エレキギターの場合、フェンダーとギブソンは、2大メーカーと知られています。しかし、各年代毎にその地位を脅かす魅力のあるギターメーカーが存在していました。今回は、そんな存在感のあったギターメーカーを紹介していきます。
リッケンバッカー:60~70年代のイギリスのバンドが使用していたギター
リッケンバッカー 325 C58
Rickenbackerといえば、アメリカの楽器メーカーです。1932年にラップスティールギター、フライングパンで世界初のエレクトリック化を果たしました。しかし、ハワイアンと、スパニッシュというあまりエレクトリック化に積極的でない用途のギターが中心だったため、いまいち認知されていません。
1950年代に最初の量産型エレクトリックソリッドギターとして有名な、フェンダー・テレキャスター(エスクワイヤ)が販売されます。そのため、リッケンバッカーが最初のエレキを開発した事実が忘れられることも多いのです。
ところが、1962年にデビューしたイギリスのバンド、ビートルズの登場によって、状況は一変します。ビートルズの各メンバーが使用していたのは、ジョン・レノンの325、ジョージ・ハリソンの425などです。ポール・マッカートニーのベースの4001Sなどや、360/12という世界最初期のエレクトリック12弦仕様のギターなども使われていました。
初期のビートルズのイメージはリッケンバッカーとVOXアンプの組み合わせのジャキジャキしたトーンです。イギリスのミュージシャンや、ギターキッズが、この後、リッケンバッカーを使うようになるのも、ビートルズの影響が大きいと思います。
325のイメージは、ジョンモデルです。これには、6弦と12弦のバージョンがあり、ピックアップもストラトのように3基載せられています。サウンドホールが、片側にあることから解るように、セミアコのようなホロー・ボディ構造です。
また、ショートスケールで、軽いことも特徴の一つです。ジョンが最初に入手した58年製は、ボディがアルダー材で64年から再販されたモデルはメイプルとなっています。クリーンからクランチのトーンのギターというイメージです。
筆者もリッケンバッカーを本気で買おうと思ったことがあります。しかし、そのたびに、なぜかお金が無かったり、たまたま入ったギター店で違うギター買ったりと、縁がありません。
ジョンが購入した時とは違って325は、高価なギターで簡単に入手できなかったように思います。それと比較すると1970年代のパンクや、1980年代のロック系バンドなどで、多く使われていたシリーズが、比較的リーズナブルな330系のリッケンバッカーでした。
この当時の330や360を使用していたのは、ジャムのポール・ウェラーや、スミス時代のジョニー・マー、R.E.M.のピーター・バックです。330がスタンダード、360が高級機という棲み分けが出来てきます。330は、90年代くらいには中古で十数万円で売られていて、筆者も危うく買うところでした(大汗)。
イギリスのミュージシャンが使うことが多く、アメリカの会社だと思われていないギターメーカーですが、今でもギターを製造し続けている老舗の一つです。
アイバニーズ:世界に認知された日本の職人技
出典 https://www.soundhouse.co.jp/ スティーブ・ヴァイのシグネイチャーモデル
ぶっちゃけIBANEZのことをイバニーズと呼んでいた世代は、僕の先輩ミュージシャンだと思います。今ではアイバニーズで呼び方が統一されています。アイバニーズは、星野楽器グループのギター、ベース部門の会社の呼び名です。
チューブスクリーマーなどに代表されるエフェクターメーカーとしても有名で、TS9やTS10は以前紹介したスティービー・レイヴォーンが使用するなど、1970年代には、エフェクターメーカーとして存在感がありました。
ぶっちゃけ、ギターメーカーとして有名になったのは、1980年代のことだったと思います。スティーブ・ヴァイや、ジョー・サトリアーニ、ポール・ギルバートといったテクニシャン系のギタリストとエンドース契約を結び、積極的に海外展開していました。
エンドゥース契約とは、アーティストに楽器を無償で提供する見返りに広告塔として、ライブやテレビなどで契約した会社の楽器を使用してもらうことです。
アイバニーズのギターのイメージは、フロイドローズ(シンクロナイズドトレモロの進化したもの)が付いていて、最新のピックアップがストラトタイプの鋭角的なボディに載っているというものでした。
有名なのが、スティーブ・ヴァイのシグネイチャーモデル、JEMです。JEMは、上記の特徴を備え、ストラトのようなダブルカッタウェイに、ハム、シングル、ハムの並びで3つのピックアップが搭載されていました。
筆者が最初にフェンダージャパンのストラトを買ったときに購入したトランジスタの小型アンプがアイバニーズのものでした。その後、フェンダーの小型アンプを買って、不用になったアイバニーズのアンプを友達にあげました。アイバニーズのエフェクターは、チューブスクリーマーを中心にかなり使っています。
PRS:スタンダードの地位を確立している第3のギターメーカー
PRSの会長 ポール・リード・スミス
PRSといえば、カルロス・サンタナが有名なアルバム、”Supernatural“で使用していたメインギターです。サンタナといえば、ギブソン・レスポールや、ヤマハのSG-175ですが、90年代以降は、PRSを使い、極上のトーンを響かせていました。
サンタナのファンである筆者も、PRSが欲しかったのですが、高くて買えませんでした。そこで、6万円で売られていた中古のヤマハ SG1000をサブに買ったことを覚えています。
カスタムシリーズが、ラインナップの中核です。カスタムシリーズは、独特のダブルカッタウェイのシェイプのボディに、ハムを2基搭載しています。ギブソン系のようなセットネックが特徴で、ハムとシングルタップの組み合わせで多彩な音作りが出来るようになっています。
その一方で、少し安価なCEというモデルもありました。こちらはフェンダー系のようなボルトオンネックのモデルでしたが、一昔前は10万円代で中古が出回っていたのです。2000年代により安価なSEが登場するまで、ポール・リード・スミスの入門モデルとして人気がありました。
PRSでよく言われる、フェンダーとギブソンの中間というのは、このCEシリーズを意識しての言葉ではないでしょうか。本来のPRSは、どちらかというとギブソン寄りで、カスタムシリーズに代表される、セットネックで2ハムのモデルが主流です。
ちなみに、ポール・リード・スミスは、社長(現会長)の名前そのまんまです。フェンダーは、創業者のレオ・フェンダーの姓のみ取られた社名です。またギブソンの社名も楽器職人だった、オーヴィル・ヘンリー・ギブソンの名前から取られています。ちなみにリッケンバッカーは、撃墜王のエデイ・リッケンバッカーが由来です。
PRSは、1985年に創業してから、元ギブソンの社長で、ES-335やフライングVの開発者テッド・マッカーティーにアドバイスを受けていました。そのため、ギブソン寄りなイメージがありますし、実際にマッカーティーの名前を冠したギターも生産しています。
ジェーンズ・アディクションや、レッチリに在籍していたディブ・ナヴァロが使用していたり、今の3大ギタリストの1人であるジョン・メイヤーなどの名だたるミュージシャンがPRSをメインギターにしています。
ギブソン・フェンダーの牙城
ギブソン レスポールモデル 世界3大ギターの一つ
ざっと見てきただけでも、かなりのギター・メーカーがギブソンとフェンダーの牙城を崩すために様々なギターを開発しています。他にもグレッチやら、フェルナンデスやら、ヤマハやら書きたいメーカーもありましたが、各年代ごとのライバルの代表格として3社のギターとその特徴を紹介しました。
今のところ、最後に紹介したPRSが第3のギターメーカーとして存在感を増しつつあります。PRSのギターには、いい意味でクラシックなスタンダードとしての風格が出てきたように思えます。
ギターヒーローが活躍したロックの時代は、1950~2000年代が中心です。ロック黎明期からエレキギターを製造し、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベックのかつての3大ギタリストが使っていたギブソンやフェンダーが、半世紀過ぎた今もトップメーカーとして君臨しています。
70年代や80年代にもフェンダーやギブソンのギターを使うミュージシャンが多く、今回紹介したメーカーも頑張ってはいるものの、まだまだ追いつけていません。この流れは、90年代~現代までも続いていて、中身の良さでヘリテイジをすすめても、友人が結局ギブソンを買ってしまうことで体験済みです(大汗)。
世の中に影響を与えるミュージシャンが減ってきた中で、新たなギターヒーローが、この高い壁をぶち破ることは難しくなりました。それでも挑戦し続ける楽器メーカーがある限り、新たなギターは誕生し続けるでしょう。
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