青の騎士ベルゼルガ物語:白熱のボトムズスピンオフ!

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今回、紹介する作品は、『装甲騎兵ボトムズ』のスピンオフ小説、『青の騎士ベルゼルガ物語』と、その続編『K’』、『絶叫の騎士』です。ボトムズ本編よりもバトリング主体の物語は、男の血と汗と硝煙の香りがします。

ラノベの元祖?ソノラマ文庫

出典 http://www.votoms.net/ ボトムズ本編のル・シャッコのベルゼルガ

筆者が、この『青の騎士ベルゼルガ物語』のことを知ったのは、ソノラマ文庫の新刊が出ていないかと目を皿のように探していた時期のことでした。本屋は出版社ごとに棚が分かれており、今のラノベの元祖ともいえるソノラマ文庫は、小学生だった筆者には、大人の世界への案内版でした。

夢枕獏の『キマイラシリーズ』、菊地秀行の『エイリアンシリーズ』、富野喜幸の『機動戦士ガンダム』などの小説には、エンターテインメント性がありながらも、テーマが深く、アダルトな表現も含めて魅力的でした。小学生高学年といえば、ジャンプのマンガが幼稚に見えてくる時期でした。

今の文壇に苦言を呈するなら、スティーブン・キングのようにエンターテインメントと文学の書ける作家を育てることでしょう。最近の直木賞や、芥川賞がつまらないのは、読者を楽しませるものが不足しているからです。

筆者が投稿したこの記事の動画バージョンです。

少なくとも、今でいう中二病(笑)にかかっている生意気な小学生が読みたくなるものが、1980年代のソノラマ文庫にはありました。同時に大人の世界への入り口という雰囲気がありました。

当時の文庫は、定価400円で今のように消費税という悪税もなかったので、小学生のおこずかいでも買えたのです。はままさのりが著者の『青の騎士ベルゼルガ物語』の背表紙にはSFの2文字が入っていて、表紙にはベルゼルガの姿がありました。

ピンときたのが、日本サンライズ(当時)のアニメ、『装甲騎兵ボトムズ』のスピンオフです。ボトムズは、リアルロボットものの一つの極地でした。主人公キリコの無口な男らしいカッコ良さと、量産型のロボット(アーマードトルーパーという)のスコープドッグが主役メカで、乗り捨てされまくるという斬新なアニメでした。

出典 http://www.votoms.net/ ボトムズといえばスコープドッグ

ボトムズが、テレビ放送されたのは、同じ高橋良輔監督が手がけた『太陽の牙ダグラム』の放送終了後の1983年~1984年の4クール(1年間)でした。関西では、大阪テレビの19チャンネルの夕方に放送されていたと思います。

ボトムズは、当時流行していた新谷かおるのマンガ『エリア88』のオマージュのようなハードな世界が売りでした。ボトムズとは、アーマードトルーパー(略してAT)乗りの蔑称で、「最低の野郎ども」の意味です。

うらぶれた酒場に酒と女と荒くれどもという地球とは異なる銀河系のウドという星が中心の話から始まります。ボトムズは、基本的に星の名前を冠する4つの編に分かれています。

アストラギウス銀河のギルガメス星系とバララント星系の2つの勢力による百年戦争の終結から物語は始まります。1話目の『終戦』から始まるという斬新さに当時、びっくりした覚えがあります。

また、異常にカッコいいオープニングにハマって、これを観るために視聴していたといっても過言ではありません(サイボーグ009といいガサラキといい高橋アニメのオープニングは素晴らしい!)。

主人公、キリコが終戦後の世界で陰謀に巻き込まれていく話です。M級の量産機として普及しているスコープドッグは、ギルガメス星系ならどこにでも転がっているATです。それ故、破壊されようが、乗り捨てしようがキリコはどこでもスコープドッグで戦えるのです。

ベルゼルガの魅力

出典 https://www.amazon.co.jp/ 主役機ベルゼルガBTS 画像はボークスによるガレージキット

ベルゼルガ物語は、ボトムズ本編ではあまりやらなかったバトリングを主体にしたスピンオフ作品です。バトリングとは、AT同士で戦う賭け試合のことで、戦うことしか知らない兵士にとっての戦後の生活の糧でした。

キリコは、元レッドショルダー(メルキアの特殊部隊)の腕を見込まれて、バトリングをするのですが、ウド編の数回のみしか行っていません。

それに対して、ベルゼルガ物語の主人公、ケイン・マグドガルはバトリングを少なくとも50戦以上(巻中の資料参照)している強者です。ケインの搭乗するATベルゼルガは、ボトムズ本編ではクエント人の傭兵ル・シャッコの搭乗するATでした。

ボトムズのメカの中では珍しく、騎士のような装飾が施され、左腕のシールドに内蔵された伸縮する槍という必殺兵器、パイルバンカーの魅力もあって人気のあるATでした。ボトムズのATは、スコープドッグのように火薬によって伸縮する椀部のアームパンチという武器によって格闘戦をします。

ガンダムのモビルスーツに搭載されている格闘兵器は、ビームサーベルやらヒートホークといった、エネルギーを使う武器が主体です。対照的に安価に製造されたATは火薬とマッスルシリンダーという人工筋肉によって、格闘するのです。また、主な移動は二足歩行よりも、ローラーダッシュという車輪を使った走行になります。

ベルゼルガは、合理性の塊ともいえるATの中でも異色の機体です。大柄なクエント人が扱うことで知られ、H級と呼ばれる全高4.295mの大きさのATです。中間のM級の代表格、スコープドックの全高3.804mと比較すると、その大きさがよく解ります。ボトムズのATは、20m級のガンダムのMSとは異なり4m前後の大きさが主流です。

しかし、バトリングにおいてはプロレスのような派手さが好まれます。青の騎士というリングネームに、パイルバンカーという必殺武器というのは、物語性があってリング映えするので、ベルゼルガを主役機にしたのはいい判断だと思います。

物語は、百年戦争の終戦の7213年から2年経った、7215年のメルキアのとある街でバトリングをしているケインとベルゼルガのシーンから始まります。ケインは、その街で黒き炎(シャドウ・フレア)と呼ばれる男を探していました。

ケインにとっては、かけがえのない友人でベルゼルガの前のオーナーのクエント人、シャ・バッグの仇なのです。シャ・バッグは、軍で死亡扱いされて、お払い箱同然となっていたケインにとって、バトリングの師であり友でした。

ぶっちゃけ、ここまでならよくある復讐劇なのですが、ベルゼルガ物語はそれだけではありません。アグの街でシャドウ・フレアを追っていたケインは、情報部のミーマ・センファクター中佐の部下、ケヴェックから黒いATが結社と呼ばれる組織のATであることを聞かされます。

ここで解るのは、黒き炎がバトリングに参加していたのは、バララント陣営の新型ATのデータを集めるためということです。黒き炎は、バララントの新型ATがベースになっている機体でした。ギルガメスの諜報機関が動いているということは、なんらかの国家的陰謀が背景にあるということなのです。

アグの街で、黒き炎と遭遇したケインは戦闘中に、体が痺れ動かなくなります。これは、黒き炎の特殊な能力によって体の動きを封じられたからでした。

大破したベルゼルガと、左腕を負傷し、絶対絶命のピンチに陥るケイン。それを救ったのは、情報部のミーマと、マッチメーカー(興行師)のコバーン、ファニー・デビルと呼ばれるAT乗りのヒロインのロニーでした。

ケインは再び黒き炎と戦うため、ベルゼルガをコバーンとミーマの協力により、強化していきます。ベルゼルガはBTS-Ⅱ(別名処刑執行)というバージョンに生まれ変わります。

ミーマの持ってきたギルガメスの時期主力ATのFXシリーズと共通の新型マッスルシリンダーと、ジェットエンジンを仕込んだジェットローラーダッシュによる高速移動などの新装備を装備しています。

しかし、破壊されたパイルバンカーの代わりは、ボウの街にいるグレーベルゼルガから奪うしか方法がなかったので、ケインとロニーは、アグの街を脱出します。そのとき、受けた血友弾の影響で、ケインの右腕や全身から血が吹き出ます。

ケインは、そこでシャ・バックの恋人でマッチメーカーだったフィルと再会します。フィルは、黒き炎ことクリス・カーツと同じ融機人と呼ばれる機械と融合した存在でした。

出典 https://www.amazon.co.jp/ シーエムズ制作のシャドウフレア

クリス・カーツは、ラスト・バタリアンと呼ばれる異能結社を率いて、ワイズマンと呼ばれる、異能者の太古からの記憶を持つコンピューターで世界の実質的な支配者に、対抗するための組織を作っていたのです。ワイズマンは、ボトムズ本編でキリコに破壊されました

グレーベルゼルガの搭乗者は、ロッコルといい、クエント人でした。ロッコルは、シャ・バックを追いかけていました。ロッコルによると、シャ・バックが異能者(ボトムズの主役キリコも異能者)と呼ばれる特殊な人類を探していたこと、シャ・バック自身もまた異能者だったのです。

ロッコルは、ケインの体を調べて、ケインが異能者とも違う存在であると告げます。そクエント星から異能者を追い払ったベルゼルガと呼ばれる旧人類のことでした。ベルゼルガは戦闘能力が極度に高く、野生の本能に近い性質を持つといわれています。

ケインは、ロッコルからパイルバンカーを受け取り、ボウの街でのラスト・バタリアンとの戦いでロニーは負傷し、ケインはロニーをボウの街に残してアグに向かいます。

そして、アグで再び黒き炎と遭遇するものの、黒き炎はアグから撤退します。舞台は、宇宙に移ります。ラストバタリアンは、ギルガメスとバララントの戦争を利用して、その混乱の中で勢力を拡大しようとしていたのです。

アグから脱出したケインは、ミーマと合流し、ラストバタリアンの本拠地であるギグロリーと呼ばれる巨大戦艦に攻撃をしかけます。そして、相打ちに近い形でシャドウ・フレアをパイルバンカーで倒し、クリス・カーツの首をへし折ります。まさに、ベルゼルガの力が成した破壊でした。

そして、揚陸艇でメルキアに降下する直前に、ミーマから新たな認識票と、新型のFX-1ことブルーバージョン、ゼルベリオスを受け取ります。ゼルベリオスは、ベルゼルガを基に作られた白兵戦用のパイルバンカーを装備した青い機体です。

そして、開戦してからメルキアの都市が崩壊するなか、青い機体が佇んでいるのが確認されたのです。ここで、『青の騎士ベルゼルガ物語』は終わります。ソノラマ文庫版では、2巻分の物語でした。

ボトムズ本編もかくやといわんばかりの男の執念の話でした。ケインは、傷つきながらも黒き炎を倒し、異能結社の野望も潰えます。ボトムズ本編をフックにしながらも、見事なハードSFとして読み応えのある作品でした。

そして、この小説をベースにしたゲームも1997年にタカラトミーから『装甲騎兵ボトムズ外伝 青の騎士ベルゼルガ物語』というタイトルでPSで発売されています。

ボトムズから大きく逸脱した続編

出典 https://www.amazon.co.jp/ K’の主役AT ゼルベリオス

続刊の3作目、『青の騎士ベルゼルガ物語K’』は、前作に引き続き、はままさのりが執筆し、1986年にソノラマ文庫から刊行されました。ケインは序盤、クローマ・ツェンダーという名前で登場し、装甲猟兵のように生身でATと戦っていました。

というより、どう考えてもクローマが、ケインだろ!って思っていました。Zガンダムのクワトロ・バジーナ大尉のようにバレバレです。クワトロ大尉の場合、赤い機体に、赤いノーマルスーツって、お前シャアだって隠す気ゼロだろ!っていう別の問題がありますが・・・。

K’では、ゼルベリオスが主役メカとして登場します。ゼルベリオスは、FXシリーズのM級のATで3機しか製造されていないようです。ベースは、ベルゼルガでなぜかパイルバンカーが搭載されています。


そして、来る戦争に備えて、ギルガメス軍部は、兵士を徴用していきます。AT乗りをスカウトするためには、手段を選ばず、バトリングの興行も成り立たなくなっていきます。

ケインはメルキアに降下したゼルベリオスを破壊しようとしていました。ATに乗って戦えば、ベルゼルガの破壊衝動が働くからです。そこに盗賊が現れて、ケインはゼルベリオスを奪われてしまったのです。このシーンが冒頭であったため、クローマがケインであることは、読者には解っていました。

しかし、W-1(ダブワン)という機体を開発していた組織もケインを追っていたので、クローマのことを疑っているようでした。このW-1が曲者で、ケインの細胞のコピーで、肉の塊が自律的にATを動かしていたのです。

W-1とクローマが共鳴するというのは、よくあるSFの設定でいうところのクローンとの共振作用のことでしょう。このことだけでも、確実にクローマがケインであると解ります。

ぶっちゃけ、ロニーのことを探していたケインが、一瞬だけしか会えなかったのが、とても悲惨でした。しかも、その後すぐに殺されてしまうのです。ケインは、W-1を破壊し、W-1計画の背後にいる軍上層部のネブロウ・S・ロリンザーを追いかけるところで、K’は終わっています。

出典 https://www.amazon.co.jp/ ボークスのガレキ テスタロッサ

そして、4作目の『青の騎士ベルゼルガ物語 絶叫の騎士』は、1987年に刊行されました。この作品では完全に、ボトムズと設定が異なってしまっています。というのもロリンザーが、ミラフィラリの地の5,000年前の地層から発掘された、全てのATの祖であるレグジオネーターのテストパイロットだったからです。

前作には異能者や、ワイズマンの記述はあり、ここまでならボトムズ本編からの外伝として物語をとらえることも可能でした。しかし、ATの祖であり絶大な力を誇るレグジオネータが、ギルガメスとバララントの戦争を利用して世界を破壊し統治しようとしていたとなると、もはやパラレル世界として取り扱う他はなくなってしまいます。

そのため、ゲームでは2巻の内容までしか取り上げられていません。賢明な判断だと思います。ボトムズ本編のファンの多い、ベルゼルガ物語の読者の方も、こうなるとアンチに回ってしまいがちとなります。

筆者は、戸惑いはしたものの、パラレルと考えて『絶叫の騎士』を楽しみました。というのも、SFとしての壮大さや、レグジオネータに対抗する新型ベルゼルガ、テスタロッサがカッコ良かったからです。

ケインは、右足と左目を失いながらも戦い続け、最終的にはロリンザーを倒し、背後のレグジオネータと決着をつけるのです。しかし、途中から出てきた新しいヒロイン、マティを出すくらいなら、ロニーを生かしていても良かったんじゃね?と思ってしまいました。

それでも、SFとしての迫力は充分で、前述のボトムズ世界からの逸脱がなければ、もっと評価されていたのが、K’と絶叫の騎士だったと思います。ボトムズファンからの目線だと、後半の2作がやはり問題でした。ボトムズ本編の設定を根本から揺るがしかねない内容になっていたからです

赫奕たる異端との矛盾

出典 http://www.votoms.net/ バークラリードッグ

はままさのりは、アニメの脚本や小説、漫画原作などをてがけた作家です。ボトムズに関連する仕事としては、1986年に販売されたOVAのビッグバトルの脚本でしょう。ただ、少なくとも絶叫の騎士が書かれた1987年には、高橋良輔はテレビ最終回以降の話は作らないという発言のとおりに続編を制作する意向はありませんでした。

はままさのりは、おそらくその高橋監督の発言を聞いて、絶叫の騎士の執筆をしていたのではないでしょうか?テレビシリーズの後日談となる、『装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端』は、7年後の1994年にOVAシリーズとして販売されました。

この赫奕たる異端では、ボトムズ本編の32年後の世界が描かれていますが、FXシリーズは一切登場していません。ギルガメスの次期主力ATということなら、最低でもM級のカラミティドッグのグリーンバージョン(おそらくスコープドッグの後継機)くらいは登場するはずです。

公式によると、FX系はコストの高さや、ミッションディスクの不具合により採用されていなかったことになっています。というより、それだけK’や絶叫の騎士の話が、公式の続編である赫奕たる異端と整合性がなくなっていることの証左だと思います。

ちなみに、赫奕たる異端では、ギルガメスやバララントは後継機を一切使用していません。スコープドッグのバリエーションであるバークラリードッグと、エルドスピーネというATとそのバリエーションが新規に起こされたATです。

また、ロリンザーや、レグジオネーターが起こしたカタストロフィに関しても一切記述されていないので、どうやらK’と絶叫の騎士は無かったことにされたようです。そこは、ベルゼルガ物語のファンからすれば少し悲しいですが、ボトムズの続編はこの後も制作されたので、仕方のないことでしょう。

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