ロシアの最新鋭第5世代戦闘機、Su-57はT-50としての試験が終了しつつあり、量産が開始されはじめています。区分的には、マルチロール機(多用途戦闘機)になりますが、制空権を獲得するための空戦能力の高い機体であり、米軍最強のF-22ラプターに迫る実力のステルス機です。
目次 この記事の内容
- 目指すは最強の戦闘機
- ステルス性能はアメリカ製が上
- 安価なSu-57
目指すは最強の戦闘機
T-50としてMAKS2011に参加していた機体
第二次世界大戦以降、通常兵器のみの戦場において、重要なのは制空権を獲得することです。この目的のために重要なのが戦闘機であり、現代においても、変わることはありません。
ロシアは、Su-27フランカー、Mig-29フルクラム、Su-35などの優れた戦闘機がありますが、第4世代機ではアメリカの第5世代機のF-22ラプターや、F-35ライトニングIIには対抗できなくなることから、ステルス機能のある第5世代機を開発していました。
レーダーに発見されないステルス戦闘機を実用化したのは、2005年から初期作戦能力(IOC)を獲得したF-22からであり、ロシアは第5世代機の開発競争において出遅れたことになるのです。
ロシアが、第5世代戦闘機のPAK FA計画と呼ばれる研究開発を始めたのは1998年のことでした。ロシアの2大戦闘機メーカーである、スホーイ、ミコヤン両社の設計案のうち、2002年に採用されたのが、T-50という設計名称のスホーイ案でした。
後にSu-57と改称されるT-50のコンセプトは、第5世代機としてのステルス性を確保しつつ、F-22を凌駕する運動性能を持つ制空戦闘機を開発することでした。
機体は当然ながら双発機(エンジン2基)であり、また新型エンジンAL-41F1(後にIzdeliye30へと変更予定)採用によって、スーパークルーズ(アフターバーナー無しで超音速巡航可能)も可能で、ウェポンベイに兵装を内蔵できるようになっています。
ステルス性能はアメリカ製が上
T-50(スホーイ57)の下面ウェポンベイ(機体中央)によってスッキリしている
ぶっちゃけ、F-22を意識して後発で開発されているため、カタログスペックのSu-57は優れた数値を叩き出しています。しかし、F-22とF-35のステルス性能には追いついていません。
これは、RCS値と呼ばれるレーダー反射断面積において、F-22が0.0002-0.00005m2なのに対して、0.1-1m2となっています。F-35は、0.0015-0.005m2で、4.5世代機のF/A18E/Fですら、0.1-1m2のステルス性能を持っています。
また、ステルス機の天敵ともいえる低周波レーダーに対する対応が出来ているのが、F-22とF-35であり、Su-57はこの低周波レーダー対策がとられていません。外観上でも、機体に継ぎ目が少なく、ステルス性能の高いアメリカ製と比較すると、Su-57は明らかに一歩遅れた第4世代機の延長線上の機体形状をしています。
しかし、AL-41F1による偏向ノズルはピッチとヨー方向の3次元方式であり、エンジン出力は1基あたり(アフターバーナー使用時)147kNとF-22のF119-PW-100の165〜173kNには及ばないものの近い数値は出ています。また、新型エンジンの開発中であり、そちらの推力が向上する可能性があります。
最大速度は、F-22と同等のマッハ2とされ、Su-35よりは低くなっているもののステルス性能を持ちつつ、十分な速力を確保していると言えます。凄いのが、実用上昇限度で、高度2万mまで可能です。
Su-57 スペック表
Su-57 (初期ロット) | |
全長×全幅×全高 mm | 19.8×14×6.05 |
空虚重量 kg | 18,500 |
全備重量 kg | 28,800 |
エンジン推力(ドライ)kN | 93.1 |
エンジン推力(アフターバーナー使用時)kN | 147 |
燃料容量 kg | 10,300 |
最高速度 マッハ | 2 |
巡航速度 km/h | 1,300〜1,800 |
航続距離 km | 3,500〜5,500 |
実用上昇限度 m | 20,000 |
離陸距離 m | 300〜400 |
あくまでも新型エンジン搭載前の初期ロットでの性能ですが、かなりF-22を意識したものとなっています。実際の評価はこれからになりますが、ステルス性能をある程度確保しつつ、運動性の高いスペックになっています。特に、偏向ノズルはアメリカ最強のF-22を凌駕する3次元方式で高い運動性を誇っています。
T-50(Su-57の試作機)は、2010年に初飛行し、2017年から生産されています。現在のところ、配備状況は試作機が2018年にシリアにて実戦に投入されたというアメリカの報告がありました。
2019年現在では、先行量産機がロシア航空宇宙軍にてテスト中とのことです。前述のシリアでの実戦テストのデータと合わせて、今後の量産機に反映する予定とのことです。
攻撃機としての能力も求められるF-35よりも高い機動性を誇り、F-22に対抗できるだけの空戦能力があります。残念なのは、ステルス性能で、F-22やF-35に大きく劣りF/A18E/Fスーパーホーネットと同等というのは、第5世代機としては物足りない数値です。
安価なSu-57
T-50(スホーイ57)の上面
そして、一番驚くべきことが、これだけの性能のSu-57の調達価格です。ロシアの発表によると、76機のSu-57の調達価格が約26億3,000万ドルということです。これは、1機あたりの価格が3,400万ドル(34億円)ということで、ライバルのF-22の1億5,000万ドルよりもかなり安いということになります。
ただ、この価格は単純に生産コストのみで計算されている可能性が高いです。前述したF-22も開発コストを上乗せすると1機あたり4億ドルという価格(400億円)となるので、Su-57も兵装などをセットにすると5,000万ドルは超えて来ると言われています。
ロシアの人件費の安さや、プーチン大統領の政治的判断によって、意図的に安い購入費用にされたとも言われています。
アメリカは、最新鋭のF-35Aの調達価格を大量に生産することで、徐々に安くしていっています。今のF-35Aの機体価格は、アメリカ本国の場合1機あたり8920万ドルと言われており、将来的にはもっと安くなる可能性があります。
それでも、アメリカのF-35Aの半額で買えてしまうSu-57の価格は驚異的です。トルコが、Su-57の導入について言及するのも無理はないと思います。
航空自衛隊が、購入しているF-35Aの価格は1機あたり117億円と言われています。ということは、これから交渉次第ではもっと安く調達する可能性はあります。前にF/A18E/Fについて書いたときに、F-4EJの後継を決めるF-Xでスーパーホーネットを購入するべきだったと書きました。
これは、制空戦闘機としてのスパホの能力や、F-35の開発状況の問題、運用コストを総合的に考えた上での結論でした。また、F4EJの耐用年数の問題からも完成した機体の方が、調達する上で有利だと思ったからです。
F-22ラプターを購入できないなら、双発で安価なスパホもありだと思うのですが、F-35Aの調達価格が下がってくるなら、話は変わってくると思います。しかし、今のところ日本の航空自衛隊に配備予定のF-35Aは1機あたりの購入価格がFMSによってかなり高めに設定されています。
Su-57はロシア製なので、日本が購入することはありませんが、コストパフォーマンスの高い機体であることは間違いなさそうです。ただ、ステルス性能は4.5世代戦闘機並みというところが弱点ではあります。
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