ぼくの地球を守って:悪役が主人公?過去世の悲劇と現世での救い

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完結マンガの名作レビュー、第7回は日渡早紀の『ぼくの地球を守って』です。同タイトルのアニメ作品にも言及します。同じ前世の記憶を持つ7人の少年少女を中心に話が展開するSF作品です。

プロダクションI.Gの白眉

7巻168P 悪役として印象深い 小林輪

『ぼくの地球を守って』を初めて観たのは、NHKのBSで放送されていたときだったと思います。放送局の記憶があいまいですが、先にアニメの全6話を観て、この作品を知りました。

時期的には、原作マンガの最終巻が初版となっているので、1994年あたりです。というのも、アニメを観て原作マンガ21巻分を大人買いしたからです(笑)。

花とゆめコミックスを21巻分、ゴツい男が買うのはなかなか大変で、「妹が欲しがってるんすよ」とか妹いないのに言い訳しながらレジでお金を支払ったことを覚えています(涙)。

とはいえ、少女マンガには、少年マンガにはない要素がふんだんにあり、名作も少なくないです。前に紹介した萩尾望都のマンガなどは、もはや文学の名作並みといっても過言ではありません。偏見を持たずに男性にも少女マンガを読んで欲しいです。

アニメの方は、Ploduction I.Gが制作しており、このぼく地球(タマ)OVAシリーズが、アイジータツノコから社名変更した1993年に制作されています。ということは、当時のプロダクションIGのスタッフは相当気合入れて作ったようで、菅野よう子の名曲『時の記憶』のエンディングだけでも観る価値は充分あります。

1993年(OVAの1巻が12月販売)には、制作は始まっていると思うので、この時点では原作は完結していなかったことになります。原作者の日渡早紀によると、かなり意見を言い合って、このアニメの制作に関わったようです。

監督は『ファイブスター物語』、『風の名はアムネジア』のやまざきかずお、作画監督は、プロダクションIGの副社長の後藤隆幸が担当しています。

その甲斐あってか、アニメの出来が素晴らしく、途中で終わっているのにも関わらず、感動しました。特にシオン(主人公の小林輪の前世)が、養父のラズロとペット(同居人?)のキャーと別れるシーンは、涙なしでは見られませんでした。

このシオンの少年時代で回想は終わっています。OVAの6巻では、当然ながら21巻分は不可能だったので、単行本の8巻の途中でOVAは終了しています。シオンの記憶の回想部分で、少年時代までの話で一区切りとなってしまっているのです。

当時は、続きが気になって夜も眠れなくなってしまいました。ありったけの金をかき集め、単行本をせっせと買ったというわけです。

輪くんとシオンのキャラクター

1巻54P 輪とヒロインの坂口亜梨子

1巻の段階では、お隣の高校生、坂口亜梨子にちょっかいかける普通の小学生の小林輪というイメージでした。この時点での主人公は、明らかにヒロインである亜梨子だったのですが、徐々に輪くんが主体となっていきます。

小学生の男子あるある話で、気になる女子にちょっかいかけるというのがあります。輪と亜梨子の関係もまさにそれで、ガムを靴に吐き捨てたり、髪にガムを付けるというアホなことを輪くんは繰り返します(笑)。

ぶっちゃけ、小学生だから許されるいたずらです。そして、2人は動物園に行き、亜梨子の持つ動物や植物と会話できる(もしくは気持ちが解る)不思議な能力が描写されます。これは後述する亜梨子の前世のモクレンの能力なのですが、本人はこの時点では気付いてません。

この時点での日渡早紀の画力は、おせじにもうまいとはいえません。連載が進むにつれて画力が向上していき、コマ割も洗練されたものになっていきます。

そこで、亜梨子の同級生の小椋迅八と、同じ学年で迅八の友人の錦織一成と会い、前世の夢の話を聞きます。その夢の中で、迅八はギョクラン、一誠はエンジュと呼ばれる科学者でした。その様子を見て、嫉妬した輪と亜梨子がケンカし、輪はベランダから転落します。

その時に、輪は前世の記憶を取り戻します。一方、病院で眠ったままの輪を心配する亜梨子は、迅八と一誠から月の基地にいた7人の科学者のことを聞きます。そして、輪の意識が戻り、亜梨子に婚約を申し込むのですが、そのショックで亜梨子まで夢によって前世のことを断片的に思い出してしまうのです。

輪は、前世の技術者シオンの持っていた超能力を使い、暴走族のヘッドである松平タカシを脅します。松平は、東京タワーの改築工事を請け負っている土建屋で、輪の狙いは前世の月基地を作動させるための装置を取り付けることでした。

タカシの世話役である田村一登は、Sと名乗る輪と接触し、決着をつけようとします。一方、輪を除く前世の記憶を持つ3人は、Boo(ムーがモデル)の読者投稿欄に投書し、同じ記憶を持つ、リーダーのヒイラギである土橋大介シュスランの記憶を持つ国生桜と接触します。

2巻138P 過酷な前世の戦争の結末に絶句する3人 上のコマが大介、下段左から一成、迅八、亜梨子

その会合で解ったことは、月の7人は地球と異なる星からやってきた異星人であり、地球の科学力をはるかに凌駕する技術力を持っていました。月の7人の科学者は、地球を監視し、監察する任務があり、そのために月基地に滞在していたのです。

しかし、会合で3人が知ったのは、星間戦争で母星や敵対勢力が全滅し、帰れなくなったことです。しかも、月の基地内には伝染病が蔓延し、7人は次々と亡くなっていったのでした。

想像以上に過酷な内容に3人は絶句します。一方で田村は輪と対決し、超能力によって敗北します。輪は、装置の設計図を田村に渡し、その場を去ります。田村の友人の笠間春彦も、シュウカイドウと呼ばれる月の科学者の転生した地球人でした。

春彦は、田村の危険を察知し、テレポーテーションで廃工場に向かいます。そこで見たのは、工場から移動する輪ことシオンの姿でした。松平は、田村を見舞い、改築工事に輪ことシオンの設計した通信装置を取り付けることを決めます。

3巻の段階では、輪は完全に悪役で、読者からの抗議も凄かったようです(笑)。モンテ・クリスト伯や、オペラ座の怪人のような悪の魅力を持つ早熟の小学生といった感じです。しかし、輪と春彦の出会いによって、シュウカイドウが過去に犯した罪が明らかにされます。

シュウカイドウは、伝染病に対抗するためのワクチンを開発するのですが、1人分しか作れませんでした。迷わず自分に打つつもりでしたが、伝染病が発病したため、それも叶わなくなりました。マドンナだったモクレンと婚約したシオンに嫉妬し、シオンにワクチンを打ち、モクレンには栄養剤を注射しました。

シオンに対する些細な報復のつもりでしたが、輪と高校生である6人との9年の年の差は、シオンが月基地で1人で生きた時間差でした。9年間の孤独の末、シオンは発狂し、発病して死にました。その記憶が、輪を苦しめているのです。

ぶっちゃけ、シオンの復讐したくなる気持ちも解らなくないです。また、愚かな戦争を繰り返している人類を月基地の科学力でコントロールしようとする目的も。

ただ、あまりにも常軌を逸したやり方であり、月の仲間と連携する前に陰謀を画策するのには、他に理由がありそうでした。月の仲間との会合には、シュウカイドウと偽って近づき、春彦にはシオンとして接するように指示します。これにより、完全に月の仲間は騙されます。

田村は、輪の超能力に対抗するために、京都の友人の弟である優れた地球のエスパーである薬師丸未来路と会い、協力を要請します。田村にとって死んだ弟に似た春彦も輪ことSと同種の能力があることを、未来路(ミクロ)は指摘します。田村の説明した能力の違いに「そいつ人間ですのん」と田村に言うのです。

田村は、タカシの世話役として京都に行きます。春彦は、過去に犯した罪を償うことを決意します。5巻の途中で第1部は終了します。

エスカレートする輪の行動とシオンの過去

7巻89P 死ぬほど怖い森の子ヤギの歌 下段は春彦

春彦は、田村に自分の前世のことを書いた手紙を送ります。輪は、会合で春彦に対する他の仲間の不信感を強め、基地を遠隔操作するためのキーワードを7人から聞きだそうとします。春彦からキーワードを入手し、次に会合で桜もキーワードを話してしまいます。リーダーの大介に止められて他の4人のキーワードは開示されませんでした。

しかし、春彦が未来路と接触したことを輪に知られてしまい、輪は田村と未来路を排除しようとタカシを誘拐します。このときの「森の子ヤギの歌」を歌う輪くんは本当に怖い!アニメでもここの演出には力が入っていました。

タカシを救出にきた田村を救うため、未来路と春彦は超能力で対抗し、異なる能力の最大出力に、超能力が反発し合い暴発します。そのため、輪は深手を負い、病院に入院することになります。


そして、ここからシ=オンが主人公となる過去の回想編となります。戦災孤児だったシオンは、大母星の月(テス)超能力(サーチェス)を使って兵士を殺してしまいます。その後、仮の母星ことシアの孤児院に引き取られました。

人の住める状態に戻った大母星を巡って、3つの星の勢力が争い、その手始めにテスで戦争が起きました。シオンは、テスで孤児となってしまったのです。ここで注目したいのは、シオンの孤児としてのコンプレックスです。

対照的な人物として、ギョク=ランが登場してきます。ギョクランは、裕福な家庭の子供として、孤児であることを理由にいじめられているシオンを庇います。シオンは自分のために泣くギョクランに対して、抑えていた感情を揺さぶられ、イラつきます。

8巻182P 孤児としていじめられるシオンとギョクラン

望遠鏡を使った星の観測会に招待され、ギョクランの家に行ったシオンは、ギョクランの家族に暖かく接せられます。しかし、家族との暖かな団欒の中に入ることなど出来ないシオンにとって、このやり方は逆効果でした。シオンは、ますますギョクランに対するコンプレックスを募らせることになるのです。

輪の迅八に対しての必要以上の警戒心は、このシオンの幼年期の記憶と無関係ではないでしょう。実際に、シオンにとってのライバルは、ギョクランであり、モクレンを除いて、一番関心があるのはギョクランだからです。

中等部(地球での中学生くらい?)からのシオンの知り合いのシュウ=カイドウは、共通の友人のギョクランとシオンのケンカの仲裁役でした。シオンとギョクランは、恋愛や勉強でライバル関係にあり、しばしば激突することが多かったので、シュウ=カイドウがとりなすことが多かったのです。

ただ、シオンにとってギョクランは、憎しみだけでなく、心理的に余裕のない自分を一番理解して欲しい相手でした。しかし、裕福でおおらかな性格のギョクランにはシオンの立場や心理は根本的には理解できません。

ギョクランにとっては、優秀で周りの目を気にせず、孤独なシオンのことは友人として一番気になる存在でした。ギョクランは、恵まれていて、その立場に疑問を感じないからこそ、シオンのことが理解できていないのです。この点については、シュウカイドウの方が、シオンのことが解っているように思えました。

一番恵まれているはずのモクレンが、実はコンプレックスの塊であったことが、シオンとの間に強い絆を作るのは皮肉なことでした。シュウカイドウよりもギョクランをライバル視するシオンという関係が、そのまま輪の迅八に対する異常なほどの警戒心に繋がっていることです。

現世でも恋のライバルになるのは、迅八だと思っているからです。その証拠に春彦をシオンに見せかけ、迅八に対する予防線にしています。

8巻 P126 ラズロとキャーとの別れ

その一方で、シオンが幼い頃に、一時的に里親になってくれたラズロとジーニャン星系の珍獣、キャー(巨大なネコ)の存在がシオンにとっての救いでした。ラズロは、親としての愛情をシオンに注ぎ、シオンにとって、ラズロとキャーは家族でした。

しかし、たった78日間だけの生活で、ラズロとキャーは交通事故で死んでしまいます。2人の死はシオンにとって大きな影を落とすことになります。

ここはアニメで、素晴らしい演出をします。一時的に輪が病院で目覚めるのは、ラズロとキャーが死んだときのことで、亜梨子が病院で輪のために歌い、シオンにとっての救いと輪にとっての救いの両方が描写されます。

つまり、アニメでは最終話までやらないので、一番途中で救われるシーンをクライマックスに持ってきたのです。そして、「みおくる夏」というタイトルの輪の詩の朗読でアニメは終わるのです。

モクレンの過去と東京タワー決戦

14巻98P シュウカイドウの罪を告白する春彦

このあとZ=KK101と呼ばれる地球に一流の技術者となったシオンが向かうのですが、ここからの回想はシオンよりもモクレン編でやります。単行本では、8~11巻の序盤までがシオンの回想となっています。

ここまでシオンの過去を知ると、単純な悪役として輪を見ることは出来なくなります。つまりぼく地球は、この時点で輪が主人公の話になってしまったのです。作者もモクレンの回想編である程度、ヒロインの亜梨子にも見せ場は作るのですが、強烈なシオンと輪のキャラクターの前に、完全に主役が入れ替わってしまうのです。

迅八は、キーワードの共通管理という輪の提案に乗り、過去にけじめをつけようとします。一成も最初はしぶりますが、キーワードを迅八に教え、輪はこれで5人分のキーワードを入手します。

輪は、母親にシオンの人格で疑われ、田村と未来路の来訪によりそれは、決定的になります。輪は病院を抜け出し、もぐりの医者の森先生と路上生活者のブンさんに拾われます。

亜梨子、迅八、一誠の3人は、京都への修学旅行の途中で、田村に会いに行きます。そこで、春彦がシュウカイドウであること、現世での輪ことシオンの行ってる陰謀について語ります。そして、9年間もの孤独に、シュウカイドウがシオンを追いやったことも話しました。

この話を聞いて激怒したのは、迅八でした。ギョクランの記憶を持つ迅八にとって、ライバルであり友人だったシオンに対する仕打ちに我慢できなかったのでしょう。そして、修学旅行中に春彦は、テレパスによって誘導し、モクレンの記憶を亜梨子は取り戻します。

これにより、キチェ=サージェリアンとしての証であるキチェと呼ばれる額の紋章も亜梨子に浮かび出るようになります。15巻からモクレンの過去編となるのです。この過去編に関しては、幼少期の父母との思い出、キチェ=サージェリアンであることを降りて、子供を授かった両親と祖父母との確執が描かれています。

というのも、キチェ=サージェリアンは、サージャリズム(信仰の対象)と一般人を繋ぐ、貴重な種でした。原則として処女、童貞でないとキチェスでいられないのです。しかし、モク=レンの両親は、キチェであることを降りてしまい、祖父母に与えられていた政府からの助成金も打ち切られてしまったのです。

そして、祖父母によって、楽園と呼ばれるキチェ=サージェリアンの施設にモクレンは入れられてしまうのです。また、生まれつき体の弱かった父も死に、母も後を追うようにして亡くなりました。

モクレンにとって、父母に対する世間の目は自分に向けられたものでもありました。それ故にキチェスの持つ優越感とは正反対の劣等感を抱くようになったのです。しかし、本人の気持ちとは関係なく、両親ともキチェで能力の高いモクレンは次代のキチェスの希望となってしまいました。

そのため、憧れていた恋愛を経験することもなく、成人してしまったのです。そして、Z=KK101こと地球に惹かれていたモクレンは、KKへの転属を求めます。もちろん、政府が許すはずもないのですが、キチェの最長老の助けで、KKに配属されることになるのです。

16巻68P 7人と初顔合わせのモクレン

KK101に配属されてから、シオンに関心を持つようになります。割とミーハーでイケメン好きにモクレンは描かれていて、シオンやギョクランに対して、好意を抱くようになるのです。理想の女性のように振舞っていたシオンの回想と合わせて読むと(作者も推奨)あまりのギャップに笑いが止まりません。

シオンは、モクレンのことを最初は邪険に扱うのですが、これには理由がありました。ギョクランに好意を持っているエンジュの恋を応援したかったからです。シオンは、かなり複雑なキャラクターですが、本気でギョクランのことを嫌っているわけではないことが、ここから解ります。

KKの植物の名前と自分達の名前が似ていることから、漢字読みでモクレンは、木蓮、シオンは紫苑と呼ぶようになるのです。木蓮は、紫苑と仲直りしようと、色々な手段で近づこうとしますが、失敗続きで落ち込みます。

当初は、優しく接してくれたギョクランこと玉蘭に心が傾き始めた木蓮ですが、惑星間戦争で7人の科学者の星系が全滅したことを知り、半狂乱になります。そこで玉蘭は、木蓮に助けを求め、木蓮は玉蘭と距離を置くようになるのです。対照的に紫苑は、キチェスではなく、人間として木蓮のことを見ていてくれたのです。

ここで、三角関係の決着はついてしまいました。そして、KK降下案を提案した紫苑と、木蓮は、リーダーのヒイラギことと、玉蘭の反対により降下案は具現化しませんでした。

シュスランこと繻子蘭は当初、地球降下に賛成でしたが、侵略できるほどの設備を月基地が持っていることを危惧しました。紫苑は、キーワードを繻子蘭から聞き出そうとして、拘禁され木蓮は紫苑を救うために尽力します。

そして、紫苑は報復のために木蓮を部屋に招きいれ、暴行します。木蓮は、紫苑のことを愛していたために、これを許し、2人は婚約するのです。2人にとっての最大の誤解は、玉蘭に寂しさをアピールするために利用されたと木蓮が感じたことと、玉蘭から無理やり奪ってしまったと紫苑が勘違いしたことです。

この負い目が、現世での異常なまでに迅八を警戒する輪と、覚醒を恐れる亜梨子という構図を生んでしまったのです。後は全員伝染病にかかり、シュウカイドウこと秋海棠の策略により、最後に紫苑を残して木蓮は死んでしまいました。

ここで解ることは、前世の記憶を持つということは必ずしも幸福なことでないということです。秋海棠の犯してしまった罪や、紫苑の記憶に引っ張られてしまった輪などが、その例だともいえます。

筆者も自分の前世がとんでもない悪人だったら嫌ですし、運よく善人でも、なんでもない人生しか送っていなかったら失望するでしょう。よしんば、英雄だったとして、現世と比較したら虚しいでしょうし、大事なのは今の人生だと思います。

亜梨子の覚醒と同時に、輪は行動を開始し、大介から柊のキーワードを奪います。そして、亜梨子を捕らえてキーワードを聞き出そうとして、木蓮が本気で紫苑を愛していたことに気付くのです。

亜梨子は輪に基地を爆破することを条件にキーワードを話します。それは、ザイ=テス=シ=オンという紫苑のフルネームでした。

21巻 94P 東京タワーでの輪

輪は東京タワーに向かい、亜梨子は未来路と東京タワーに向かいます。ここで不思議だったのは、亜梨子もサーチェス使えなかったっけ?ということでした。木蓮は何しろ、サーチェスの上位互換といえるキチェ=サージェリアンだし、未来路のテレポート使う必要はないのでは、という疑問がありました。

ただ、最近になって読み返してみたら、木蓮や亜梨子は、輪のバリア解除と動物や植物との意思疎通くらいしか、サーチェスを使っていません。ということは、瞬間移動(テレポート)や、念動力(サイコキネシス)関係の能力は苦手で、テレパシーなどの思念に関する能力に長けているのがキチェ=サージェリアンではないかと思いました。

何とかして、輪のキーワード入力を阻止しようと未来路は説得しようとしますが、遠慮のない輪に対して、未来路は戦うことをためらいます。未来路はテレポートで難を逃れ、田村は迅八のテレポートで東京タワーに着きます。

田村は、輪の説得をしますが、戦争の悪夢を引き合いに出されて否定されます。しかし、亜梨子の捨て身の説得で、輪はコントロールではなく爆破を選びます。これは、紫苑の思惑がコントロールであったのに対して、輪の行いたかったのは爆破でした。成長した輪の意識が、紫苑の記憶に引っ張られなくなったということになるのです。

ぼく地球は、輪が過去と対決し、成長することで過酷な紫苑の記憶を乗り越える話でした。月基地は、紫苑が最後に作った立体投影装置により、木蓮の歌で植物の成長が止まらなくなり、機能しなくなったのでした。輪の一番の不安は、この立体投影装置の存在で、紫苑が発狂してからの記憶がなくなっていたことでした。

最後に、東京タワーから落下した輪を救ったのは迅八でした。亜梨子は輪に告白し、迅八は結局現世でもふられることになります。輪と紫苑の復讐は終わり、平和が戻りました。

悪役と主役=2つの側面を持つ紫苑と輪

20巻137P 輪と亜梨子

ぼく地球(ぼくの地球を守っての略称)の凄いところは、悪役である紫苑と輪が、過去編を描写することによって主役になるところです。本来なら二律背反した要素がうまく成り立っているのは、小学生である輪の年齢設定、紫苑の過酷な過去の2つが読者の共感を得たからです。

7~8巻での京都での戦闘の際、輪は完全な悪役でした。秋海棠との過去のいきさつは、この時点で明らかにされていましたが、どちらかというと、田村や春彦、未来路の方が平和を守る側であり、輪は目的のためには手段を選ばない悪の存在でした。

しかし、8巻から11巻までの紫苑の過去編を読むと、その印象は一変します。紫苑の過去は、読者の視点を紫苑=輪中心に向けさせていきます。そのため、当初は主人公だった木蓮=亜梨子は、印象が薄くなっていきました。

作者が15巻から17巻、そして19巻の一部で木蓮の過去編を描いたのは、木蓮=亜梨子の存在感を強める目的と、異なる視点で同じことを描いてみるという試みのためです。紫苑の回想のときとは違い、木蓮の人物像は、ミーハーで芯は強いけど、普通の恋愛に憧れる快活な女性といった感じです。

東京タワー決戦で輪を止める役割を果たしたことで、メインヒロインとしての存在感を取り戻した形になりました。中盤で完全に主役は輪になってしまい、「土壇場で男を上げた」迅八と同じように亜梨子の存在感が薄れてしまったのは、紫苑の過去編の描写が長すぎた結果だといえます。

しかし、この紫苑の過去編がなければ、悪役である輪が主役になり、東京タワーを使って月基地をコントロールしようとする行動に筋が通らなくなります。日渡早紀が見事なのは、輪廻転生という題材を使って、過去世に苦しめられる輪というキャラクターを生み出したことです。

小学生の男子が、超能力を使って陰謀をしていたら、ただの嫌な悪役にしかなりません。しかし、過去世の過酷な記憶があれば、復讐という非生産的行為にも同情すべき点が出てくるのです。

輪くんが、紫苑としての過去を乗り越え、亜梨子と結ばれたことは、この作品にとっての救済と同義語でした。『ボクを包む月の光』『ぼくは地球と歌う』といった続編もあるのですが、ぼく地球の結末が好きなので、まだ読んでいません。

ぼく地球は、1980年代当時の戦士症候群を引き合いに出される作品です。しかし、主人公である輪の苦悩のことを考えると、前世を知ることはいいことばかりでないということを、しっかり描いています。筆者も前世のことはさっぱりわかりませんが、それでいいのでしょう(笑)。

少女マンガには、このように登場人物の心理を深く掘り下げる作品が多いです。もちろん、少年マンガや青年マンガにも、浦沢直樹のように心理描写に長けたマンガ家はいますが、女性の感性とは違う角度から見ているような気がします。

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