以前紹介した『エリア88』の主人公風間真の愛機、ノースロップ社の傑作戦闘機F-5EタイガーIIとF-20(F-5G)タイガーシャークを紹介します。F-5E/Fは、F-5A/Bフリーダム・ファイターの後継機として、主に輸出で素晴らしいセールスを記録し、後継機のF-20はF-16との競争に破れて試作機が3機製造されただけにとどまりました。
目次 この記事の内容
- F-5Eはマンガ序盤とテレビアニメの主役機
- F-5EタイガーIIは輸出機として大成功した機体
- シンの愛機といえばタイガーシャーク
- 悲運の試作機タイガーシャーク
F-5Eはマンガ序盤とテレビアニメの主役機
2巻P28 F-5EタイガーIIの戦闘シーン
F-5EタイガーIIといえば、エリア88の主人公、風間真の2番目の愛機です。作者の新谷かおるは、戦闘機を多数登場させるために、色々な戦闘機をシンに乗せていますが、後述するF-20タイガーシャークとタイガーIIは、一番シンのイメージに合っている戦闘機です。
シンは、エリア88のナンバー1パイロットで、ナンバー2がシンの親友のミッキー、3位がグレッグとなっています。ミッキーは、空戦のエキスパートで、グレッグは対地攻撃に優れた能力を持っています。シンは、空戦も対地攻撃にも優れた能力があり、出撃回数も多いパイロットです。
中東の架空の戦場を舞台にしたエリア88では、外人部隊パイロットが様々な機体で戦っています。イスラエルから輸入したクフィールは、司令官のサキが使っているのを初めとして一番登場数が多く(シンも搭乗)次いでA-4スカイホークが多い印象です。
エリア88では、主要メンバーに専用機的な存在の戦闘機が登場しており、主人公のシンは、色々な機体に乗り換えますが、タイガーIIとタイガーシャークは特に印象に残っています。
筆者が投稿した、この記事の動画バージョンです。
F-5Eは、主に輸出を目的として開発された戦闘機です。兵装は、M39A2 20mm機銃に加え、サイドワインダーなどの空対空ミサイルを搭載できる他、対地攻撃用のマーベリックや爆弾各種も搭載可能で、バランスの取れた軽戦闘機です。
また、1970年代〜現代に至るまで、色々な国で制式採用されていることから、部品も多く、整備性も高いです。出撃回数の多いエリア88にふさわしい機体といえます。登場は早く、1巻P77でF-8Eクルセイダーが撃墜され、その後の1巻P136に登場しました。
1巻P136参照 F-5EタイガーIIの初登場
武器商人のマッコイじいさん謎の調達力(後にそれが神がかってくる)で、シンに「軽戦だけど最新鋭じゃないか。よくこんなの手にはいったな」と言わしめます。それもそのはずで、エリア88が連載開始されたのは1979年です。F-5Eの初飛行が1972年ですから、連載当時は新型だったということになります。
劇中では、神崎との洋上での邂逅や、凄腕カメラマンロッキーなどの印象的な回に登場しています。ロッキーにF-5Aフリーダム・ファイターとの違いを聞かれたシンが、「似たようなもんだ・・・。エンジンの出力があがっているぶん上昇力と加速力がいい」と感想を述べています。
その後、もうすぐで150万ドルに達して、エリア88から除隊できる金額になる寸前、20mm機銃の弾が切れて、基地に帰投後機体の損傷によってタイガーIIは全壊します(2巻P111参照)。
その後シンは、ウルフ・パックとの決戦用に与えられたクフィールを愛機とし、後にサーブ35ドラケンに乗り換えます。その後も劇中でタイガーIIにシンが乗ることは度々あり、地上空母との決戦から後述するギリシャ基地、タイガーシャークのC整備中の代替機など専用カラーでない機体として登場します。
ぶっちゃけ専用カラーのタイガーIIは、単行本1巻分くらいしか登場していません(涙)。それでも、OVAと劇場版では主役機として登場し、後年のテレビアニメでも登場回数が一番多い機体になりました。アニメを見てエリア88を知ったファンは、シンと言えばF-5EタイガーIIという印象があります。
F-5EタイガーIIは輸出機として大成功した機体
スイス空軍のF-5EタイガーII
輸出で成功した機体と言えば、アメリカの場合はF-16ファイティングファルコンと、このF-5EタイガーIIです。タイガーIIは、安価で扱いやすく、運動性能の高い万能な戦闘機でした。そもそもT-38とF-5A/Bという傑作練習機と戦闘機の改良型であるF-5Eには、色々な国からの需要がありました。
1960年代から運用され、実績のあるF-5A/Bは、カナダやスペインでライセンス生産され、アジア、中東、ヨーロッパの国々に多数配備されていました。アメリカ本国でも練習機であるT-38が使われており、ノースロップ社は、これらの国々に輸出することを見込んで、F-5E/Fを開発したのです。
F-5の優れたポイントとして、軽量で整備性の高い小型のJ-85ターボジェットエンジンを2基搭載していることです。推力重量比(推力と重量の比率のこと)の高いJ-85エンジンは、ゼネラル・エレクトリックの傑作と呼ばれています。
スイス空軍のF-5E
F-5Eに搭載されている改良型のJ-85-GE21は、ドライで16kN×2、アフターバーナー使用時に22kN×2の推力を発生します。F-5Eの空虚重量は4,392kg、運用時に6,055kgとF-16Cの空虚重量8,620kg、F-15Cの12,916kgと比較すると圧倒的に軽いです。
エンジン推力はF-16やF-15の方が圧倒的に高く、同じエンジンのF-100の場合、単発でドライ64.9kN、アフターバーナー時106kN(初期型)、F110の場合はドライ76kN、アフターバーナー時131kNとなります。F-15は双発なので、パワーによって重い機体重量でも十分な運動性を持っていることになります。
F-5Eの優れたところは、軽量な機体による運動性能の高さです。主翼部分が浅い後退角なので、旋回性能が高く、翼の前面にあるストレーキによって、離着陸能力の向上と失速の防止などの効果が得られています。
F-5Aからの主な変更点は、エンジン出力の強化と、レーダー類の追加、空戦フラップの追加、2段伸縮式前脚の採用です。F-5E/Fに搭載されているAN/APQ-153レーダーは、赤外線誘導のサイドワインダーが使える程度のもので、セミアクティブ・レーダー・ホーミングのミサイルなどには対応していません。
それでも当時仮想敵としていたMig-21に対抗するには十分な性能があり、運動性と操縦性能、整備性能に優れた機体がF-5E/Fです。採用した国は母国アメリカを含めた36ヵ国となり、現代でも近代化改修されて使われ続ける、大ベストセラー機となったのです。
エリア88以外では、トム・クルーズ主演の映画、“Top Gun”に敵機として登場しています。これは、アグレッサー部隊(仮想敵部隊)にMig-21に似た特性を持つF-5Eが使われていたことからF-5Eを映画に登場させたということです。
シンの愛機といえばタイガーシャーク
12巻P46 F-5G(F-20)タイガーシャークとMig21のど迫力の戦闘シーン
漫画原作のファンからすれば、シンの愛機といえばF-20(F-5G)タイガーシャークです。連載時にはF-5Gと呼ばれていたため、最終巻でF-20と書かれていたときにはびっくりしました。たった数年で、ノースロップ社が台湾への輸出を断念し、中国に対する遠慮からF-5Gとなっていたのを、F-20と改名したためです。
劇中初登場は、山岳基地に移動する前のギリシャ基地でシンが再びタイガーIIに乗っていた時、マッコイが持ってきたのが、F-5Gタイガーシャークでした(9巻80P)。当時どこの国も採用していない機体がエリア88に登場したのには度肝を抜かれました。
というよりも、試作機3機のみのタイガーシャークを、マッコイがどうやって調達したのかは、今でも謎です。墜落した1、2号機を回収でもしたのでしょうか?ここは漫画なので深く考えたら負けです(大汗)。
当然ながら劇中ではシンの専用機となっています。実際のタイガーシャークの1号機の塗装を赤から青にして、垂直尾翼にユニコーンのマークがあるのがシンのタイガーシャークです。14巻でシンが除隊するまで、山岳基地で活躍しました。
23巻(最終巻)P166〜P167 風間真 最後の出撃 F-20に型式番号が変わっている
15巻の山岳基地脱出時にキムが搭乗し、海岸基地に移動後、そのまま倉庫に眠ったと思われます(その後キムが乗った描写がないため)。
神崎との最終決戦で、X-29から再びF-20となったタイガーシャークにシンが搭乗し、総ての因縁に決着をつけた機体です(23巻参照)。シンの搭乗した機体の中で唯一生き残ったのが、タイガーシャークです。
アニメでは、1985年から1986年にかけて販売されたOVAにも登場しています。2004年のテレビアニメは、タイガーIIは登場しましたが、タイガーシャークは出てません。これは、意外に序盤あたりで終わってしまっているアニメ化が原因です。エリア88を4クールでじっくりやってくれるアニメスタジオがあればいいのですが・・・。
劇中のシンの愛機は、F-8E〜F-5E〜クフィール〜サーブ35〜(使用期間は短いが印象に残っているF/A-18〜F-4)〜F-5E〜F-5G(F-20)〜X-29〜F-20(F-5Gと同じ機体で最終決戦仕様)となっていて、全23巻でかなり乗り換えています。
*シンの機体遍歴(所有した機体のみ一時的な使用は含まない)
F-8E クルセイダー | 1巻P6〜P77 |
F-5E タイガーII(専用カラー) | 1巻P136〜2巻P111 |
クフィール | 2巻P142〜4巻P136 |
サーブ35 ドラケン | 4巻P138〜5巻P167 |
F/A-18 ホーネット | 6巻P28〜7巻P133 |
F-4 ファントム(所有していないが印象に残っている) | 7巻P136〜8巻P31 |
F-5E タイガーII(迷彩塗装) | 8巻P125〜9巻P39 |
F-5G(F-20)タイガーシャーク | 9巻P81〜14巻P69(もしくはキムに譲渡したP110) |
X-29(実験機に兵装を追加した機体) | 21巻P78〜23巻P13 |
F-20 タイガーシャーク(F-5Gと同じ機体 マーキング名のF-20を追加) | 23巻P158〜P176(最終回後の詳細は不明) |
一時使用した機体については、1巻のF-15イーグル(戦術核をミサイルで迎撃)と、2巻と7巻と14巻のT-38、9巻のA-4スカイホーク、12巻のタイガーIIとなります。
また、マークIIIのボッシュとの訓練のジャギュアや、フランス滞在時にはセスナの操縦、大和航空時代の練習機などを劇中で使用しています。どれだけ飛行機好きなんだよ!ってツッコミたくなります(笑)。
ちなみにシンのトレードマークであるユニコーンを垂直尾翼にマーキングしているのは、F-8E、タイガーII(専用カラー)、サーブ35、タイガーシャーク、X-29のみです。
悲運の試作機タイガーシャーク
エドワーズ空軍基地のタイガーシャーク 向かって右がF-20の1号機で左はF-5F(F-5Eの複座型 形状からT-38ではない)だと思われる
F-20(F-5G)タイガーシャークは、決して性能の悪い機体ではありません。むしろ完成度の高い高性能機で、F-16よりも当初は安価に設定されていました。ならばなぜ、どこも制式採用しなかったのか?エリア88風にいうと「お前・・・。運がなかったな・・・」です(涙)。
1980年代のアメリカ議会では、高性能な戦闘機の輸出に慎重になっていて、エンジンを旧型のJ-79にダウングレードしたF-16を生産して他国に売る予定だったのです。F-16は当初、アメリカ本国とイスラエルとNATO諸国以外には輸出されないとなっていました。
ノースロップ社は、F-5GというF-5のバリエーションとして新開発した機体をF-16のダウングレードであるF-16/79と競合させるつもりでした。しかし、ノースロップが心血を注いで開発した機体は、想像以上の高性能機でした。
エンジンには、F/A-18で採用していたF-404ターボファンエンジンを単発で搭載しています。J-79と匹敵する推力である最大推力76kNを持ちながら重量は60%ときわめて優秀なエンジンです。つまり、この段階で重量面でF-16/79を大きく凌駕していることになります。
F-5Eと比較しても倍近い推力となっています。それでも、機体重量は空虚重量5,090kg、運用時に6,830kgと軽量で、運動性の高かったF-5Eよりも更に高機動となっています。ここから更に機動性向上のために、LERX(ストレーキ)の改良、シャークノーズ(タイガーシャークの命名はここから)の採用などがされています。
また、サイドワインダーは使えても中距離空対空ミサイルであるスパローを当時使用できなかったF-16に対して、タイガーシャークはスパローが搭載可能でした。サイドワインダーは、赤外線誘導で近距離向けで、スパローは、セミアクティブ・レーダーホーミングが可能で無線誘導の射程距離の長いミサイルでした。
スパローの運用を可能にしているのが、優秀なAN/APG-67レーダーの採用です。小型軽量で、連続波パルスに照射に対応しているため、中距離射程ミサイルの火器管制が可能になっています。
他にもデジタルディスプレイの採用や、HOTASによるスイッチ操作の簡略化など、当時の最新のアビオニクスを採用していました。F-16と異なり、フライバイ・ワイヤは水平尾翼のみでしたが、元になったF-5Eを更に改良した機動性は1980年代でも最高水準でした。
F-20(F-5G)タイガーシャークのスペック表
F-20(F-5G)タイガーシャーク | |
全長 m | 14.17 |
全高 m | 4.22 |
翼幅 m | 8.13 |
重量 空虚(運用)kg | 5,090(6,830) |
最大推力 kN | 76 |
最大速度 マッハ | 2.0以上 |
実用上昇限度 m | 16,800 |
戦闘行動半径 km | 556 |
フェリー飛行時航続距離 km | 2,759 |
ざっとスペックを見ただけでも、かなり優秀な戦闘機であることが解ります。ではなぜ、制式採用されなかったのでしょうか?アメリカの政権交代の影響で、台湾はタイガーシャークとF-16の輸入を見送り、アメリカの技術支援によって軽国という自国生産の戦闘機を採用したのです。
そして、その後のアメリカでF-16の輸出規制が解禁されたことです。F-16は台湾や、他のNATO非加盟国にそのままのバージョンで輸出されるようになったのです。
当初F-5G(F-20)に有利とされていた価格でも、大量にF-16を生産した結果、価格低減されるようになり、生産コストが低下することになりました。アメリカ本国でも採用され、価格も安くなったF-16がそのまま入手できることから、タイガーシャークを購入する国は無くなってしまいました。
台湾に輸出することがなくなり、F-16の輸出が解禁されたことで、正式にF-5GはF-20となりました。伝説のパイロット、チャック・イェーガーを使ったプロモーションビデオも制作されましたが、1号機、2号機の相次ぐデモフライトでの事故により、イメージが低下してしまい結局試作3号機までしか生産されることがなかったのです。
タイガーシャーク3号機は博物館でT-38と共に展示されている
墜落事故の原因は、最大9G+というとてつもないF-20タイガーシャークの高機動に、パロットが耐えられなかったからと言われています。当時の耐Gスーツでは、F-20のGに対応できず、パイロットが気絶するということが起こったのです。チャック・イェーガーが絶賛したように、F-20の機体性能が高すぎたために起きた悲劇といえます。
『機動戦士Zガンダム』に登場したガンダムMk-IIみたいな機体で、性能は高いものの、制式採用されず3機しか試作機が作られなかったのです。その内、生き残ったのが3号機のみという点でもタイガーシャークとガンダムMk-IIは似ています。
見方を変えれば、実際に使用されるということは、戦場で命を奪うということですので、タイガーシャークの3号機がカリフォルニアの博物館に展示されているというのは、幸福なことかもしれません。
エリア88の他にも、エースコンバットシリーズなどでも登場し、日本における知名度は高い戦闘機です。プラモデルは、ハセガワやタカラなどからも販売され、風間真の専用機カラーのキットもあります。
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