今回は、9mmパラベラムの名銃について紹介していきます。オートマチックピストルにおいて、最もポピュラーな銃弾ともいえる9mmパラベラムの第二次世界大戦の名銃といえば、ルガーP08とルパン三世の愛用しているワルサーP38、そしてベルギーの傑作ブローニング・ハイパワーです。
9mmパラベラム弾とは?
9mmパラベラム弾
オーストリアの銃器開発者、ゲオルグ・ルガーが1901年に開発したのが、9×19mm弾です。口径は、9mmで薬莢の全長が19mmであることから9×19mm弾もしくは、9mmパラベラム弾と呼ばれています。
9mmルガー弾とも呼ばれていますが、9mmパラベラムと呼ばれることが一般化しています。パラベラムとは、ラテン語で「平和を望むなら戦いに備えよ」という格言からきています。
9mmパラベラムは、初速が速いので集弾性と貫通力に優れています。38スペシャル弾よりも高威力で、357マグナムや45ACPよりもキック(反動)が強くない分、連射しやすいという利点があります。
しかし、マンストッピングパワーにおいては、45ACPや357マグナムなどの強力な拳銃弾の方が上であることは事実です。しかし、キックが大きく、連射しにくい高威力の銃弾と比較して、バランスのとれた拳銃弾であるという利点があります。
複列弾倉(ダブルカラム)による装弾数の多さによって、拳銃弾において、最もポピュラーな銃弾が、9mmパラベラム弾なのです。また、その速射性の高さから、H&K MP5やウージーなど、サブマシンガンに用いられることも多い銃弾です。
9×19mmの元祖!ルガーP08
傑作銃 ルガーP08
1893年に開発された世界初の実用自動拳銃ボーチャードピストルを基に、ゲオルグ・ルガーが改良し開発したモデル1900と名付けられたオートマチックピストルには、7.65mmパラベラム弾が使用されていました。
7.65mmパラベラム弾は、あまりに威力が低く、より高威力の銃弾として9mmパラベラムが1901年に開発されました。7.65mmと9mmパラベラムのサイズはほぼ同じであったため、バレルの交換のみで9mmが使用可能でした。
モデル1900の9mmパラベラム版が、モデル1902であり、1904年にドイツ海軍に制式採用されました。1908年にはドイツ陸軍にも供給されることとなりました。ルガーP08は、ドイツ軍の銃として優秀な性能を持っていたのです。
元のボーチャードピストル同様の尺取虫のようなトグルアクションは、銃後部のトグルを引っ張って装填することが特徴となっています。オートマチック・ピストル初期の機構のため、部品点数が多く、熟練工によって生産された銃でした。シングルカラムによるマガジンに8発、薬室内に1発の計9発の装弾数です。
部品点数の問題と、熟練工による工芸品のような製造過程で高価な銃となっており、同じルガーP08で部品の大きさが違っていたり、ワンオフもののような側面もあります。1938年に後継のワルサーP38がドイツ軍の制式採用銃となっても、高級仕官などが、お互いにルガーP08を送りあったという話が残っています。
このため、映画などでナチスの仕官が使っている描写が多く、ナチスのイメージがあります。実際には、1914年に始まった第一次世界大戦でも使用されています。DWM(ドイツ武器弾薬製造社)が主に生産し、1930年にモーゼルの傘下に入ると、モーゼル社のマークが刻印されるようになりました。
本来の名称は、パラベラム・ピストーレで、アメリカにおいてルガーP08と改名され、これがいつの間にか一番有名な通り名となりました。確かに、ルガーの方が響きがいいです。9mmパラベラムを使用した一番初めの銃であり、ワルサーP38、ブローニング・ハイパワーとともに、9mmパラベラムの普及に貢献した偉大な銃です。
大藪春彦の小説、『凶銃ルガーP08』でも登場し、『大脱走』、『シンドラーのリスト』、『スターリングラード』などの映画でドイツ軍の銃として登場しています。
ルパン三世の愛銃!ワルサーP38
ルパン三世の使用で有名なワルサーP38
ドイツ軍にとって、優秀な銃であるルガーP08は、その構造の複雑さと部品点数の多さから、大量生産に適していませんでした。1938年に制式採用されたカール・ワルサー社のワルサーP38は、プレス加工に適した設計と、当時の大型軍用ピストルとして、画期的な構造を持つ銃でした。
同じ9mmパラベラムを使用するルガーP08や、ブローニング・ハイパワー、アメリカ軍の45ACP弾を使用するコルトM1911A1(ガバメントモデル)は、シングルアクションの銃でした。当時は、オートマチック・ピストルでは、ハンマーをコッキングして初弾を撃つシングルアクションの銃しかありませんでした。
シングルアクションの欠点は、撃鉄を起こしているので、暴発の危険性があり、常に安全装置をかけなければ携帯できないことです。利点は、撃鉄を起こしているので、トリガーを引く力が少なくなることです。
リボルバーにおいては、ダブルアクションが主流になっていました。ダブルアクションとは、ハンマーをコッキングしなくても、引き金を引くだけでハンマーが自動的に撃発位置に後退し、雷管を叩く動作のことです。利点は、常にセーフティをかけなくても携帯できることと、不発があっても、雷管を連続して叩くことができることです。
シングルアクションと比較するとトリガーは重くてもメリットの大きい機構がダブルアクションで、オートマチックの軍用銃として初めてダブルアクションを採用したワルサーP38は画期的な銃だったのです。
出典 https://lupin-pt5.com/ ルパン三世とワルサーP38、右には峰不二子
またワルサーP38のショートリコイル機構は、スライドと銃身を別体のロッキングピースによって、かみ合わせることで、上下動を減らし、命中精度を上げています。ワルサーP38は、左側に空けらられた横スライスから、スライド時に薬莢を排出します。装弾数は、シングルカラムマガジンに8発+1発です。
このギミックが、『ルパン三世』において描写され、リアルなブローバックをアニメで初めて印象づけたシーンとなっています。ワルサー社は、1945年までに58万4,500挺を生産しています。ルパンの愛用していたワルサーP38は、ac41型で1941年にワルサー社で生産されたモデルです。
世界初の複列弾倉装備銃!ブローニング・ハイパワー
世界初のダブルカラムマガジンを採用したブローニング・ハイパワー
ジョン・M・ブローニングといえば、天才と呼ばれるアメリカの銃器開発者です。ウィンチェスターM1897やコルト・ブローニングM1895、コルト M1911(ガバメントモデル)などの名銃は、ジョン・ブローニングの設計によるものです。
ジョン・ブローニングは、1926年に死去しましたが、残された設計図を基に開発されたのが、ベルギーのFN社の傑作銃、ブローニング・ハイパワーです。1934年に完成したブローニング・ハイパワーの特徴は、量産された拳銃として初めて採用された複列弾倉(ダブルカラム・マガジン)です。
1列に上から下に弾を込めるのが、シングルカラムだとしたら、ダブルカラムは、弾を複列に装填していきます。この機構により、従来の9mmパラベラムの拳銃の8発から、5発多い13発装填できるようになりました。ブローニング・ハイパワーは、弾の威力ではなく、装弾数の多さからハイパワーと名付けられたのです。
もちろん、ルガーP08やワルサーP38の優秀さから解るように、9mmパラベラムは充分な殺傷能力とバランスのとれた拳銃弾です。しかし、9mmパラベラム弾が最もポピュラーな拳銃弾となった最大の理由は、ダブルカラムによる装弾数の多さです。
ブローニング・ハイパワーは、シングルアクションのオートマチック・ピストルでしたが、ダブルカラムによる装弾数の多さや、リンクレスのショートリコイルという部品点数の少ない合理的設計により、傑作銃となったのです。
第二次世界大戦において、ベルギー軍やリトアニア軍に使用されていて、ドイツによるベルギー占領後は、ブローニング・ハイパワーは接収されドイツ側でも使用されました。
戦後は、50ヵ国近い軍隊や、警察に採用され100万挺以上生産されました。1983年には、ダブルアクション機構を搭載したブローニング・ハイパワーDAが登場し、フィンランド国防軍に制式採用されました。
サンライズのロボットアニメ、『戦闘メカ ザブングル』の主人公、ジロン・アモスが愛用し、オープニングのブローニング・ハイパワーの描写には当時しびれました!ジロンが、ブローニング・ハイパワーを構えると、背後のザブングルもライフルを構えるのです。
黎明期から第二次世界大戦の9mmパラベラムの名銃
アメリカにコルト M1911A1という.45ACPの名銃があったように、ドイツにはルガーP08、ワルサーP38という優れた9mmパラベラムの銃がありました。また、ベルギーには、その後の9mmパラベラムがポピュラーになる大きな要因となったダブルカラムマガジンを採用したブローニング・ハイパワーが登場しています。
つまり、20世紀初頭にルガーP08によって、9mmパラベラムが開発され、ワルサーP38によって、オートマチックピストルのダブルアクション機構がポピュラーなものになり、同時期に登場したブローニング・ハイパワーによって装弾数が飛躍的に向上したのです。
20世紀後半の銃のトレンドともいえる、9mmパラべラム、ダブルアクション、複列弾倉は、第二次世界大戦の前に開発され、実用化されていったのです。9mmパラベラムの名銃は、この後上記の3大要素が備わった銃が登場します。次回もお楽しみに!
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