今回紹介する漫画は『湾岸ミッドナイト』です。『あいつとララバイ』でストリートのバイク漫画を書いていた楠みちはるがクルマの首都高ランナーを描いた本作は、チューニングや公道での走りというものを真面目に考察したものになっています。
目次 この記事の内容
- あいつとララバイとバリバリ伝説
- 首都高とチューニング
- チューニングのベース車両
- 首都高を走る男達
- 走りを深めることによって分かる深み
あいつとララバイとバリバリ伝説
あいつとララバイ
僕が小学生の頃の週刊少年マガジンには、バイク漫画の2大タイトルが連載されていました。片方はしげの秀一の『バリバリ伝説』、もう片方は楠みちはるの『あいつとララバイ』です。
80年代当時は、メカの描ける漫画家はたくさんいました。しかし、バイクを魅力的に描ける漫画家は少なく、その中でも楠みちはるとしげの秀一は抜き出ていました。僕はどちらかというとバリ伝派で、レースを扱っていく方に傾倒していきました。
ただ、『あいつとララバイ』のZ IIとストリートという題材も魅力があり、バイク漫画のおかげでバイクという乗り物が好きになったのは事実です。そして、しげの秀一が峠でのクルマ漫画、『頭文字D』を連載していた1990年代に、楠みちはるが描いていた漫画こそがこの『湾岸ミッドナイト』なのです。
首都高とチューニング
筆者が投稿したこの記事の動画バージョンです。
最初に楠みちはるがクルマ漫画を始めたと聞いて、題材が首都高らしいということで読み始めました。序盤は悪魔のZと言われるいわく付きのチューンドカーに乗る朝倉アキオと、そのライバルであるブラックバードこと島達也を中心に描かれていたのです。
ここに地獄のチューナー北見と、モデルでR32乗りのレイナが絡んできてからチューナーと乗り手というテーマを見せ始めます。公道でクルマでバトルする漫画で重要な要素は、80年代のジャンプ漫画『よろしくメカドック』でも分かる通りチューニングです。
ましてや300km/hでぶっ飛ばす(非合法なのでマネしないでね)首都高バトルともなれば、チューナーの存在は不可欠なのです。そこで登場するチューナーは、悪魔のZを作り上げた男、北見であったりボディ制作の天才、高木であったりします。
そしてこの作品で一番優れているところは、クルマを乗り手とチューナーが作り上げていく過程そのものです。ドライバーが優れていても、マシンがそれに追従しなければ、300km/hの公道バトルなぞ不可能であり、そこに説得力があるとすれば、クルマを作るという行為に向き合うことです。
チューニングのベース車両
ブラックバードのポルシェ911ターボ
もちろん、湾岸ミッドナイトには最高速300km/hを出せるクルマが登場してきます。アキオの日産フェアレディS30Zを始め、ブラックバードのポルシェ911ターボ(964型)を中心に、RX-7(FCとFD型)、ランサー・エボリューション、スープラ、S2000といった国産車が多数登場してきます。
特筆すべきは、同じニッサンの傑作車スカイラインGT-Rがライバルとして何度も登場してきます。特に第二世代のGT-R、名機RB26エンジンを搭載したR32〜R34までのチューンドカーが印象的で、伝説の首都高マシンに対抗するのは当時最強のチューニングベース車であるというところでしょう。
R32はメインヒロインのレイナ、チューナー兼ドライバーの平本、ACEのデモカーのドライバー友也と3人が搭乗しました。R33はRGOのメカニック山中やチューナー兼ドライバーの黒木がドライビングし、R34は名チューナー山本が乗っていました。
作中での登場が多いRX-7 FD
作中で一番登場するのがGT-Rの理由は、1980年代後半からのハイスペックな国産チューンドカーが多数存在する原因がこれだったからです。そして、作中でこれに次ぐ登場回数が多いのは、FCとFD型のマツダの名車、RX-7です。
FCは、カージャーナリストの城島が乗って登場し、その後しばしばFD乗りが何度か乗り込みます。FDは外車ブローカーのマサキや、峠をメインステージにしているオキ、FDマスター荻島、そしてRGOの名チューナー太田のマシンとして複数回に渡って出てきます。
1990年代当時の最新且つ首都高ランナーのクルマと言えば、GT-RとRX-7でこの2つは外せないといったところです。片や直6ターボの最新技術テンコ盛りの4WD車、片やロータリーターボのFR車と違いはありますが、首都高で最速を目指すならとりあえずGT-RかFD買っておけば間違い無かった時代でした。
アキオのZも、ブラックバードのポルシェ911も世界中に普及して人気のあるチューンドのベース車です。パーツが豊富にあり、ノウハウもあるからこそ、これからのマシンとしてGT-RやFDが対抗するのはある意味、当然と言えます。
ホンダ車はあまり優遇されておらず、NSXとか出ないのかなーって思っていました(涙)。しかし、S2000だけは評価されていたらしく本編では山本の弟と続編のC1ランナーにもヒロインが乗っていたので、少し安心しました(インテRだけボロカスにされていたけど)。
首都高を走る男達
平本の名言
悪魔のZとブラックバードには、様々なライバルが登場します。カメラマンでフェラーリ乗りのイシダは悪魔のZを作ったチューナー北見にチューンしてもらいます。三つ巴のバトルの中で、トラックが進路を塞いでZは接触し炎上します。
そして、次に現れる平本という元首都高ランナーの整備士が、悪魔のZと北見の工場で会ったことにより、再び走りに対して目覚めるようになります。奥さんに子供ができたことを知りながらも、走りに魅せられたその時のセリフが「・・・もう十分だ」なんですが、ここの平本の表情が男という愚かな生き物を現していて印象的でした。
平本が対悪魔のZ用のベース車として選んだのは、R32GT-Rでした。ここもリアルな話で、予算の関係やチューニング費用などの兼ね合いを考えるとやはりR32を選ぶべきなのです(ホンダは作者的にアウトオブ眼中)。
そして一方の悪魔のZは、エンジンは北見が、ボディは天才と呼ばれた男、高木がアキオを助手にして仕上げます。高木は板金屋として地位を持ち、かつてのように自分でボディを修理することが無かったのですが、悪魔のZだけは別でした。そして、アキオに自分の持つ技術と知識を叩きこむのです。
そして悪魔のZは復活し、ブラックバードを交えた3台で決着をつけます。一番最初に離脱したのは平本で、300km/hの大台手前でアクセルを戻しました。そしてつくづく勝者のいない場所だと語られるのです。
マサキとヤマ
次に登場したのはマサキという自動車ブローカーです。チューニング業界の2大大手、RGOのテストドライバーをしていた男で、ここからRGOのボス太田とその部下のヤマが登場してきます。
RGOはかつてロータリーのチューンで有名になりました。しかし、悪魔のZと出会って再び首都高を走るようになったマサキは、太田がエンジンを組まなくなり、半数以上がGT-Rのチューンになったと知って愕然とします。そして、太田に「太田さんの組んだロータリーがいいんです、俺」と言います。
その言葉に太田は動かされ、エンジンを組みます。ヤマは天才の組んだセンスというものを見て驚愕します。そのFDに乗ってマサキは悪魔のZとブラックバードに挑みます。
次はホストをしているケイという青年が登場します。ケイは80スープラ(やっとトヨタ車登場!)に乗っており、父親の相沢はかつての首都高最速の男でした。そして、ケイの元にエアロの専門家ガッちゃん、そしてECUセッティングのスペシャリスト富永など、後からも絡んでくるチューナーが登場します。
そして、レイナのR32のチューナーで2大チューニングメーカーYMスピード代表の山本と、RGOの太田が共同でエンジンを組み、ボディは高木で800PSを超えるスープラが誕生します。しかし、そのマシンはケイを死なせないためのある工夫が仕掛けられていました。
1巻ではパッとしないチューナーっぽく描かれていた山本が、8巻以降はチューナーとして北見、太田を並ぶほどの実力者としての存在感を出すようになります。実際、この3人の中で最も知性的でありながらも情熱を持ったチューナーとしてアキオ達に色々と教えていくようになります。
走りを極めることによって分かる深み
太田、山本、ガッちゃん、ケイ
8巻以降の名チューナーが登場してからは、首都高を走るという行為そのものに対する深い考察が入るようになってきます。特に、北見、太田、山本の3人のチューナーは長い年月をチューニングにかけてきただけに、言葉に重みがあります。
首都高こと首都高速道路は、東京オリンピックの開催の近い1950年代後半から本格的に計画が始まり、1964年の東京オリンピックの頃には一部の区間が開通していました。そして、現代に至るまで数多くの改修があり、さながらビルの合間を縫うようなレイアウトになっていったのです。
つまり高速道路でありながらもコーナーの多い、特殊な面白いコースが首都高なのです。そこを300km/hで走るという行為は、非合法なものであります。しかし、首都高でのバトルを正当化せず、公道最速を目指す男達にはちゃんとした哲学がありました。
ルール違反はするがマナー違反しない、という点が特に気になったポイントです。非合法の公道でのバトルに対して、最低限守らなければならないものがあるという認識は首都高ランナーやチューナーに共通の認識としてある大事なもので、そこを丁寧に説明しています。
それは退くべき時に退くことであったり、周りを敵にしない走りだったりします。高速道路だけではありませんが、公道で速いクルマは周囲の状況を的確に読むということが大事です。
公道で走るということは、当然ながら他の車のことも視野に入れていなければならないし、無理な割り込みやマナーを守らない運転は周囲にストレスをかけることになるのです。そういう走りを繰り返すと、大事故に繋がったりしますし、何よりも首都高で走る行為そのものを自ら否定することになるからです。
後編に続く
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