ヤマハ MT-09シリーズ:軽量3気筒からアドベンチャースタイルまで

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ヤマハ MT-09は、軽量な845cc直列3気筒マシンとしてデビューしました。その後、トレーサー900、XSR900といった派生モデルが登場し、ライダーの要求に応じて様々なタイプが用意されています。

目次 この記事の内容

  • マスター・オブ・トルクな3気筒バイク
  • MT-09の特徴
  • TRACER900:アドベンチャーモデルはツーリング向け
  • XSR900:ネオレトロなカスタムベースの渋い奴
  • 3種類のバイクとそれぞれの個性

マスター・オブ・トルクな3気筒バイク

初代MT-09

2014年から販売開始された新たなMTシリーズは、パラツインのMT-07、直列3気筒のMT-09という2車種がメインでした。MT-07は689ccで700ccクラス、MT-09は845ccで900ccクラスで、数字が排気量を表しています。

2012年度のNCシリーズによる大型市場の席巻は、ヤマハにとって死活問題でした。ホンダの販売力と徹底的なコストカットによって、新車で6〜80万円台で購入でき、燃費は脅威のリッター30kmに近い数値を叩き出すNC700シリーズは、バイク業界の事件でした。

NC700シリーズには、メットインスペースと、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)と呼ばれるオートマ機構のモデルまで用意されていたのです。ヤマハは、あえてDCTもメットインも採用しませんでした。

新車で6〜70万円台(2014年当時)の軽量でスポーティーなパラレルツインのMT-07、マスター・オブ・トルクというコンセプトの3気筒ならではの走りを楽しむMT-09が8〜90万円台で用意されていたのです。

ぶっちゃけ、NCシリーズのコンセプトをそのまま流用してもヤマハの勝ち目が少なかったのだと思います。NCシリーズに対抗するために、ヤマハらしい安価でも走りを楽しめられるマシンを作ったことが、MTシリーズの人気の最大の要因です。

排気量が大きい、MT-09は珍しい水冷DOHC直列3気筒エンジンを搭載していました。3気筒と言えば、イギリスのトライアンフのイメージがありますが、日本車ではとても珍しいエンジン形式です。

日本車にとって、直列4気筒の大排気量バイクは高性能の代名詞でした。1960年代後半に登場したホンダCB750 K0のイメージ通りに、国内メーカーはSSなどに4気筒のエンジンを搭載してきました。

ヤマハは、845ccのMT-09のエンジン形式として3気筒を採用しました。2気筒のように軽量化でき、4気筒のように高回転まで回ると言われている3気筒です。つまりは2気筒と4気筒のおいしいところを兼ね備えたエンジン形式というわけです。ヤマハは、1970年代にGX750で3気筒を作ったことのあるメーカーです。

そして、ヤマハがマスターオブトルクと称するのは、クロスプレーンコンセプトによって、3気筒ならではのトルクの豊さによるエンジン特性からきています。公道での走行時に、8.9kgf・mものぶ厚いトルクで力強い加速を楽しめられます。

それでも当時は、ヤマハが3気筒を採用してことに対して驚きの声が多かったのは事実です。MotoGP元年の2002年にホンダが投入してきた4ストロークのV型5気筒のレーサーRC211Vも奇数の気筒数マシンとして、デビュー当初は話題になりました。

ヤマハは、ハンドリングのいいマシンを作っているイメージがあります。MT-09は、3気筒で軽量な車体188kg(ABS無しの初代モデル)で、クイックなハンドリングのバイクです。

MT-09の特徴

出典 https://www.ysgear.co.jp/ AUTHENTIC外装キット(別売12万6,500円)を装備したかつての名車RZを彷彿させるMT-09 スクリーンはヤマハ純正で別売

MT-09は3気筒エンジンという日本車には珍しい、エンジン形式のバイクですが、他にも特徴があります。まず、モタードバイクのような幅広のバーハンドルによるポジションです。

このようなハンドルポジションは、ストリートファイターとしては異例です。軽快なハンドリングをイメージすると、近年ではオフロードバイクに17インチのロードタイヤを履いたモタードになります。MT-09は、あえてモタードのようなポジションになるように、幅の広いハンドルを採用しています。

MT-09は、大型バイクなのでZR指定の17インチの120/70/17と、180/55/17というサイズになっています。軽快なハンドリングを強調するなら、リアタイヤの幅が160というサイズにした方が良かったかもしれません。タイヤの幅は、ハンドリングに関係してくる問題です。

重量級のCB1300シリーズと同じサイズというのは、ポピュラーなタイヤサイズの方が、交換時に選択肢が多くなるからではないでしょうか。

それでも、900ccクラスにしては軽量な193kg(ABSが標準装備となった2代目)と1440mmという短めのホイールベースによって、軽快なハンドルリングとなっているのは、さすがヤマハ!といった感じがします。

もう一つのポイントは、14Lと意外に少なめのタンク容量です。ツーリングマシンというよりは、軽快に峠や街乗りに向いたマシンだということがこれで解ります。実燃費に近いWMTCモードで19.7km/lは、ハイオク仕様で275kmというロードバイクとしては少なめの航続距離となっています。

ヤマハ MT-09 (2017年モデル) スペック表

MT-09
最大出力 kW(PS)/rpm 85(116)/10,000
最大トルク N・m(kgf・m)/rpm 87(8.9)/8,500
車体サイズ 全長・全幅・全高 mm 2,075×815×1,120
車両重量 kg 193
燃料タンク容量 L 14
使用燃料 無鉛プレミアムガソリン

8.9kgf・mもの最大トルクは、8,500回転で発生します。1万回転で発生する116PSもの最大出力と相まって、中低速域での分厚いトルクと高回転まで回す爽快感を兼ね備えたエンジンであることが解ります。

B、STD、Aと3つのモードで選択できる出力特性も、雨天、通常、峠などのシーンで使い分けられます。更に2016年モデルからは、2段階のトラクションコントロールシステムも追加されています。

それでいて、車重は400ccクラスのバイク並みの193kgなのですから、ハンドリングも軽快です。MT-09でもし大きな燃料タンクを採用していたら、この操作性は実現しなかったでしょう。

2017年からの現行モデルでは、スリッパークラッチ、クイックシフター(アップのみ)などの豪華な装備がついています。また、外観は2眼LEDヘッドライト、LEDテールランプに変更されています。

現行のMT-09はABS標準搭載モデルのみで、102万円(税込み)となっています。これだけの高性能が、この価格で買えるならむしろバーゲンプライスといっていいでしょう。

2018年からは、SPモデルも追加されています。SS並みの性能のKYB製倒立フロントフォークや、オーリンズのフルアジャスタブルサスペンションなど、単体で購入するだけで13万円くらいするパーツが付いて、113万円と11万円しか本体価格が上がっていません。

後付けでサスを交換するほど、走りを重視する人にオススメなのがSPです。ノーマルの方が柔らかめのサスペンションなので、普段使いを重視するならノーマルという選択肢もありだと思います。

TRACER900:アドベンチャーモデルはツーリング向け

トレーサー900

アドベンチャーモデルとして2015年に登場したMT-09 TRACERですが、どちらかというとアドベンチャールックのツーリング向けモデルという印象が強いです。というのも、タイヤサイズは17インチとロード向けでキャストホイールだからです。

アドベンチャーモデルとしてオフ向けの車両は、フロント21インチやら19インチといった大径ホイールを装備しています。またオフロード向けの車両の場合、スポークホイールというしなりのあるホイールを装備しています。

ただ、オンロードを走行する場合、17インチタイヤは有利です。ぶっちゃけた話、この手のアドベンチャーモデルは、フラットダートが走られれば十分というユーザーも多いので、ツアラーとして考えると17インチもありだと思います。

しかし、214kgの車重と比較的穏やかな出力特性のBモードや、トラクション・コントロールを併用すれば、フラットダート程度ならこなせられる実力はあります。

流石にオフロードをゴリゴリ走るなら最近発表されたヤマハ テネレ700か、ホンダのアフリカツインなどがアドベンチャーモデルとしてオススメです。オンロードの性能重視ならトレーサーは、フロントカウルで走りやすくなった防風性能の高さからツアラーに向いています。

また、2018年からのモデルチェンジで、TRACER900と改名し、よりツアラーらしい性能になりました。決め手はスイングアームを60mm延長したことによる、ホイールベースが1,500mmとなったことによる直進安定性の高さです。


MT-09は、1,440mmのホイールベースと14Lタンクによる軽快感から峠を楽しむタイプでしたが、トレーサーは延長されたホイールベースと18Lタンクの航続距離により、ツアラーとしての特性をより強化したといえます。

つまり、キャラクターをはっきりさせることでトレーサー900の長所を伸ばす結果となったといえます。そしてMT-09には装備されていないセンタースタンドが、個人的には気になりました。チェーンメンテなどで、センタースタンドがあるととても便利だからです。

ぶっちゃけ、ツーリングも含めた用途ならトレーサー900が一番オススメできるモデルです。また、2018年のモデルチェンジに追加されたGTは、クイックシフター(アップ方向)とクルーズコントロール、グリップウォーマーやフルカラーTFT液晶、フルアジャスタブル倒立フロントフォークにプリロード調整式リアショックが付いています。

ノーマルには、MT-09同様に3つの出力モードやトラクション・コントロール、スリッパークラッチなども搭載されていますが、価格はトレーサー900が113万円(税込み)、トレーサー900GTが122万円と9万円くらいしか変わらないので、GTの方がコストパフォーマンスが高く感じます。

XSR900:ネオレトロなカスタムベースの渋い奴

XSR900

ヤマハ XSR900は、MT-09をベースにしたネオクラシックバイクです。しかし、一般的なネイキッドのデザインと異なり、懐かしさの中にも先進性のある要素も取り入れられています。

ぶっちゃけ、クラシックなネイキッドバイクの外見が好きなバイク乗りが多い中で、現代のネオレトロ風にしたことは挑戦だったと思います。しかし、MT-09やMT-07とフレームを共通にすることで、XSRシリーズは価格を抑えることができています。手の届く価格で提供できるオートバイにしたかったのでしょう。

デザインの多様さがあった方が楽しいので、こういった試みは素晴らしいと思いました。筆者は、昔ながらの日本車ネイキッドバイクの外観も好きで、XJRが懐かしく感じられますが・・・。

特筆すべきは、メーターのデザインが丸いLED風の凝ったものになっていることです。それぞれの用途に合わせて、MT-09は小型の液晶メーター、トレーサーには、大型のTFT液晶で情報量が多いタイプを、そしてXSR900には、ネオレトロな外観とマッチする丸型メーターを用意しています。

はっきり言ってコストを重視するなら、某メーカーのように同じメーターを使い回した方が有利です。ヤマハは昔からデザイン面で勝負するオートバイメーカーなので、メーター周りのデザインにも手を抜きません。

そして、一番のポイントはSR400と共通のイメージで、カスタム前提にしていることです。兄弟車のXSR700も含めて、カスタムのベース車としての魅力もあるのがXSR900のいいところです。

そして、ポジションはハンドルの形状などは変わらないものの、シート高を少し上げて、後方寄りにすることでネイキッドらしさを演出しています。また、フロントフォークとリアサスは硬めにセッティングされています。つまり、よりカッチリした方向に持っていくことで、動きにメリハリをつけたということになります。

車重や燃料タンク容量は変わらないので、MT-09同様の軽快感は残したまま、より通常のネイキッドに近いハンドリングに仕上げたということになります。XSR900はカッコ良く街乗りしたり、カスタムベースにしたりできる楽しいバイクです。

3種類のバイクとそれぞれの個性

出典 https://www.yamaha-motor.co.jp/ アイキャッチ画像も同じ

今回紹介したMT-09と、その派生型と言えるトレーサー900、XSR900はそれぞれ明確な用途があります。MT-09は街乗りから峠といったシーンを重視して、軽快感のあるハンドリングが売りのバイクです。

トレーサー900は、ツアラー向けに安定志向のハンドリングと防風性能のあるカウルを装備しています。XSR900は、ストリート向けのネオレトロバイクで、カスタムベースといった棲み分けがあります。

筆者がこの3台から選ぶならツアラー特性の高いトレーサー900GTを選択すると思います。燃料タンク容量が18Lあって航続距離が長いのもポイントです。しかしながら、軽快感のあるMT-09や、ネイキッド的なハンドリングのXSR900も十分に魅力があります。

ヤマハは3車種をリリースしていて、845cc3気筒マシンをうまく販売していると思います。共通のエンジンやフレームを使っていても、味付けしだいで、ここまで走りのイメージが変わる車種を3つも用意するヤマハは凄いです。

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