1990年代のグランジのカリスマ、NIRVANAの3枚目(メジャー移籍2枚目)のアルバム、”IN UTERO“は傑作と呼ばれた”NEVERMIND“と比較して暗く、アンダーグラウンド色の強い作品でした。
COBIN:モンタージュ・オブ・ヘックから見るカートの実像
出典 https://www.amazon.co.jp/
ネヴァーマインドについて、Rock名盤解説を書いてから、ニルヴァーナに関する記事はこれで最後にしようと思っていました。転機は、つい最近CS放送でドキュメンタリー映画、”Kurt Cobain:Montage of Heck“を見たことです。
ネヴァーマインドと比較して、この1993年に発表されたイン・ユーテロは一般向けのアルバムではありません。全体的に暗めで、当時のカートのナイーブな叫びが剥き出しの曲が多く、通しで聴くのが辛いアルバムでした。
ロックは、ネガティブな感情を発露することもありますが、あくまでも聴くに足る範囲でのことです。イン・ユーテロは、あまりにも常軌を逸していて、プロデューサーのスティーヴ・アルミニの手腕を疑ってしまうほどでした。
https://youtu.be/fSJax63BRsI
筆者が投稿したこの記事の動画バージョンです。
しかし、COBIN:モンタージュ・オブ・ヘックを観賞した後に、改めてイン・ユーテロを聴き直してみると、当時のカートの置かれていた状況から色々なことに反発する必要があったのだと思いました。
特にカートの妻コートニー・ラブに対するマスコミのバッシングと、娘のフランシス・コバーンに対する中傷の数々は、客観的にみて酷いと思いました。ジョン・レノンの妻、オノ・ヨーコに対する非難のようにカリスマロックミュージシャンと結婚するのもたいへんだと思います。
しかし、この映画でも描写されているように、カートもヘロインとは無関係ではありません。カートの自殺の原因の中に、ヘロインや家族との関係もあったのも、また事実なのです。
モンタージュ・オブ・ヘックは、ニルヴァーナのファンなら見て損はない映画です。監督は、ブレット・モーゲンで、カートの娘であるフランシス・コバーンが製作総指揮をしています。
カートの子供時代から、ハイスクール時代、音楽をやり始めてお金のない時期や、ニルヴァーナでの成功、コートニーとの結婚から娘の誕生、そして自殺未遂まで描かれています。
カートの家族や、ニルヴァーナのベーシスト、クリス・ノヴォセリックのインタビューなど関係者の証言も貴重です。また、インディーズ時代のライブの映像もあったり、レディング・フェスティバルや、MTVアンプラグドといった有名な映像も効果的に使われています。
IN UTERO解説
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1曲目の”Serve The Servants“は、不協和音のノイズから始まる曲です。印象的で退廃的なリフや、ノリの良さそうな曲調とは裏腹に、カートの声はぶっきらぼうで不機嫌な調子です。それもそのはず、カートの父母の離婚について書いてある歌詞です。
次の”Scentless Apprentice“は、ドラムのデイヴ・グロールや、ベースのクリスがクレジットに記載されているこのアルバム唯一の曲です。ダークでハードな曲調で、カートのボーカルは神経を逆なでするような叫びで満ちています。この曲がもう少しマイルドな出来なら、アルバム全体のバランスが良くなるのにもったいないです。
3曲目の”Heart-Shaped Box“は、ニルヴァーナの名曲の一つで、この曲と最後の曲”All Apologies“の2曲のみスコット・リットがミックスを担当しています。この曲も”Smells Like Teen Spirit”のように静から動へと抑揚のきいた曲です。コートニーとの生活を書いた歌詞から、内省的なアルバムを象徴する曲だと思います。
次の”Rape Me“は、完全にアウトな曲名でアメリカでは販売当時”Waif Me”と曲名を変更されていました。天才といえども、これはアカンやつだと思います(笑)。ジェーンズ・アディクションの”Ocean Size”のような過激な歌詞で、ネイティブならドン引きするレベルです。
この曲をMTVアワードの授賞式で演奏してしまうのだから、完全にイカれてます。カートの精神状態を如実に表すエピソードです。曲自体の出来はいいのですが、歌詞とタイトルのせいでボリュームを上げて聴くことができません(涙)。もう少しカートに意見できる面子がいなかったのでしょうか?
“Frances Farmer Will Have Her Revenge on Seattle“は、比較的キャッチーなナンバーで、続く”Dunb“は浮遊感のある曲でドラッグの体験を基にしている可能性のある歌詞です。ヴァイオリンのメロディラインが絶妙で、これぞニルヴァーナ!という出来の曲だと思います。
7曲目の”Very Ape“は、鬱なカートの心情そのままの曲です。よっぽど色々なことにうんざりしてたんでしょう。そして、続く”Milk It“ではもう・・・絶句。この曲をなぜアルバムに収録することを許可したのか意味が解りません。
9曲目の”Pennyroyal Tea“は、シングルカットされるほどの出来のいい曲です。カート独特のメロディラインと、抑揚の効いた曲の構成といいこのアルバムのハイライトの一つです。
カートのメロディラインや、独特のギターリフは、感覚的でマネできないものだと思います。耳コピなどで模倣は出来ても、カートのように作曲できないというべきでしょうか?よくあるパクリバンドが出なかったのも、カートの持つアクの強さによるものだと思います。
次の”Radio Friendly Unit Shifter“でもノイジーでアンダーグラウンドな曲調を展開し、11曲目の”Tourette’s“では、もはや意味不明なレベルになってしまいます。
このアルバムの最後を締めるのは、名曲”All Apologies“です。デイヴ・グロールは、カートが死んだ1994年のララパルーザで、この曲を流しているのを聴いて泣いたそうです。
東洋的なメロディラインは、カートの敬愛するR.E.M.からの影響を感じさせます。マイケル・スタイプは、カートと交流し、自殺の直前にも連絡を取り合っていたといいます。マイケルは、年の離れた友人の状態を気にかけていました。
このアルバムは、カートの遺作でありグランジの世代にとっての象徴だったニルヴァーナの最後のアルバムです。カートは、1994年4月、自宅でショットガンを自ら頭部に撃って自殺しました(他殺との疑惑もあります)。
ニルヴァーナの残したもの
今も活躍しているフー・ファイターズのデイヴ・グロール
ニルヴァーナが、世界の音楽シーンに与えた影響は多く、「グランジ」というジャンルの象徴となりました。同時代に活躍していた他のグランジバンド、ダイナソーJr.やパール・ジャム、ピクシーズなどと共に一時代を築きました。
アメリカのシアトルを中心に起こったムーヴメントが、世界を席巻しました。それまでにはびこっていたメタルや80年代の産業化したハードロックバンドに飽き足らない層にとって、グランジは刺激的な音楽だったのです。
カートの死は、グランジの時代の終息の始まりでした。1990年代の中頃には、ブームも落ち着き始めました。スマッシング・パンプキンスなどのグランジに影響を受けたバンドが台頭しました。
元ニルヴァーナのドラマーのデイヴ・グロールのバンド(当初はソロプロジェクト)、フー・ファイターズが、世界的に活躍するようになり、その血脈は絶えることなく次代に受け継がれることとなるのです。
ニルヴァーナは、インディーズ時代を含めて、たった3枚のスタジオアルバムしかリリースしていませんが、音楽シーンに与えた影響は多大でした。イン・ユーテロは、バランスの悪い面もありますが、それこそがアンダーグラウンドなバンドの真骨頂でもあります。間違いなく時代を変えた一枚だと思います。
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