天気の子 その2:ネタバレ有りレビュー

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7月19日から公開された、新海誠監督の最新作、『天気の子』。2回目のレビューは、ネタバレ有りとなります。まだ、劇場で観ていない場合は、前回のレビューの方をオススメします。

目次 この記事の内容

  • 雨続きの東京が晴れる時
  • 東京の異常気象と人柱としての巫女
  • 陽菜を救う代わりの大きな代償
  • 最後の選択に対する賛否

雨続きの東京が晴れる時

出典 https://hlo.tohotheater.jp/

前回で、あべのアポロシネマで初日の昼間の回を観に行ったことを説明しました。今回は、冒頭で告げた通り、ネタバレ有りレビューとなります。

ヒロインである、天野陽菜の母が入院していた時から、東京には雨が降っていました。陽菜は、母親に晴れ間を見せたくて、廃ビルの鳥居をくぐって積乱雲の上層にある不思議な世界へ行きます。そこで、雨の日でも願えば晴れを呼ぶことのできる能力を手に入れるのです。

次の場面で、主人公である森島帆高が、フェリーで東京に向かう場面に切り替わります。帆高は、須賀圭介にフェリーで命を救われ、何かあった時には、頼るようにと、一枚の名刺を渡されます。

帆高は、故郷の島から東京に憧れて家出してきた高校生です。当然ながら身元のはっきりしない高校生を雇うところはなく、帆高の高校生活は行き詰まります。所持金が少なくなり、ハンバーガー店でスープのみを飲んでいたら、バイト中の陽菜が3日も食べていない帆高に気づかい、ハンバーガーを渡すのです。

そして、万策が尽き、帆高は名刺の番号に電話します。そこには、須賀と夏美の2人だけの編集プロダクションで、学研のオカルト雑誌、ムーの下請けをやっていました。帆高は、住み込みという条件に飛びつき、怪しげなオカルトがらみの記事の手伝いを始めます。

夏美は、ホンダのカブが愛車の女子大生で事務所を手伝っていました。夏美のカブはピンク色で後で大活躍します。また、事務所には帆高が拾ってきた猫の雨も同居するようになります。須賀は、絵に描いたようなだらしない大人でしたが、帆高に対して何かと面倒を見ています。

実は、カブは新海誠作品には『秒速5センチメートル』などでも登場しています。意外と新海監督はカブ好きなのかもしれません。筆者も、もちろんカブは好きで、同じ系列のベンリィ50が愛車だった時期があります。

当初は、東京が嫌いになりかけていた帆高でしたが、事務所での生活に慣れてきて、エンジョイするようになりました。その時、いかがわしいスカウトに絡まれていた陽菜を救います。しかし、たまたま拾った銃(大きさからマカロフ?形状はトカレフっぽい)を使って威嚇射撃してしまい、後で窮地に立たされることになります。

そして、陽菜は、帆高に晴れをもたらす能力を見せ、2人は100%晴れ女というサイトで仕事を請け負うようになります。最初は懐疑的だった依頼主も、陽菜の能力が本物であることが解ると、掌を返すように、謝礼を増やしたり、感謝するようになります。

陽菜は弟のと2人暮らしで、母親が去年、他界していました(冒頭のシーン)。凪は小学生ながら、女の子にモテモテで、陽菜を意識し始めた帆高に先輩と言われるようになります(笑)。確かに、彼女持ちという点で、凪は16歳の帆高より経験豊富といえます。

2人の暮らすマンションに、大人(児童相談所の職員)が訪ねてくるシーンと、陽菜の様子から、公言している18歳ではないことが解ります。100%晴れ女の仕事中に、立花冨美という老人からの依頼のときに、『君の名は。』の主人公、立花瀧が登場しています。

そして、東京のいたるところで、集中豪雨が頻発したり、魚のような半透明の物体が目撃されるなど、異常な現象が見られるようになってくるのです。

東京の異常気象と人柱としての巫女

出典 https://tenkinoko.com/

花火大会の時の依頼で、テレビに100%晴れ女のことが放送され、仕事の依頼が多くなり、この仕事を辞めることを決意した帆高と陽菜。陽菜は、やりがいを感じていましたが、体調に異常が見られるようになっていました。

最後の依頼の前に、帆高は凪の助言を聞き入れ、陽菜の誕生日プレゼントを買いに百貨店に行きます。ここでも、『君の名は。』のヒロイン、宮水三葉が売り子だったりしています。

そういえば、前作でも『言の葉の庭』の雪ちゃん先生こと、雪野百香里が古文教師として登場していました。こういった遊び心は、新海作品には結構あります。

須賀と夏美は、神社の取材で、神主から話を聞きます。その時に、異常気象についての見解がありました。観測を初めてたかだか146年(東京気象台が観測を初めてからの期間)程度であり、神社の壁画は数世紀の年月を経ていることや、地球の歴史に比べるとはるかに短いのに、異常とは何を尺度にして言っているのかということです。

また、かつて巫女を人柱にして晴れを祈願したことにも触れ、不思議な能力を行使することに対する代償についても、ここで解るのです。

そして、晴れ女の最後の依頼が、須賀の娘との面会の日のことでした。須賀の娘は、喘息を患っていて、須賀の妻は亡くなっていました。夏美は須賀の姪であり、叔父の仕事を手伝っていたというわけです。

この時、夏美は陽菜に巫女と人柱の話をします。陽菜の方にも体の異常についての自覚がありました。そして、その帰り道で陽菜の体が浮き上がります。しかも、陽菜のマンションに警察が来て、銃の件と家出のことで、帆高のことを調べているようでした。また児童相談所も来ることが解り、凪も含めた3人は逃亡を決意します。

陽菜を救う代わりの大きな代償

出典 https://hlo.tohotheater.jp/

しかも、その日は異常気象によって、特別警報が出ていました。3人は、東京から離れようとしていましたが、電車が止まり、徒歩で泊まるところを探していましたが、子供だけでは泊めてくれるところはなかなか見つかりませんでした。

しかも、夏なのに雪まで降ってくるという異常ぶりに、子供達だけで外出しているところを不審がられます。2人を逃がそうと、警官と揉み合いになった帆高を救うために、陽菜が祈ると局所的な雷が車に落ちます。その隙に3人は逃走し、やっと見つけたホテルに一晩、2万8,000円(だったっけ?)も取られますが、帆高は支払います。

3人は楽しく過ごし、凪が寝静まってから、帆高は陽菜に告白します。陽菜は、手渡された指輪に喜びますが、体が徐々に透明になることを帆高に見せて、人柱のことを話すのです。

翌日、陽菜はついに積乱雲の上層に連れて行かれます。帆高と凪も警察に捕まり、帆高は、陽菜がまだ中学3年生で15歳だったこと、自分が一番年上だったことを知ります。これは、ハンバーガー店の首の件と、スカウトが警察に未成年者のことをうっかり喋っていたことから推測できました。

東京は、陽菜の犠牲のおかげで、昨夜の異常気象が嘘のように晴れ間を取り戻します。夏美と須賀の会話の中では、陽菜が人柱となって東京の気象を戻したことに触れていました。

帆高は、警察署から逃走し、陽菜を救いに行きます。廃ビルの神社に行けば、陽菜に会えることを感覚的に理解していたからです。その途中で、夏美がカブで通りかかり、逃走の手助けをします。ここで、カブの性能と、夏美の脅威的なライディングテクニックで、警察とカーチェイスを繰り広げます(全国のカブファン感涙のシーン)。


夏美のカブは水たまりで沈んでしまい、帆高は走って神社に向かいます。電車の止まったレールの上をひたすら駆けるシーンが印象的でした。ここまで、陽菜のために頑張れる帆高の姿には、強く人を想う気持ちがありました。偏狭な常識だけでは、こういった行為はできないことです。

そして、廃ビルに辿りついた帆高の前に、須賀と警察が現れます。最初は説得して警察に自首させようとしていた須賀は、警察が寄ってたかって帆高を追い詰める姿に激昂し、警官を突き飛ばします。女装して脱出していた凪も駆けつけ警官を抑えます。その隙に帆高は鳥居をくぐり、積乱雲の上層の世界へと転移されるのです。

その世界で、帆高はもう一度指輪を陽菜に渡します。そして鳥居の中で、陽菜が戻ることを願う帆高は、そのことを告げ、陽菜が存在する代わりに東京の空は、それから晴れることはなくなるのでした

3年後、高校を卒業した帆高は東京に帰ります。冨美と須賀に東京に雨が降り続け、水没しているのは、帆高と陽菜のせいではないと言われます。しかし、陽菜が今でも祈り続けている横顔を見た帆高は、自分達の選択が間違いなく今の東京の姿をもたらしたことを自覚しながらも、陽菜と再会し抱き合うのでした。

最後の選択に対する賛否

公式トレーラー2

前作、『君の名は。』では、隕石の地表での衝突は避けられなかったものの、村の住人を過去に遡って救うという、入れ替わりという特殊能力を駆使した災害予知がありました。ここには、記憶以外に代償はありませんでした。

『天気の子』では、人柱として選ばれた陽菜を救うことは、代償として東京の天候そのものを雨が続くままとなってしまうという、厳しい選択が待っていました。しかし、陽菜を大切に思う、帆高や凪にとっては、たとえ晴れが戻らなくても、陽菜に生きていて欲しかったのです。

白土三平の名作マンガ、『カムイ外伝』でも生け贄の少女の話があって、カムイはそれを救おうとするのですが、こちらはそのまま死を選びます。その選択は、とても苦いもので、カムイほどの優れた抜け忍でも、死を覚悟した人間は救えなかったのです。

結局、人を救うのは、人の強い気持ちであり、帆高の行為は、娘との生活のために保身に走ろうとした須賀を突き動かします。そして、陽菜にとっては、生きて帆高や凪と生活することが、何よりも大切なことだったのです。

例え東京の天気が戻らなくても、帆高にとっては陽菜に生きていて欲しかったのです。大きな代償は、抱えきれないほどのものですが、僕はこのラストで良かったと思います。個人の意思を全体のために圧迫する世界が、必ずしも正しいものであるわけはありません。

それは、保護されるべき兄弟を引き離そうとする児童相談所であったり、家出少年を連れ戻そうとする警察だったりします。陽菜と凪にとっては、児童相談所に介入された段階で、逃げるしかなくなってしまいました。また、東京に来て、須賀に出会い、陽菜に恋した帆高にとっても、警察に捕まって島に帰ることはできなかったのです。

結局、正しいと思って子供の意思を尊重しないのは、型にはめようとする社会の圧力そのものです。型にはまることを恐れる少年少女と、かつてそれを拒否した須賀の視点で展開する物語が天気の子です。須賀が最終的に、帆高の味方をするのは、一度社会に抵抗した経験のある大人だったからでしょう。

須賀は廃ビルの場所で帆高を一度は止めに入り、帆高が刑事たちに確保されるのを見ていられなくなって防ぐのです。帆高を支援し続けた須賀の葛藤する姿は、今の大人達の内面の相剋そのものなのです。

つまり、本能的に不思議なことや、若さ故の真っ直ぐさを認めていても、大人の場合は理性やしがらみによって封じられているものなのです。ここで帆高のやっていることを理解できるかどうかで、須賀同様に観客も試されているような気がしました。須賀は新海監督にとっても分身のような存在なのでしょう。

帆高の視点で展開されることの多い作品だし、何よりも陽菜を救おうとする帆高に共感する観客が大半だと思うので、この仕掛けに気づく人の方が少ないように思えます。帆高は、保護観察処分が解除された3年後でも、陽菜と再会し、その時の強い気持ちを持ったままです。

だからこそ、天気の子は、あのシーンで終わる必要がありました。つまり、3年経過して、水没した東京を見ても、その結果を正面から受けとめられるかどうかということです。帆高は、はっきりと選択した結果であることを自覚し、陽菜と生きる決意を新たにするのです。

この作品の大きなテーマは、信じることができるか、出来ないか、決断できるか、出来ないかではないでしょうか?帆高は若さ故に、信じて決断でき、須賀は大人だからこそ、戸惑うのです。結局最後は2人とも、陽菜を救うことに協力した結果、陽菜は救われたのです。

この『天気の子』はハッピーエンドであり、色々な人にオススメできる映画です。作画も脚本も素晴らしいので、新海監督のファンにもぜひ観てもらいたいし、アニメを普段観ない人にも劇場に足を運んで欲しいです。

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