神林長平の傑作SF『戦闘妖精・雪風』。ジャムと呼ばれる未知の異性体に対抗するために作られた空軍は、偵察任務を重要視していました。深井中尉と雪風は味方を見殺しにしても帰還する過酷な任務を行なっています。今回は原作とアニメ版『戦闘妖精雪風』を解説していきます。
目次 この記事の内容
- ハードSFの金字塔
- 3DCGによる圧巻の空戦シーン
- メイヴのデザインについて
- セルからCGの時代へ
ハードSFの金字塔
『戦闘妖精・雪風』は、SF好きなら一度は耳にしたことがあるハードSF小説の金字塔です。1979年〜1983年に「SFマガジン」誌に連作短編の形で寄稿されました。作者の神林長平は、敵は海賊シリーズなどで知られるSF作家です。
南極に突如現れた回廊は、謎の異星体ジャムを地球に呼び込みました。人類は反撃を開始し、異次元への回廊に侵攻し、ジャムの星フェアリイに空軍基地を作ったのです。フェアリイ空軍に所属している深井零中尉は偵察任務行なっていました。
スーパーシルフFFR-31MR、零の機体には雪風というパーソナルネームが与えられていました。機首に書かれた雪風の文字は、零の友人であるFAF特殊戦の出撃管理担当のブッカー少佐によるものです。
筆者が投稿したこの記事の動画バージョンです。
雪風は、味方がジャムに撃墜されても、情報を持ち帰ることを主任務にしています。つまり味方を見殺しにしても帰還することが第一とされているのです。そして、雪風やスーパーシルフは、電子戦に必要なコンピューター(AI)が搭載されており、独自の思考パターンを持つようになっていきます。
つまり、ジャムという存在の他に、高度に発達したコンピューターという要素が重要なものになってくるのです。そして、他者に関心を極力持たないパイロット達による、偵察任務との組み合わせが、ジャムに対抗し得るとFAF特殊戦の副司令、クーリィ准将は考えていました。
つまり、敵であるジャムを理解することなくして戦いに勝利することなどできないということです。ジャムの目的や、ジャムの思考をとらえることができない段階では、兵力を損耗するだけでジリ貧だからです。
この作品が特殊なのは、偵察という行為が、ジャムという異星体、高度に発達したコンピューター、他人に関心を持たない零というパイロットを通じて、ヒトそのものに問いかけてくることです。
ヒトとは何か、雪風のような機械とのコミュニケーションはできるのか?ジャムは何をしたいのか?という問いかけが作品そのものに、深みを与えているのです。
1作目から8年後の1992年に、第2部である『グッドラック 戦闘妖精雪風』が発表されました。この2部では、雪風は自分のデータを新たなる機体、FRX-00(FF-R41)メイヴに転送します。雪風と零は、ジャムとの戦いにおいて、重要な位置を占めるようになっていきます。
3作目の『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』は、2006年からSFマガジンに不定期連載され、2009年に単行本が発売されました。
3DCGによる圧巻の空戦シーン
『戦闘妖精雪風』(・の表記がない)は、小説の2巻までの話を元に制作されたOVA(オリジナル・ビデオ・アニメーション)です。当初、戦闘妖精・雪風のアニメ化と聞いて不安になりました。というのも、かなりテーマが難解且つ空戦描写が緻密な本作を、うまくアニメ化できるのか?という疑念があったからです。
ところが、そんな懸念は杞憂でした。というのも、アニメーション制作をしていたのが、GONZOだったからです。GONZOといえば、ガイナックスの元メンバーが創設したアニメスタジオで、3DCGに定評があったからです。個人的に1998年のOVA『青の6号』の出来が素晴らしかった印象があります。
2002年〜2005年にかけて、全5巻販売された本作は、原作の内容の改変はあったものの、GONZO得意のCGによる空戦シーン、零やブッカー、フォス大尉などのキャラクターの描写、メカデザイン、テーマなど全てにおいて素晴らしかったです。ぶっちゃけ、終盤の改変などはあったものの、原作をリスペクトしているアニメ化だと思いました。
メイヴのデザインについて
第1作の雪風は、1979〜83年のいわゆる第4世代戦闘機全盛の頃に書かれた作品です。FFR-31MRスーパーシルフは、そのために第4世代機を意識したデザインになっています。そして雪風が機体をメイヴに移すのですが、こちらは当時から登場していた第5世代機を踏襲しつつ、更に近未来感のあるデザインになっています。
前進翼の主翼と尾翼が4枚あり、尾翼は垂直尾翼の役割も果たすとされていました。原作でもFRX-00は、ジャムを参考にしてフェアリィ空軍が独自に開発したという経緯があります。より異性体であるジャムに近づいた印象を与えるための演出も本編でしていました。
セルアニメからCGの時代へ
ゲームのエースコンバットシリーズ以降の空戦CGは、ゲームハードの性能の向上(当時はPS2)と共に、かなり精細に描かれていました。しかし、同じ時期に作られた『マクロス ゼロ』、『戦闘妖精雪風』はアニメにおける空戦描写ここにあり!といった作画で、エスコンシリーズを凌駕するできだったのです。
ただ、セルアニメ期の傑作、『マクロスプラス』のようなセル特有の重さがないのは、CGのため、仕方ないとは思います。しかし、この後のデジタルCGによる戦闘シーンの発展に間違いなく寄与している作品です。機会があればぜひ見て欲しいアニメです。
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