∀ガンダム:牧歌的な雰囲気のある富野ガンダム!その1

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『∀(ターンエー)ガンダム』とは、1999年に放送されたテレビアニメです。ガンダムの生みの親、富野由悠季監督が自ら制作したガンダム20周年記念作品でもあります。従来のガンダムとは違い、牧歌的な雰囲気のある作風となっています。

Vガンダムからブレンパワード~ターンエーという流れ

出典は総て公式ページより http://www.turn-a-gundam.net/

左からカプル、ボルジャーノン(ザクⅡ)、ターンエーガンダム、ゴドウィン

今回、ターンエーガンダムを解説することになったきっかけは、キッズステーション(CSのアニメチャンネル)で全話一挙放送を観たからです。

1999~2000年にかけてターンエーが放送されたときには、あまりにも牧歌的な雰囲気のため、従来のガンダムファンからは否定されていましたが、『黒歴史』という言葉を広めたことからも解る通り、アニメファンからは高評価されています。

富野由悠季は、僕らのようなロボットアニメファン(オタクという呼び方は好きじゃない)からすると、超がつくほど有名なアニメ監督でした。『無敵超人ザンボット3』や、『機動戦士ガンダム』、『伝説巨人イデオン』などの数々の名作を生み出してきたからです。

1985年から放送された『機動戦士Zガンダム』以降は、ガンダム以外のアニメを制作する機会が少なくなっていきました。前年まで富野由悠季は、『戦闘メカ ザブングル』、『聖戦士ダンバイン』、『重戦機エルガイム』のような、オリジナリティの高いロボットアニメを監督していました。

筆者が投稿した、この記事の動画バージョンです。

当時の日本サンライズ(現サンライズ)にも、色々な事情があったのだと思います。結果的にZガンダムを作ったことが、その後のガンダムシリーズへの展開を広げていったのですが、富野監督からすれば、ガンダムという呪縛を解き放てなかったということにもなってしまいました。

結局、富野監督は、UC(宇宙世紀)0153年の『機動戦士Vガンダム』まで、描くこととなってしまいます。初代ガンダムが、UC0079ですので、74年もの宇宙世紀の歴史を作品上で描いたことになります。※小説『ガイア・ギア』を含めるとUC200年代まで

Vガンダムが放送された1993年~1994年は、サンライズという会社がバンダイ傘下に入るという事件の起こった年でした。Vガンダムは、Zガンダム以降のガンダムシリーズでも、1、2を争うほど陰鬱な作品となっています。これは、当時の富野監督の心理状態を反映していると言われています。

その後、宇宙世紀以外の数々のアナザーガンダムと言われる作品が、作られるようになったのは、富野監督がガンダムから距離を置いていくようになったからでもあります。結局富野監督が復帰したのは、1998年にWOWOWで放送された『ブレンパワード』からです。

1995年に放送された庵野監督の『新世紀エヴァンゲリオン』の大ヒットで、アニメ業界ではセカイ系と呼ばれる作品が氾濫していた時期に、富野監督が手がけたオリジナルアニメが放送されたのです。当時BSに加入していて、幸いなことにWOWOWの視聴が出来ていたので、全話観ました。

設定的には、生命エネルギーで動くアンチボディは、ダンバインのオーラバトラーのような原理で動く意志のある金属生命体です。

作中では、ヒロインの宇都宮比瑪にペットのように扱われることが多く、兵器というよりは人と馬のような関係に思えました。戦闘ロボものでありながら、謎の古代遺跡オルファンを巡る人間関係と、オーガニックマシンとの共生問題を描いた作品でした。

ブレンパワードは、かつての斬新なアニメを制作していた頃の富野アニメを彷彿させる出来でした。そして、1999年から放送が始まったのが、『∀ガンダム』です。

文明が退化した地球と未来的な月との対比

主役メカ ターンエーガンダム

1999年4月2日のターンエーの直前スペシャル『ターンAターン』である程度の情報はありましたが、第1話の『月に吠える』が始まったときには、色々と衝撃的でした。宇宙世紀から1万年以上経過した地球の文明レベルは、19~20世紀頃にまで退化しており、最新鋭の戦闘機がレシプロ機レベルという状態でした。

月の文明レベルは、かつての宇宙世紀以上のもので、ムーンレイスと呼ばれる月世界の住人は、地球帰還作戦の前の先行潜入員を地球に投入しました。主人公ロラン・セアックは、そんなムーンレイスの工作員の1人でした。ロラン、フラン、キースの三人は、モビルスーツ、フラットで地球に降下します。

ハイム家の令嬢キエルとソシエと知り合ったロランは、鉱山主のハイム家の運転手となります。同じ帰還作戦で地球に降りたフランは新聞社に、キースはパン屋に職を得ます。

ロランのいるアメリア大陸のイングレッサ領主、グエン・ラインフォードは、文明開化によって近代化を急ぎ、ミリシャという軍の編成をしていました。ロランが地球に降りてから2年が経過します。

ここまでが、ターンエーの第1話の内容です。もちろん、この段階でターンエーガンダムは登場していません。物語の重要なキーパーソンである月の女王、デイアナ・ソレルも、ロランの回想のみの登場です。

ロラン・セアックとキエル・ハイムに変装したディアナ・ソレル

しかも、主人公ロラン・セアックを担当している声優は、ガンダム主人公初の女性声優朴璐美(パクロミ)でした。朴は、富野監督のブレンパワードのカナン役でデビューしたばかりの声優でした。

少年であるロランの声に、女性の声優を使った理由は、ロランが中性的な美しい容姿をしているためだと思います。今思えば、朴璐美の起用も従来のガンダムには無かった要素でした。中性的なキャラクターは、ブレンパワードの天才少年カントという先例がありましたが、主人公になるのは富野アニメ初の試みだと思います。

このように、文明レベルが退化して、牧歌的な世界観の地球に、かつての宇宙世紀以上の技術を持ったディアナ・カウンターが地球帰還作戦を進めるわけです。常識的には、勝ち目のない戦いで、地球側は何とか交渉で月の勢力の武力行使を避けるように仕向けます。

第2話『成人式』で、いきなりディアナカウンターのウォドムが強襲してくるのですが、そこでホワイトドールと呼ばれる石像が動き出し、成人式に参加していたロランとソシエは、偶然にも起動したホワイトドールことターンエーガンダムに乗り込みます。

ターンエーは、いきなり反応し、自律的にビームライフルを発射します。その際、銃身が溶けてビームライフルは使い物にならなくなりますが、ウォドムを退却させることに成功します。

2話目にしてようやく、主役モビルスーツ、ターンエーの登場です。主題歌の『ターンAターン』もアニメ本編でのお披露目となりました。ターンAターンは、作曲を小林亜星、作詞を井荻麟(富野監督のペンネーム)、ボーカルを西城秀樹が担当しているノリのいい曲です。

テレビシリーズのガンダムのオープニング曲としては、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の名曲”THE WINNER”、『機動戦士ガンダムZZ』の『サイレント・ヴォイス』並みに好きな曲です。

それにしても、ミリシャの軍人は血気盛んで、テックレベルの優劣を考えずに、仕掛けることが多いです(大汗)。ディアナ・カウンターが、月の女王ディアナ・ソレルから武力の行使を限定的にするよう命令されてなければ、あっという間に制圧されていたでしょう。

ディアナ・ソレルは、第5話『デイアナ降臨』で地球に降下し、イングレッサの領主グエンと交渉を開始します。その間に、ミリシャは、考古学者のシドじいさんマウンテン・サイクルから、モビルスーツを十数機発掘します。それは、ガンダムZZで登場した水陸両用機カプールことカプルでした。

ターンエー本編ではカプールはカプルと呼ばれている

発掘されたカプルことカプールは、アクシズでUC0088年に生産されたネオ・ジオンの機体です。ガンダムZZ第24話にしか登場していなかったので、覚えている人が少ない機体でしたが、スタッフの個人的な趣味で登場させたらしいです。

実は、カプルは原型機であるカプールよりも高性能になっており、地上戦だけでなく宇宙でも活躍しています(めちゃ汎用性高い!)。カプルは、ターンエーの世界観に合うモビルスーツだったと思います。しかし、カプールってこんなに量産されてたっけ?

2人の女王とロランとローラ

女装したロラン(ローラ)と親衛隊長のハリー・オード

ターンエーと、カプルのモビルスーツ部隊と、地上の武器の混合戦力によって、ミリシャはディアナカウンターと対抗していきます。それでも戦力の均衡が確保できない状況で、グエンはロランを女性パイロット、ローラ・ローラとして舞踏会に参加させ、開明的な地球側としてアピールしようとします。

この第7話『貴婦人修行』は、相当ぶっ飛んだ回でした。ガンダム主人公が女装するのは、ZZガンダムのメインパイロット、ジュドー・アーシタが第40話でギャグで女装して以来の快挙?だからです。

しかも、その時に似合っていたのは、ガンダムチームの1人であるイーノの方で、ローラのように、女装したら美女もかくやという存在は史上初です。ぶっちゃけ、パイロットが女性も男性も能力があれば同じだと思うので、これはグエンの趣味とロランの素性を察していたからこその対応でしょう。

作中で美女ランクといえば、圧倒的にディアナ様とキエル嬢がトップ、次点がローラで次にグエンの婚約者のリリ・ボルジャーノ嬢です。一応、キエルはフラウ・ボゥのような可愛い系ヒロイン枠ですので、ランキングには入れてません。グエン閣下視点では、ローラがぶっちぎりのトップになってしまいますが(大汗)。

というより、オープニングの親衛隊長ハリー・オードの後ろの女性キャラ誰だよ?って思っていたらお前かーい!すっかり騙されていました。いつこのキャラ登場するんだろ?と期待していたら主人公の女装だったって誰得だよ(笑)。ハリーの搭乗するスモー(ゴールドカラー)が、この時点での月側の最強のMSです。

ハリーは、女装したロランとダンスをしていたり、ディアナの行動に振り回されることが多く、意外と2枚目のライバルというより3枚目キャラのような行動が目立ちますが、ロランと並んで作中最強レベルパイロットの1人です。基本的にディアナとキエルが信用するのは、ロランとハリーの2人ということになります。


作品的には、気が優しく、人殺しを好まないロランの性格を補強する設定だったと思います。おそらく、今までの少年パイロットとは違う主人公像をロランに求めた結果ではないでしょうか?

第8話『ローラの牛』で月の入植者にロランが協力して、疎開した無人の家から家畜を運ぶ話がありました。その際、ターンエーのミサイルサイロに牛を入れて運んでします。ターンエーは、橋の代わりになったり、洗濯したり、色々な使い方をされたガンダムとしても有名です。

月から連れてこられた一般市民が入植地で、地球人から批難を受ける様子に、ロランは胸を痛めます。そして、「僕はムーンレイスです!」とカミングアウトしてしまいます。

双子のようにそっくりなディアナ(右)とキエル(左)

この段階でロランがローラとしてムーンレイスであることが露見するのは、ディアナと瓜二つのキエル(ハイム家の長女)が入れ替わるための布石だと思います。一つの秘密が露見した後に、新しい秘密が生まれることによって展開に緊張感を持たせる効果があります。

キエル・ハイムは、グエンの秘書官として帯同していました。月の女王ディアナと双子のようにそっくりで、第10話『墓参り』で入れ替わります。ディアナがキエルとして頼りにするのは、ムーンレイスであり平和を望むロランです。8話でのロランのムーンレイスバレは、必要な要素であったことが、ここから解ります。

このあたりの話は、平安時代後期の、『とりかえばや物語』から着想を得たと富野監督が語っています。男と女の入れ替わりはロランとローラで、容姿の似た者同士の入れ替わりは、ディアナとキエルがそれぞれ担当しています。とはいえ、女装してローラになるのは2回だけなので、入れ替わり要素は2人女王の効果の方が大きかったですが。

しかし、その直後イングレッサの首都ノックスは、ミリシャの部隊の攻撃がきっかけでディアナカウンターの反撃を受け崩壊します。この時、積極的に攻撃したのは、冬眠刑から恩赦で地球に降下したコレン・ナンダー軍曹でした。

グエンは一時的に失脚し、イングレッサのミリシャは、アメリア大陸のルジャーナの領主ボルジャーノ家の作ったルジャーナ・ミリシャと共闘するようになります。ルジャーナ・ミリシャは、マウンテンサイクルからボルジャーノン(まんまザク!)と呼ばれるモビルスーツ(地球側は機械人形と呼称)を発掘します。

ボルジャーノンを運用するスエサイド隊の隊長、ギャバン・グーニーが乗っているのは、なんとザクⅠ!性能的に劣る機体になんで乗ってるの?と思ったら、希少価値があるからだとか、ビンテージ物みたいです(笑)。

月の女王とウィル・ゲイムの思い出

ディアナは大昔ウィル・ゲイムと恋仲になり、そのまま生き別れてしまう

ディアナは、キエルとして行動しているときに、かつて恋仲となって生き別れた青年ウィル・ゲイムにそっくりな男と出会います。ディアナは大昔(数百年前)に地球に来たとき、まるで竹取物語のように、様々な求婚者に対して、無理難題をクリアすることを結婚の条件にしました。

地球で世話になっていたゲイム家のウィルと恋仲になりましたが、ウィルは他の婚約者と同じように、東方の国の幻の鳥を追いかけて、行方不明となります。ディアナは、そのまま冷凍睡眠に入り、ウィルと生き別れになるのですが、その子孫のウィルと数百年経ってから出会います。

ウィルが、発掘していた宇宙戦艦はウィルゲムと名付けられます。ミリシャの協力で発掘は進みますが、ミリシャにウィルゲムを取られると思ったウィルは、発掘したモビルスーツ、キャノン・イルフートでディアナカウンターに協力します。ミリシャと戦闘になり、ウィルは死亡し、ディアナは悲しみます。

ここで登場したキャノン・イルフートは、ジム・キャノンに似ていますが15mクラスのモビルスーツです。『機動戦士ガンダムF91』のUC0123年以降の小型モビルスーツの系譜の機体かもしれません。

ここで、重要なのがディアナが地球に帰還した意味です。間違いなくディアナにとってウィルは、忘れられない人でした。ディアナ・ソレルは、文字通り千年女王といっていいほどの時を生きています。

冷凍睡眠(コールドスリープ)と月の先端医療で、19歳という肉体年齢ですが、好きな男性の生きた地で過ごし、残りの人生を全うしたいという思いが、ディアナカウンターの地球帰還作戦に繋がっているのです。

キエルが、ディアナとして活動している間、パーソナルなデータを読み取り、同じ女性としてディアナの悲恋に同情したのも無理からぬことだと思います。月の執政者として毅然と振舞っているディアナに協力する意思をキエルが持つきっかけになったエピソードがウィル・ゲイムとの悲恋なのです。

そして、キエルはディアナとして建国宣言を取りやめることを演説します。これによりディアナカウンターの軍人フィル大佐の反感を買うようになります。キエルにディアナカウンターを任していいとディアナ本人が思うほど、ディアナを演じてみせました。

マウンテンサイクルから発掘された専用ビームライフル(2個目)

キエルのディアナとして、ディアナカウンターの軍人を抑える行動は、徐々に軍人達との間に溝を生むようになります。ウィルゲムの飛行テスト直前に、ディアナカウンターは、大規模な攻勢に転じます。

ロランは、ターンエーでマウンテンサイクルで発掘され、ミリシャに協力する月の技術者によって整備された専用ビームライフルを使って迎撃します。

ここで、初めて大規模戦闘でターンエーがその性能を活用し、多くのモビルスーツを撃破します。とはいってもロランですので、熱核反応炉に直撃することや、コックピットは狙っていませんが。実はターンエーのビームライフルはセレクターで出力が制御できるようになっています。

ぶっちゃけ、過去のガンダム作品のビームライフルよりも高性能なのが、ターンエーのライフルです。通常のメガ粒子砲とは異なり、金属粒子を固有振動によって収束させ発射させます。

リフェーザー砲と呼ばれているもので、DHGCPと呼ばれるターンエーの縮退炉の強大なジェネレーター出力(27,000kWは宇宙世紀最強のガンダムであるV2アサルトバスターガンダムの7,510kWの3.6倍!)により、恒星間戦闘に使用することを想定したスペックがあります。

フルパワーで発射する場合は、オープニングのギミックのようにビームライフルの側面にあるグリップを操作してモード変換します。ロランがやたらとビームライフルを使うことを避け、格闘戦主体で戦うことが多かったのは、パイロットを死なせないためです。これはディアナにも厳命されていた描写がありました。

その後、ロストマウンテンに埋まっていた、核ミサイルがミリシャとディアナカウンターの戦闘で起爆し、ソシエ・ハイムに求婚していたギャバン・グーニーが巻き込まれて死亡します。この回が秀逸なのは、核のような危険で半減期の長い兵器が、後世に及ぼす影響について、考えさせる回となっていることです。

それをいうなら縮退炉を2つ積んでいるターンエーガンダムも充分すぎるほど危険な兵器なのですが、ロランが上手く活用しているおかげで、今のところ害にはなっていません。イデオンといい、富野アニメの発掘兵器は宇宙規模で危険な印象があります。

ロランは、ターンエーのミサイルサイロに、残った核ミサイルを2本積み、宇宙で核ミサイルを処理することを考えます。リリー・ボルジャーノンのおかげで、復活したグエン閣下や、ミリシャ、ディアナとしてウィルゲムに乗り込んだキエルとハリー大尉(中尉から昇進した)と共に宇宙を目指します。

その2に続く

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∀ガンダム:牧歌的な雰囲気のある富野ガンダム!その1」への2件のフィードバック

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