青森県、三沢基地所属のF-16戦闘機が、増槽(ドロップタンク)を青森県小川原湖に2本投棄したというニュースが、20日に流れました。機体下部の胴体付近のパイロン(増槽やミサイルのための支柱のこと)に2本装備されている燃料タンクは、F-16の主翼下部にあります。
■F-16による増槽の落下事故
F-16には機体内部にも燃料タンクはありますが、長距離を飛行するために、600ガロン(2,250L)のタンクを2本、パイロンから吊り下げているわけです。
そして、重要なのは訓練での通常飛行では、燃料タンクはパイロンから落下させてはならないことになっています。例外があるとすれば、事故などの緊急の場合なのです。
ある程度の高度に達している場合、600ガロンもの重量物が、落下した場合の運動エネルギーは、地上の堅牢な建物を破壊するだけのものがあるからです。
F-16 ファイティング・ファルコンは、単発戦闘機です。単発とは、文字とおりエンジン1基のことであり、F-15やF-22などの戦闘機は双発と呼ばれ、エンジン2基によって推力を得ています。
単発戦闘機のメリットは、いうまでもなく軽いことと安価なことです。デメリットは、エンジンが1基しかないため、機体推力が双発と比較して小さいことと、エンジンが故障しても1基しかないため双発のように片側だけでリカバリー出来ないことです。
今回の事故では、エンジンに火災が起こったということなので、単発機のF-16(三沢所属の場合はCもしくはD型と思われる)にとっては致命的な事故だったのです。
しかし、漁師がしじみ漁をしている湖に燃料タンクを落下させるなど、一歩間違えれば大惨事になっていたでしょう。近くには青森県の六ヵ所村の再処理工場(原発と類似した施設)があります。そして、機体からタンクを落下させた要因は、エンジンの異常による機体推力の低下が考えられます。
航空機が緊急着陸する場合、異常が発覚した場合でもすぐには着陸できません。当然のことですが、管制からの指示を待ち、上空で待機しなければならないのです。
単発エンジンの場合、火災、もしくはオーバーヒートが起きた状態では、機体の推力が著しく低下します。この場合の措置として、一番の重量物である燃料タンクを捨てて身軽になる必要があったのでしょう。
しかし、この措置は本当に正しかったのでしょうか?というのも、小川原湖には、漁師などの民間人が多数いたのです。いくら事故とはいえ、民間人の近くに増槽を落とすとは、アメリカ空軍も焼きが回ったとしか思えないのです。
軍人は、民間人を守ることが仕事であり、日米安保によって米軍には日本人を守る義務があります。機体の故障は、深刻ですがせめて民間人のいない洋上や広場までタンクを切り離すのを我慢できなかったのでしょうか?
そして、やむを得ずタンクを落下させたのなら、原因が解明されるまでの期間のF-16の飛行中止や、事故の詳細の発表、自治体及び日本政府への謝罪などの誠意を見せるのが当然の行為です。
しかし、今回も日米地位協定によって事故原因の詳細は開示されず、F-16の飛行中止はされませんでした。ここで考えられるのは、3つの可能性です。突発的に落下したとしか思えない燃料タンクの謎について、考察してみます。
■F-16が燃料タンクを離陸直後に落下した原因とは?
出典 http://www.misawa.af.mil 飛行中のF-16
有力な仮説は以下のとおりです。
- 本当にエンジントラブルだった。
- パイロンの故障、もしくはパイロットの操作ミス。
- 機体を加速させる必要があった。
1の『本当にエンジントラブルだった』は、米空軍の話を信じるならば、一番可能性の高い事故原因です。しかし、事故のあったF-16はその後、無事に基地に帰還しています。しかも、着陸時に火災の発生している様子は無かったそうです。
そして、この証言を鵜呑みに出来ないのは、F-16は単発戦闘機であるということです。エンジンが1基しかないF-16から火災が発生したにもかかわらず、無事に帰還しただけでなく、自衛隊機や民間機も使用している三沢空港に、一部区画の閉鎖はあったものの、便の遅れや混乱も無かったという点がひっかかります。
そこで、考えられるのが2の『パイロンの故障、もしくはパイロットの操作ミス』です。沖縄で頻繁に続いている、米海兵隊による落下物事故の発生件数は、2017年12月に立て続けに起きています。
あってはならないことなのですが、ハードポイントのトラブルや、パイロットの操作ミスによる増槽の落下だったのではないでしょうか?
この場合、米軍側としては相次ぐ落下事故の続きより、機体トラブルによる任意の切り離しというストーリーを選んだということです。これならば、F-16が無事に着陸していることにも説明はつきます。
さすがに立て続けに整備原因での直接の落下(しかも燃料タンク)はまずいと考えたのではないでしょうか?そこで、ありもしなかった単発機のエンジントラブルという話をでっち上げた可能性があります。
三沢所属のF-16は、1980年代の3回もの低空飛行訓練が問題となっています。2003年には、北海道でF-16が原因と見られるガラスの損壊事故が1件、2005年にも同様の事故が起こり、幼児が全治1週間の怪我をしました。
音速を超えるとソニックブーム(衝撃波)が出るので、マッハ2級のF-16の性能だと、低空飛行をするさいには、細心の注意が必要です。三沢所属のパイロットは、このように何件も問題のある低空飛行をやらかしているので、操作ミスかもしれません。
そして、最後の3つ目『機体を加速させる必要があった』ですが、緊急に最高速度のマッハ2を出す必要性があったという事案についてです。民間機との突発的なニアミスの可能性や、未確認飛行物体(UFO)との遭遇があった場合についてです。
わずか93.4kmの地点にクロマンタこと、黒又山があるので、新種のUFOでも追跡したかもしれませんが、さすがにこの可能性は低いでしょう。ニアミスについては、本当にあったらさすがに報告があるのでこちらも考えにくいです。
1については、消化装置の作動もしくは、高高度からの急降下などで機体の出火を消し止めたとも考えられます。米軍による公式発表は、このように色々と疑わしい点がありますが、単純に整備能力の欠如によるものだというのが、一番有力ではないでしょうか。
2017年4月にアメリカのメリーランド州で起きたF-16墜落事故では、エンジンが勝手に急加速し、推力が失われるという故障が発生しています。エンジン制御用の部品を誤って組み立てたことによって過熱や出火に繋がっていたようなのです。
今回のケースは、去年の事故と同じケースではなかったのではないでしょうか。その場合は墜落する可能性の高い事案だったということです。メリーランド州の事故は、最も極端な例ですが、F-16の事故原因が明確でない以上、飛行停止を求めるべきでしょう。
更にF-16は、三沢所属だけでも2001年、2002年、2012年に墜落事故を起こしています。単発戦闘機は、墜落する危険性が双発のF-15と比較して高いというのは、本当のようです。
■頻発する機体トラブルは規律の乱れ?
飛行中のF-35 F-15、F-16の後継機だが開発中のトラブルも多い
今回のF-16の事故は、後継機のF-35Aの開発が遅れていることと無関係ではないでしょう。F-35は、マルチロール機として空軍仕様のA型、海兵隊用のB型、海軍機仕様のC型と同じプラットフォームで3種の機能を持たせて開発しています。
F-35は、単発エンジン最大の出力を持つF-135エンジンの開発中のトラブルや、機体構造の問題によって開発が遅延しています。F-35Aは、アメリカ空軍だけで1,763機導入予定ですが、2016年8月に運用開始されたばかりで、予定されていた機数の確保には、程遠いのが現状です。
その結果、老朽化してきたF-16との入れ替えが進まずに、F-16の改修によってだましだまし飛んでいるのが現状なのでしょう。
また、21世紀に入ってからのアメリカ軍はアフガニスタン紛争やイラク戦争などでの継続した戦争や、2017年までの軍予算の削減により、アメリカ軍は疲弊しています(2018年度は増額)。
訓練を行うだけの整備や、整備兵の数、規律を保つための士気などが、アメリカ軍全体で下がってきているのではないでしょうか?トランプ大統領は、強いアメリカと何度も繰り返していますが、兵力や士気は確実に低下してきています。
アメリカ軍は、日米地位協定により、米本土では行っていない、住宅地での危険な低空飛行や、墜落事故の調査を米軍内部で処理するなど、独立国家であるはずの日本に対して傍若無人なふるまいをしてきました。
空軍戦力の不足や、憲法による制約がある以上、アメリカ軍の駐留は認めざるを得ませんが、日本政府として今回の事故に対して、F-16の事故原因の調査、飛行中止くらいは求めるべきだったと思います。
航空機の関連記事はこちら
ピンバック: 真空管の有効活用?ミグ25と耐放射線カメラについて | K.T Dogear+
ピンバック: F-2後継機は国際共同開発へ | K.T Dogear+
ピンバック: F-2後継機は国際共同開発へ | K.T Dogear+