ロックとは、大衆の音楽(ポピュラー・ミュージック)です。高いギターだけでなく、安価なギターを使用しているギタリストも多くいます。今回は、その中からチープなギターを使っていたロック・ギタリストを紹介していきます。
ムスタングと100万ドルプレーヤー
出典 https://zimtrim.tumblr.com/ ジョニー・ウィンターとムスタング
ジョニー・ウィンターといえば、泣く子も黙る「100万ドルプレーヤー」という異名を持つギタリストです。ジョニーの愛器として有名なのが、ギブソン・ファイヤーバードです。しかし、1969年にレコード会社と契約したときには、フェンダー・ムスタングを愛用していました。
100万ドルで契約したのに、なぜに安価なムスタング?という疑問があります。ジョニー・ウィンターにとって理想のトーンは、フェンダー・ストラトキャスターなのですが、ストラトはロングスケールでテンションの高いギターでした。
スチューデント(初心者用)ギターとして、ショートスケールのムスタングなら、ジョニーにとって、ちょうどいいテンション感だったというわけです。ストラトのテンションの高さにスムーズにチョーキングが出来なかったと後にジョニー本人が語っています。
筆者が投稿したこの記事の動画バージョンです。
ファイアーバードは、ギブソンの典型的なミディアムスケールでしたし、ミニハムのおかげでフェンダーとギブソンの中間のようなトーンでした。ムスタングを使っていたのは、おそらく1年程度でしょうが、よくデュオソニックと間違われます(実は筆者も勘違いしていました)。
というのもムスタングには、ダイナミックトレモロという、ストラトのシンクロナイズドトレモロの簡素なバージョンが取り付けられているのですが、構造上チューニングが狂うことが多かったのです。ムスタング(暴れ馬)のネーミングはここからきています。
ジョニーは、このトレモロ機構を潔くとっぱらい、ぱっと見デュオソニックのような見た目のギターを弾いていたわけです。本人の証言によると、1969年製のムスタングのようなので、前回のパティ・スミスの記事は、ここで訂正します。
チャーとムスタング
出典 https://www.zicca.net/ チャーとシグネイチャー・ムスタング
ムスタングといえば、日本の名ギタリスト、Charです。ぶっちゃけ、日本のムスタング人気は、チャーの使用のおかげです。チャーは、基本的にストラトも使っていますが、代表曲”SMOKY“のイメージはムスタングなのです。
スモーキーのマイナー9thは、ムスタングのようなショートスケールのギターでなければ思いつかなかったと、チャー本人が語っています(ギターマガジン参照)。
チャーが、ムスタングを購入したいきさつは、メインで使っていたストラトが盗まれ、安価なギターとして米軍基地のバザーに出ていたムスタングを買ったからということです。
1970年代当時はあまりムスタングを使っているミュージシャンもいなかったし、フェンダーといえば、ストラト、テレキャスのイメージでした。しかし、チャーがムスタングを愛用し始めると、日本全国のギターキッズは、ムスタングを求めました。
この熱意に応えて、フェンダー・ジャパンでは1980年代にムスタングを生産しました。安価でこぶりで軽い日本製のムスタングは、カート・コバーンが愛用していたことでも知られます。
エピフォン・ジャパンとノエル・ギャラガー
出典 https://store.ishibashi.co.jp/ エピフォンのノエル・ギャラガー・シグネイチャーモデル スーパーノヴァ
フェンダー系のギターばかり紹介してしまったので、ギブソン系の安価なギターも紹介します。エピフォンは、1957年にギブソン社に買収されてから、ギブソンのギターも製造し続けました。
有名なのが、ビートルズが使用したエピフォン・カジノなどですが、1960年代は、ギブソンのカラマズー工場で生産されていたことから、製品の質も高く、ギブソン本家に負けないクオリティがありました。
1970年代には、日本の工場に生産を移転し、1982年頃にはアジア諸国でも生産開始されました。そして、ギブソンの安価な下位ブランドとして、エピフォンが扱われたのもこの頃からです。
ギブソンのギターは当時、SGでも10万円以上、レスポール・スタンダードは20万円という価格でした。エピフォン・ジャパンのギターは、5~8万円で購入でき、且つ質も高かったのです。
そして、1990年代にオアシスがデビューし、リードギタリストのノエル・ギャラガーが、エピフォン・ジャパンのリビエラを使っていました。セミアコ構造のリビエラのオリジナルはミニハムのため、エピフォン・ジャパンの復刻版の2ハム仕様だと思われます。
ノエルは、他にエピフォン・ジャパンのレスポールやシェラトン、シグネイチャーモデルのスーパーノヴァなどを使っています。最近ではギブソンを使うことが増えていますが、デビュー当時はエピフォンのイメージの強いギタリストでした。
スチューデントモデルの特徴と生産国によるコスト削減
筆者のギブソン レスポールJr.
ギターの生産コストを下げるためには、単純に考えて2通りの方法があります。1つ目は、フェンダーやギブソンがスチューデントモデルでやっている、設計段階でのコスト削減のための努力です。
今回紹介したムスタングの場合、ボディ材を安価なポプラにして小ぶりにし、ショートスケールによるネック材の全長を短くすることで、材を切り詰めます。次に、ストラトのシンクロナイズドトレモロよりも、パーツ点数の少ないダイナミックトレモロを採用し、ボディのコンター加工を減らします。
ギブソンの場合、レスポールJr.でやっているパーツ点数の削減とアーチトップ加工を無くすというやり方など、試みは様々です。
2つ目は、生産国を変えることによる人件費の削減です。エピフォン・ジャパンの場合、7~80年代は日本で生産することで、人件費を抑えることができたのです。フェンダーが、メキシコに工場を作り、フェンダー・メキシコとしてコストを削減している例があります。
2年前に購入したギブソン・レスポールJr.が思った以上にしっくりきていて、最近ではメインのヘリテイジと同じくらいの比率で弾いています。ロックにとって裾野を広げることも大切なので、これからも安価で入手しやすいギターは生産され続けることでしょう。
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