムのラストを締めるのにふさわしい名曲です。
曲のクレジットは、バンドメンバー全員の名前です。とても民主的で公平な分配だと思います。プロデューサーはスコット・リットとR.E.M.でエンジニアはパット・マッカーティーです。スコット・リットは、R.E.M.の1987年のドキュメントから1996年の”NEW ADVENTURES IN HI-FI“までの6作品を手がけた名プロデューサーです。
ピーター・バックの使用機材について
ピーター・バックといえばリッケンバッカー!ピーターは、リッケンバッカー360をデビュー当時から愛用しています。このギターは、2008年のライブ後に盗難されてしまったようです。ピーターは、他にリッケンバッカー330や370の12弦ギターなども使用しています。
アンプはVOX AC30で、エフェクターはプロコRATやVOX V847を使用しています。リードよりもバッキングギターの達人というイメージのピーターらしいセレクトだと思います。
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モンスターでは、ディストーションの激しいギターによるバッキングが印象的でした。1996年のニュー・アドベンチャーズ・イン・ハイ・ファイでもリッケンバッカーは使われています。
ニュー・アドベンチャーズ・イン・ハイ・ファイは、ドラムのビル・ベリーが在籍していた最後のアルバムです。バンドの絶頂期はここまでで、R.E.M.はこれ以降、徐々に影響力を失っていきます。
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