イージス・アショア:無用の長物に税金をかける虚しさ

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日本は核兵器を所有せず、日米安保条約によって、アメリカの核の傘に守られている国家です。核兵器への対処は、積極的に行うべきですが、イージス・アショアという無意味且つ非効率なシステムを6,000億円以上かけて導入する意味はありません。

目次 この記事の内容

  • 湾岸戦争から構想されたミサイル防衛計画
  • ミサイルをミサイルで迎撃出来ないこれだけの理由
  • 欺瞞だらけのイージス・アショア配備
  • トランプ政権へのおべっかのために高額な兵器を購入?

湾岸戦争から構想されたミサイル防衛計画

パトリオット PAC-3

湾岸戦争の時に、地対地ミサイルの一種であるスカッドミサイルパトリオットミサイルで迎撃したことにより、MD(ミサイル防衛)計画はクローズアップされることになりました。

ぶっちゃけ、原始的なミサイルであるV2ロケットに毛が生えた程度のスカッドミサイルを、当時としては最新のパトリオットミサイル(PAC-2)で迎撃したのです。それでもサウジアラビアで70%、イスラエルでの撃墜率は40%とかなり盛られていて、実際にはもっと確率は低かったと言われています。

1990年代当時のニュース番組による視覚効果は、後のミサイル防衛計画に繋がる効果をもたらしました。原始的なスカッドミサイルと最新の弾道ミサイルでは性能や特性が、全く異なるのですが・・・。

1990年代に、大統領だったジョージ・HW・ブッシュによってGPALSというミサイル防衛計画が提唱されました。これは、イラクのように大国でなくてもミサイルを配備している国家に対するものでした。

ビル・クリントン政権(1993〜2001年)により、TMD(戦域ミサイル防衛)が提唱されました。GPALSとの大きな違いは、宇宙配備の迎撃システムを諦めて、地上配備のみにしたことです。その後、射程距離の長い弾道ミサイルへの対処としてNMD(米本土ミサイル防衛・国家ミサイル防衛)が提唱されました。

その後、ブッシュ大統領の息子であるジョージ・W・ブッシュ大統領(2001〜2009年)の任期中に、TMDとNMDを統合したMD(ミサイル防衛計画)が発足したというわけです。

最初は、アメリカが指定していたテロ国家からの脅威から防衛するシステムでした。しかし、イランや北朝鮮などが、射程距離1,000km以上のIRBM(中距離弾道ミサイル)の開発に成功し始めると、次には弾道ミサイルからの防衛を目指すように変質していったのです。

1960年代〜80年代にかけては、核兵器を迎撃するのに核兵器で対処することや、SDIのようにレーザーで宇宙から弾道ミサイルを迎撃するシステムまで考案されました。しかし、どちらも実用上での問題が多々あり、計画が実現されることはありませんでした。

しかし、フェーズドアレイレーダーや、GPSによる測距技術の発展によって地上配備の設備でのミサイルの迎撃システムという構想が現実味を帯び、アメリカはMD計画を推進することになります。

ミサイルをミサイルで迎撃できないこれだけの理由

THAAD(終末高高度防衛)ミサイル

ぶっちゃけミサイル防衛は、中学生レベルの科学知識でも疑問符のつくものです。よくこんなアホみたいな構想に、巨額の投資をアメリカがしたものだとある意味感心しています(大汗)。

僕が小学生の頃に流行したアニメで、『超時空要塞マクロス』という番組がありました。板野サーカスと呼ばれるミサイルが、Gを無視したような軌道で乱れ飛ぶ表現には心躍ったものです。

自機に向かってくるミサイルを機銃やビームなどで弾幕を張り、迎撃する表現はアニメにはあります。しかし、弾道ミサイルの弾道を計算して、且つミサイルで迎撃するなんてことが現実に出来ると考えたバカはいません。

はっきり言うと、マンガ家やアニメ作家ですら、今の弾道ミサイルを地上配備型のミサイルで迎撃出来るとは誰も思っていません。100%不可能です。後述するミッドコース・フェイズで数発迎撃したとしても、数百発もの弾道ミサイルを撃ち落とすことは、確率論からの観点でも出来ません。

最初に、ICBMやIRBMなどの弾道ミサイルのシステムを簡単に説明すると、基本はロケットです。宇宙空間に打ち上げるロケットの先端部分(ペイロード)を衛星や探査機などに換装すると宇宙ロケット、核弾頭に換装すると核ミサイルに分類されます。

そして、今のロケットは推進剤に液体燃料(固体燃料の場合もある)を使っており、ロケットの大半がエンジンと燃料で構成されています。核ミサイルはICBM(大陸間弾道ミサイル)の場合、最高1,000km以上の高度まで到達した後、マッハ20以上の速度で地表に落下します。

ようするに、一度宇宙空間に出た後に、高高度から再突入してくるのです。つまり、レーダーによって発射を感知したとしても、ロケットが上昇中(ブースト・フェイズ)に迎撃することは敵地からの発射なので不可能です。

そこで、MDはミッドコース・フェイズと呼ばれる、宇宙空間に核ミサイルが航行している間に迎撃することを主眼としており、SM-3(イージスシステムの迎撃ミサイル)やGBI(地上発射型のミサイル)を用います。

確かに、ターミナル・フェイズ(終末段階)と呼ばれる再突入時よりは、地表の汚染や速度の関係から、より現実的だと思います。再突入時には、MIRV(多弾頭)化した弾頭が、チャフやらデコイやらをバラマキながら落下してくるので、迎撃ははっきり言って不可能です。

ちなみに、再投入時の高高度を迎撃するのがTHAADで、地表付近はPAC-3(PAC-2の発展型)です。宇宙空間で迎撃出来なかった場合に、これらの迎撃ミサイルを使用します。

MD
ブースト・フェイズ(発射からミサイル上昇中) 現在の技術では迎撃不可能
ミッドコース・フェイズ(宇宙空間) SM-3、GBI
ターミナル・フェイズ(再突入時) THAAD、PAC-3

しかし、発射から軌道計算して弾道ミサイルを後追いで迎撃ミサイルを上昇させて、宇宙空間を飛んでいる物体を撃破するのは、現代の技術でも難しいと言わざるを得ません。

ミッドコース・フェイズで迎撃出来たとしても、数百発発射されたミサイルの内の数発しか撃ち落とせないでしょう。条件が甘々の状態での、迎撃実験なぞ、実戦を想定すると本当に当てにはなりません。核兵器は、1発地表付近で爆発しただけでも、多大な被害をもたらす兵器です。

人体や生態系に多大な影響をもたらす放射能はもちろんのこと、高高度で核爆発させ、電磁パルス(EMP)による通信機能や、電力を寸断するといった方法もあります。

発射されてからIRBMの射程距離で10分以内、ICBMで数十分で地表に到達します。核ミサイルサイロや移動砲台、もしくは潜水艦などの複数の目標から発射されたミサイルを100%迎撃出来るとは、誰も考えないでしょう。レーダーが感知した段階で、すでにミッドコース・フェイズでの迎撃が出来ないからです。

致命的なのが、MDやBMD(弾道ミサイル防衛システム)には、圧倒的に速度が足りていない点です。マッハ20を超えるミサイルを迎撃するなら、レーザーやビーム、レールガンのような、既存の兵器を大きく凌駕する速度で発射出来る新兵器でないと迎撃は不可能です。

なぜ、こんな物にお金をかけるのか?はっきり言って軍産複合体が儲かるからとしか言いようがありません。現実的にミサイル防衛は不可能であり、MD計画にお金をかけるなら、レーザー砲やレールガンの開発費用に回した方が100倍有意義だと思います。

欺瞞だらけのイージス・アショア配備

イージス・アショア・サイト

そして、極東のおバカな国がアメリカに騙されて買った無用の長物が、イージス・アショアです。基本的にイージス弾道ミサイル防衛システム(イージスBMD)の地上版で、2017年に導入を決定したミサイル防衛システムです。

日本は世界でも有数のイージス艦保有国です。海上自衛隊のミサイル護衛艦(DDG)のこんごう型が4隻、あたご型が2隻任務に就いています。そして最新のまや型護衛艦が2隻、進水式を終えて、2020年から就役することになっています。

実は、このイージス艦のデータ漏洩事件のあおりで、アメリカの最強の戦闘機、F-22ラプターを購入出来なかったという話がありました。イージスBMDの情報は、それだけ他国が欲しがるものだったということです。

現在のイージスBMDは、バージョン5.1にグレードアップしています。これは、IRBM(中距離弾道ミサイル)に本格対応したバージョンです。初期のイージスBMD3.0では、SRBM(短距離弾道ミサイル)や、MRBM(準中距離弾道ミサイル)までしか対応していなかったので、イージスシステムも進化しているということです。

2002年から、SM-3による迎撃実験が行われ、23回もの大気圏外での実験で18回迎撃に成功したとなっています。ということは、イージスBMDは、フェーズドアレイレーダーによって、弾道ミサイルを探知した後で、SM-3によってミッドコース・フェイズでミサイルを迎撃出来るということになります。


しかし、発射をわざわざ敵に知らせることもないし、地下に埋設された核ミサイルサイロや、移動砲台、潜水艦などの発射方法でカムフラージュされています。しかも、数百発規模で、弾道ミサイルを発射された場合、確実に迎撃出来るほどの実験結果ではありません。

実戦を想定した演習で100%の確率で迎撃出来ない限り、核ミサイルは数発でも地表で核爆発を起こしたら、国家どころかその周辺すらも影響を受ける兵器なのです。IRBM程度でこの精度だとICBMは防ぎようがありません。そして、重要なのはIRBMの場合、数分で目標に到達することです。

つまり、発射を感知してから最低でも1分以内に迎撃する必要があります。イージスシステムで感知してから、SM-3を発射するまでに迎撃可能な時間は過ぎてしまうのです。

こんごう型護衛艦 みょうこう

イージス・アショアは、陸上自衛隊に配備されています。日本には、THAADはなく、PAC-3が配備されているのみなので、イージス艦とイージス・アショアが弾道ミサイルに対抗する手段とされています。

メリットは、陸上で運用出来るので補給や人員の配置が容易であること、デメリットは固定されたシステムなので、攻撃の対象にされやすいことです。候補地は、秋田県と山口県ですが、最近になって地形の測距方法がグーグルアースで適当に行ったことが暴露され、国会でも批難されていました。

はっきりいって、地上に巨大な固定砲台を置くようなもので、弾道ミサイルの目標にされかねない施設だと思います。イージス艦は洋上に展開出来るので、イージス・アショアのように近隣住人への被害は出ないです。

スパイ天国の日本で、これだけ目立つ代物で、誰でもわかるところに建設されたら、真っ先に攻撃目標にされるでしょう。肝心のミサイルを迎撃できれば、まだ配備した甲斐はありますが、前述の理由で残念ながら命中しない確率の方が高いです。

ミサイル防衛自体が、アメリカの妄想と欺瞞そのもののシステムなので、こんなガラクタに6,000億円以上の血税を投入する意味が解りません。F-3開発計画でもやっていた方がはるかに国防の役に立つと思います。

トランプ政権へのおべっかの為に高額な兵器を購入?

日本で大量に購入するF-35はA型が100機、B型も40機購入する

よく言われるのが、トランプ政権のおべっかのためにイージス・アショアを購入したのではないかという推測です。しかし、2016年からTHAADとPAC-3の組み合わせと比較検証した結果として、イージス・アショアが2017年に採用されました。

つまり、防衛白書に明記されている通り、ミサイル防衛の主軸として、イージス・アショアを運用することは既定事項だったのです。ぶっちゃけ、これまでの解説でわかる通り、アメリカの幻想そのものがMD計画を推進し、結果としてNATO加盟国や日本でもイージス・アショアの導入を決定したのです。

トランプは自分の手柄にしたかったので、イージス・アショアもF-35A/Bの大量購入も、外交の結果であるとアピールしました。もちろん、安倍政権のアメリカへのポチぶりは、正直言って気持ち悪いレベルですし、最終的に決定したのも安倍ですが、断わりきれなかったというのが真相でしょう。

イージス艦は必要ですが、イージス・アショアは無用の長物だと思います。というのも、これまで検証してきた通り、ミサイル防衛には根本的な欠点があります。つまり、物理的にミサイルで弾道ミサイルを迎撃することは不可能だからです。

しかし、1機あたり(日本の購入価格だと)115〜130億円するF-35はFMSによって購入するので高すぎます。ほとんど意味のないイージス・アショアに6,000億円、ステルス機能やアビオニクスは優秀だけど運動性の低いF-35を140機購入って、日本は無駄使いしすぎです。

これだったら、第4次F-Xでユーロファイターか、F/A18E/Fを購入し、イージスアショアの導入を見送り、浮いた予算で国産戦闘機を開発した方がよかったような気がします。結局、日米安保条約のせいで、アメリカの言いなりになることが多いので、正直腹が立っています。

安倍政権は、外交が壊滅的に下手くそで、無意味で高額な兵器を、トランプに花を持たせる形で購入した事実は変わりません。これだけでも早く辞任してもらいたいです。

2020年6月追記

配備予定だった、イージス・アショアの中止を河野防衛大臣が6月15日に発表しました。河野防衛大臣によると、ロケット・ブースターの落下の問題からとしていましたが、事の真相は昨年3月の防衛省の報告書に書かれていたようです。

週刊文春が報道した、報告書の内容は衝撃的でした。イージス・アショアのレーダー機能は、ロッキード社のLMSSRですが、どうやら迎撃機能がまったくなかったという事らしいのです。

イージスシステムはレーダーとしてミサイルを察知し、射撃管制システムによって、迎撃ミサイルを誘導しています。しかし、LMSSRには射撃管制能力がないことが発覚したということです。

つまり、この記事で指摘したミサイルによって迎撃する可能性の低さ以前の問題で、迎撃ミサイルの誘導をする機能自体が最初からなかったことになります。呆れてものもいえません(大汗)。

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