地雷震:90年代の闇を描く激辛のハードボイルド!

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完結マンガの名作レビュー、第2回は高橋ツトムの問題作、『地雷震』です。1990年代のマンガの中でも、激辛のハードボイルドとして名高い地雷震は、月刊アフタヌーンだからこそ連載できた作品です。

アフタヌーンは新人マンガ家の登竜門

3巻42ページ 人質の刑事と冷静な飯田

高橋ツトムのデビュー作、『地雷震』は講談社の週刊誌『モーニング』にて読みきりが掲載された後、姉妹誌である月刊誌『アフタヌーン』にて、1992年から連載開始されました。

アフタヌーンは、無名の漫画家でも掲載されることのある、若手マンガ家の登竜門的側面のあるマンガ誌でした。『ああっ女神さまっ』の藤島康介や、『寄生獣』の岩明均など、看板作家も掲載していたので、筆者(tkd69)もたまに読んでいました。

かわぐちかいじのアシスタントをしていた、高橋ツトムの地雷震が連載された当初、作者の力量の問題で絵はあまりうまくありませんでした。しかし、主人公の刑事飯田響也を始め、相棒の八巻(ハチマキ)、上司の成田といった男達と、ハードな展開には見るべきものがありました。

切れ味鋭い刃のような飯田の魅力

3巻180ページ 完全にビビッているハチマキと捜査する気満々の成田と飯田

実際に、グロック17をバカスカ撃つ飯田のような刑事がいるかどうか解りませんが、社会の暗部とまともに向き合うと、こういうキャラクターが必要になるのかもしれません。

飯田は、上司のとっつぁん(成田)でも制御不能な、犯罪を追いかける冷徹なハンターです。切れ味鋭い刃のような飯田の捜査のやり方は、敵味方にも多大な犠牲を出してしまうことが多いです。

3巻の後輩の刑事が、おとり捜査に失敗して人質に取られたときのエピソードが解りやすいです。狙撃用ライフルを構えた殺し屋に対して、人質の刑事は首に縄をくくられて暗い倉庫の真ん中の椅子に足を乗せています。椅子から足が外れると、ロープが首に食い込んで、人質が死ぬという寸法です。

飯田からは、狙撃手の姿は見えないので、細いロープをグロックで撃ちぬくしかありません。飯田は、数発撃って、ロープを撃つのをあきらめます。「お前を撃つ弾がなくなるんでな」と飯田は冷酷に告げ、刑事は泣き喚きます。

しびれを切らしたスナイパーが、椅子を撃ち、ロープが人質の首を絞めつけます。これでも飯田は動きません。狙撃手が、よだれを垂らした音が飯田の背後から聞こえます。飯田は振り向き、グロックを撃ち、狙撃手を倒します。

結局、人質の刑事は助かるのですが、一歩間違えれば確実に死んでいます。普通だったら20mの距離から細いロープに当てられるはずがなくても、助けるために全弾撃ってしまうところでしょう。飯田は、殺し屋を倒すことを計算して、冷静に判断して、行動しました。

ぶっちゃけ、上司の成田も相当なもので、娘の結婚相手の犯罪を、飯田から告げられたときの表情は、もはや鬼でした(大汗)。この面子の中での唯一の常識人である、八巻ことハチマキがビビッていたのは仕方ないと思います。

結局、成田は娘の敦子の結婚式の当日に、新郎を逮捕し、娘とともに結婚式の参列者に頭を下げます。飯田にとっても幼馴染である敦子の結婚の失敗は、最終回に影響するようになります。

高橋ツトムの画力について

2巻46ページ 画力が高くないので細部の書き込みが雑に見える

地雷震の初期から、見開きページなどのコマ割の大きい絵には、不思議と迫力がありました。高橋ツトムの絵が洗練され始めたのは、7~8巻あたりくらいでしょうか。7巻は末恐ろしい小学生の小池彩が登場した印象深い回が掲載されています。

9巻20ページより 細かいコマ割りでも画力が向上している

8巻でハチマキが殉職して、初めて剛志とがいう名前であったことが解ります。上海編が終わると、9巻から新しい相棒として相沢江理子という女性刑事がパートナーとなります。このあたりから格段に画力が向上してきます。

水彩画のような柔らかなタッチと、筆で書いたようなタッチの絵など、池上遼一や、井上雄彦の『バカボンド』にも通じる和風の試みが見られました。その独特のタッチは、絵が洗練されるとともに、表現の幅が広がっていくようになりました。

高橋ツトムは、2000年に地雷震の連載が終了してから、『鉄腕ガール』、『スカイハイ』と次々とマンガを描いていきます。地雷震以降の活躍は、長期連載によって、絵の技術が向上したことも原因の一つとなっています。

社会派のようなアプローチ

13巻199ページ 瀕死になりながらも写真を撮るカメラマンの斎木

10巻の話で、小佐野ヒロキという19歳のカリスマ小説家が、自分自身の自殺を宣言し、心酔する若者を巻きこんでいきます。小佐野は、「生に執着する姿は醜い」と言って、死を肯定し、その思想を映像と自らの著作によってばら撒こうとします。

飯田は、死とは「敗北だ」と答えます。そして、小佐野の思惑を両手を撃ちぬくことによって阻止するのです。13巻では、ヒトの殺意を撮る元戦場カメラマンの話が出てきます。

15巻では、母親に長い間監禁されていた少女Aが、週刊誌によってスクープされ、社会現象として、その虚像が作り出される事件が起こります。この話で、小池彩が再び登場し、飯田と相沢に協力します。


10巻以降は、人間社会全体の狂気というべきテーマに切り込んでいます。これまでは、強烈な個性の人物による狂気がテーマだったのですが、社会の空気や風潮といった目に見えない巨大なものを描写していくようになります。

飯田は、刑事として事件を解決しますが、社会全体は変わりようがありません。飯田のような優れたハンターでも、出来ることと出来ないことがあり、苦いラストで締めくくられる話が増えていきます。これは、社会派のようなアプローチだといえます。

飯田の物語としての地雷震

19巻174ページ ケイに敦子の影を見る飯田

これまで、飯田は色々な事件を取り扱ってきました。個人的な関わりの深い事件といえば、1巻の話と12巻でのリサとの話、そして最終回である“LIFE”です。いずれも、飯田を取り巻く女性の話です。最終回は、18~19巻の2巻にわたって書かれた長編です。

特にLIFEは、成田のとっつぁんの娘、敦子の死とその心臓を移植された殺し屋の天海ケイとの対決が描かれます。成田は、ケイに殺されます。ケイは、敦子の存在が、殺し屋という職業にとって、ハンデになると考え、その記憶を消すために、敦子と親しかった存在を消そうとします。

地雷震は、飯田を主人公として、様々な社会の暗部と狂気を描いてきました。飯田にとって敦子は、成田の娘であり、長い間自分を想ってくれた大切な女性でした。刑事として激しい生き方をするが故に、家庭的な敦子の愛情に答えることはなかったのですが、飯田にとって大事な存在であることは間違いなかったのです。

ストーカーによって、婚約者を殺された相沢が、飯田に「この先一番最初に救うのは身近な人間だと」約束して欲しいと告げます。飯田は、ケイと対決し、グロックの9mmパラベラムは、正確に心臓を撃ち抜くのです。

ここで、飯田の物語でもある地雷震は終わります。飯田の最も人間的な部分を描写した話で締めくくられたのは、地雷震という作品は、飯田の視点で展開されたものだったからです。高橋ツトムは、これ以降の作品で、飯田のような刑事が中心となった物語は書いていません(地雷震 -Diablo-を除く)。

高橋ツトムの描きたいテーマが、より巨大なものとなったとき、飯田の視点からの話では描写しきれなくなりました。そこで、飯田の個人的な話で締めくくることで、大きくなりすぎた風呂敷を閉じる必要が出てきたのです。最終話LIFEは、必然的に飯田のパーソナルな部分、すなわち関わりの深い人々との話になりました。

地雷震-Diablo-について

ディアブロ1巻より 目覚める飯田

地雷震の連載が終了してから8年後の2008年、アフタヌーンの増刊である『Good!アフタヌーン』で、『地雷震-Diabolo-』の連載が開始されました。この話で、飯田は失明している状態でした。ちなみに、ランボルギーニが登場していることからも解る通り、ディアブロとは悪魔のことで間違いなくスーパーカー由来です(笑)。

しかし、県警の木暮がドナーとなって片目の眼球を飯田に移植します。そして、飯田は目を覚まし、新たな事件と対決するのです。そして、成長した小池彩が飯田をサポートします(余談ではあるが木暮のことを彩がグレッチとギターメーカー名で呼んでいる)。

事件は、おそらく対馬がモデルの天座島(あまくらじま)で起きます。天座島は、新型インフルエンザによって、ほぼ壊滅状態となります。そのパンデミックを引き起こしたのが、北朝鮮の工作員であった朴(パク)で、木暮の妹は巻き込まれて死亡しました。

ただ、姪である玲奈と、その父で木暮の義理の弟の市川、医師の井坂は生き残りました。朴と天座島の生き残りの3人は、日本政府と北朝鮮に見捨てられ、結託して国を作り、バローマ国と名乗ります。

そして、飯田と木暮は公安にマークされるのです。地雷震の社会派テーマの回では、飯田が社会的な出来事に対して、あまり影響を及ぼせなかったことと比較して、今回のディアブロでは、公安と朴という国家の末端に繋がるターゲットを得たことで対決できるようになっています。

飯田が朴を倒し、玲奈と木暮を救出します。これまでの地雷震とは異なる結果で締めくくられています。これは、作者が飯田を活躍させられるテーマを見つけ、挑戦した作品だと思います。今のところ天座島の話(1~3巻で完結)で終了していますが、これからも続きを描くかもしれません。

地雷震は1990年代のハードボイルドの傑作!

19巻28ページより 殺し屋天海ケイ

地雷震は、1990年代のアフタヌーンで、真刈信二原作、赤名修作画の『勇牛』と共に2大ハードボイルド漫画として支えた傑作です。19巻で完結したことも、作品の勢いがなくなる前で、だらだら続けるよりは良かったと思います。

今のマンガ家や、マンガ雑誌に言いたいのは、あまりに長く続けすぎてマンネリ化し、つまらなくなっている作品が多いことです。もちろん、『キングダム』のような歴史マンガなどで、作品のスケールが、長期連載を要求しているケースもありますが。

地雷震は、世紀末の日本の狂気をうまく表現するマンガでした。高橋ツトムは、元不良のバンドマンという経歴から、セッションのような先鋭的な切れ味で、マンガを描きます。その視点から描かれた飯田の物語は、現代の日本にも通じるものを感じさせてくれます。

地雷震は、デイアブロ含めても22巻で読めます。しかも、その間中だるみせずに飯田のストーリーを完結させています。1990年代のハードボイルド漫画で、地雷震を超える作品はありません。ぬるい作品に飽きたなら、飯田の猛毒を味わってみることをオススメします。

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