以前、Rock名盤解説でクリームの”Wheels of Fire”について書いたとき、エリック・クラプトンのギブソン ES-335について紹介しました。この機会にエリック・クラプトンの使用したギターをまとめてみたいと思います。
ヤードバーズ~ブルースブレイカーズ時代とビートルズ客演のギター
出典 https://www.ishibashi.co.jp/フェンダー カスタムショップにて再現されたエリック・クラプトンの63年製テレキャスター
エリック・クラプトンといえば、今でこそフェンダー ストラトキャスターのイメージがありますが、長いギターキャリアの中でも色々とギターを持ち替えています。1970年代になってブラッキーと呼ばれる有名なストラトに行き着くまでは、様々なギターを使用しています。
スローハンドとは、クラプトンの異名で音数の多い演奏でもゆっくりとした動きに見えるほどのテクニックということと、チューニングにかなりの時間をかけるほどこだわりがあったことの2つの意味があります。世界3大ギタリストであったクラプトンは、様々なギターを愛用し、トーンを開拓していきました。
YouTubeで筆者が解説した動画です。リメイクしました。
クラプトンのキャリアの中で、初期のバンドである1963年~1965年のヤードバーズ時代のギターは、フェンダー テレキャスターがメインギターでした。このテレキャス、実はローズウッド指板なのです。クラプトンがフェンダー系のギターで、メイプル指板以外のギターをメインで使っていたのは、この時期くらいではないでしょうか?
この1962年製テレキャスは、ボディがアルダーのフェスタレッドのボディカラーのものです。クラプトンは当時、VOX AC-300にプラグインしていたようです。このギターは、この後紹介するブルースブレイカーズでも使用されています。
出典 https://www.digimart.net/ エリック・クラプトンのレスポールを再現したモデル
エリック・クラプトンといえば、マーシャルとギブソン レスポールを組み合わせたことで有名です。1965年のブルースブレイカーズ時代にサンバーストのレスポールを使用しています。1960年製レスポール スタンダードのスペックは、名器と呼ばれた59年製とは異なり、ネックが若干薄くなっています。
実は、このギターはクリームの時にも使われていたようです。以前の記事でクリーム時代のクラプトンの使用機材にレスポールを含めていなかったので、ここで謝罪します。不勉強で申し訳ありませんでした(土下座)。
このギターで、ウーマントーンを弾き、クラプトンの名声は高まります。ビートルズのホワイトアルバムで、ジョージ・ハリスンの曲”While My Guitar Gently Weeps“をレコーディングしたときに使用したチェリーレッドにリフィニッシュした57年製レスポールも有名です。
出典http://www.player.jp/ クラプトンがジョージ・ハリスンに贈ったレスポールを再現したモデル
このギターは、元々クラプトンがクリーム時代(1966~68年)にアメリカで買ったギターのようです。ジョージは、ビートルズ後期のレコーディングの緊張感を緩和するために、親友であるクラプトンを呼んだのです。
クラプトン自身は、そのときジョージに言われてギターを持ってきていませんでした。ジョージは、クラプトンからもらった57年製のレスポールをスタジオに持参していました。クラプトンはこのギターを使って、ビートルズの曲に客演し、更に名声が高まりました。
クリーム~ブラインド・フェイス時代
出典 https://www.pinterest.ie/ クリーム時代で有名なES-335
クリームの解散コンサートでも使用された64年製のチェリーレッドのES-335は、クリーム時代のクラプトンのギターというイメージがあります。1964年(ヤードバーズ時代)に購入し、クリームの後期(1968年頃)からメインギターとなっていました。
クリームの初期にはギブソン SGがメインでした。このギターは、ジョージからクラプトンに贈られた64年製のSGで、ザ・フールと呼ばれるアーティスト集団にペイントしてもらいサイケデリックなカラフルなペイントが目立ちます。
出典 http://www.kanayamabase.jp/ クリーム時代のクラプトンとSG めちゃサイケ
クラプトンのSGは、ザ・フール・ギターと呼ばれクリームにおいて重要な役割を果たすギターでした。ザ・フール・ギターは紆余曲折を経て、トッド・ラングレンが所有することになります。そして、クリーム時代ではギブソン ファイヤーバードⅠも使用していました。
出典 http://toy-music.net/blog/ クラプトンとファイヤーバード
ファイヤーバードは、Ⅰが一番シンプルなモデルでミニハムをリアに1つだけマウントし、バー・ブリッジのダイレクトなサウンドが特徴的です。僕は最近レスポールJrを使っているのですが、こういうシンプルな構成のギターは鳴りがいいので気持ちいいです。
出典 https://www.pinterest.jp/ ブラインド・フェイス時代のテレキャスター
スーパーグループ、ブラインド・フェイス時代(1969年)には、再びテレキャスターを手にしています。メイプル指板のサンバーストカラーのテレキャスターの写真を見かけるのは、ブラインド・フェイス時代くらいなものでして、クラプトンがストラトをメインにしてからは、このギターは使われなくなります。
ブラインド・フェイス 一番右がエリック・クラプトン
後は、サイケな塗装をしているダン・エレクトロ・59DCもブラインド・フェイス時代のギターです。
デレク・アンド・ザ・ドミノス~ソロまで
出典 https://blogs.yahoo.co.jp/ ブラウニーと呼ばれるストラトキャスター
デラニー&ボニーのツアーや、デレク・アンド・ザ・ドミノス時代(1970~71年)でクラプトンがメインにしていたギターが「ブラウニー」と呼ばれた1956年製ストラトキャスターです。このブラウニーは、デレク・アンド・ザ・ドミノスの名盤”Layla and Other Assorted Love Songs“のジャケットでおなじみのギターです。
クラプトンは、クリーム時代の1967年にロンドンの中古楽器店で購入します。クリーム時代は、3ピースというバンドの構成上ストラトを試す機会はありませんでした。ブラインド・フェイスの相棒であるスティーブ・ウィンウッドの影響でストラトをメインにするようになったといわれています。
デレク・アンド・ザ・ドミノスのライブアルバム”In Concert“やその拡大版の”Live at the Fillmore“では、ワウで半止め(トーンをコントロールするためのテクニック)をしています。ブラウニーとクラプトンの組み合わせによる名演が聴けるアルバムですので、オススメです!
1970年代前半のクラプトンは、明るめで煌びやかなストラトのトーンを使ったバッキングやリードプレイをやっています。デレク・アンド・ザ・ドミノスでの相棒、デュアン・オールマンとやり合ったレイラセッションでは、ストラトはこう使え!といわんばかりのギタープレイを展開しています(曲がめちゃめちゃ長いけど)。
余談ではありますが、僕が最初に買ったエレキはブラウニーに似たフェンダー・ジャパンの57Vinストラトでした。もちろん、ジミヘンとクラプトンの影響です(大汗)。
出典 http://toy-music.net/blog/ クラプトンとブラッキー
そして、クラプトンの愛器として最も有名なのが、「ブラッキー」です。クラプトンは1970年にテネシー州ナッシュビルにある楽器店でストラトをまとめ買いしました。ライブ毎にギターを破壊する友人のジミ・ヘンドリックスに贈るためストラトをしょっちゅう購入していたという逸話があります(笑)。
ジミヘンは、1970年9月に亡くなり、クラプトンは6本のうち3本をジョージとピート・タウンゼント、スティーブ・ウィンウッドに贈り、残りの3本のストラトの一番いいパーツを組み合わせて作ったのがブラッキーです。
後にトリビュートモデルとして販売されたブラッキー(レプリカ)
ブラッキーに使用されたのは、ボディが56年製、ネックが57年製のメイプル指板のものです。当時のストラトにしては珍しいオーダーカラーのブラックが渋いです!このブラッキーがメインギターとしてライブに登場したのが、ソロ時代の1973年からです。
クラプトンは、3Wayスイッチの間で止めて2つのピックアップを鳴らすハーフトーンを広めたことで有名です。トレモロアームは使わず、イナーシャブロックを木片で止めるのがクラプトンのストラトの特徴でもあります。
1985年のハートフォード公演までの12年間、クラプトンを支え続けたブラッキーは、指板がスキャロップド仕様のストラト並みにえぐれるまで使いこまれていました。クラプトン=黒いストラトというイメージが定着したのは、苦楽を共にしたブラッキーあってのものでしょう。
クラプトンが設立したドラッグとアルコールのリハビリ施設のために、ブラッキーは2004年のクリスティーズのオークションにかけられました。95万9,500ドル(1億900万円)で競り落とされたブラッキーは当時世界最高額のギターとなったのです。
出典 https://www.udiscovermusic.jp/ ブラッキーの後継ギター Heir to Blackie
クラプトンにフェンダーUSAが提供したギターが、Heir to Blackieです。1990年から1993年まで使用されています。レースセンサーPUとミッドブースト(中域をブーストして音を太くする機能)というクラプトン用にカスタマイズされ、多くのクラプトンシグネイチャーモデルの原型にもなっています。
一度このブラッキーのレプリカモデルを持っていた友人とセッションした時に借りましたが、ミッドブースト無しでもミドルの強いトーンにびっくりしたことを覚えています。
出典 https://www.amazon.co.jp/ クラプトンとマーティンOM
最後に紹介するのが、クラプトンの愛用していたマーティン OOO-28とOMについてです。クラプトンは1970年代の若い頃、OOO-28を所有していたそうです。クラプトンがアンプラグドで使用していたのは、OM(ロングスケールモデル)で、1930年~40年代のものです。
エリック・クラプトンは、長いキャリアの中で様々なギターを使用し、数々の名演を残していきました。ブルース・ブレイカーズからクリームでは、ギブソンのハムバッキングPUとマーシャルの組み合わせで、太く甘いウーマントーンを確立し、デレク・アンド・ザ・ドミノスからソロでは、ストラトとハーフトーンを駆使したトーンで観客を魅了しました。
そして90年代以降は、フェンダーのシグネイチャーモデルの登場で、ストラトならではのトーンとギブソン系ギターのような太さのミッドブーストによるトーンの使い分けをするようになります。
クラプトンは、試行錯誤の末に熟成したトーンを確立しました。後年のミュージシャンに与えた影響力は、世界3大ギタリストという肩書き以上のものがあります。まさに「クラプトンは神」なのです。
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