ホンダ CR-XとCR-Z:ライトウェイトFFスポーツカーの系譜

SUV車であるCR-Vの国内販売により、ホンダのCRシリーズには、新たなジャンルが加わりました。しかし、往年のホンダファンにとってCRから始まる車名の車といえば、ライトウェイトFF車であるCR-Xで、その後継車であったCR-Zではないでしょうか。

1980年代の初代バラードCR-X

初代CR-X

1983年に登場したホンダ バラードスポーツ CR-Xといえば、FFライトウェイトスポーツという言葉が思い浮かびます。どれくらい軽かったかといえば、1.3Lのエンジン搭載型で760kg、1.5Lで800kg 、1.6Lで860kgと1tを余裕で切る車重だったのです。

軽いということは、それだけで車にとっては性能に大きく影響します。パワーウェイトレシオ(重量を馬力で割った加速性能の数値)の面でも有利になりますし、制動距離や、コーナリング性能も向上します。

シビックの姉妹車であるバラードの派生型として、ファストバック(リアウィンドを寝かし傾斜をつけること)のリア周りもスポーツ車としての外観上の特徴となっています。3ドア・ハッチバックスタイルとクーペのようなファストバックの組み合わせは独特のスポーツイメージをもたらしました。

1984年には、直列4気筒の1.6LのDOHCエンジンを搭載する1.6 Siが追加されました。1.5Lモデルが最大出力110PSだったのに対して、135PSの最大出力を誇っています。この1.6L ZC型エンジンの搭載によって、CR-Xはよりスポーツカーとしてのイメージを高めました。

このZC型エンジンを搭載する姉妹車、3代目シビック Siは、全日本ツーリングカー選手権などで活躍しました。CR-Xも無限のデモカーが作られて、鈴鹿のマーシャルカーになったりしていました。

走りの良さと燃費が良く、ランニングコストも安いことから1980年代当時は、かなりの台数を街中で見かけました。今では、ほとんど見かけませんが、初代CR-Xは、子供の頃の憧れの車だったのです。

大きくなってしまった2代目CR-X

少し大きくなった2代目CR-X

1987年に販売された2代目のCR-Xは、先代と比較して大きくなってしまいました。これは、姉妹車のグランドシビックの車体が大きくなったことと無関係ではありません。全長が3,655mmから3,755mmへ、全幅が1,625mmから1,675mmへ、逆に全高は1,290mmから1,270mmに下がっています。

2代目CR-Xや、グランドシビックで重要なのは、1989年に名機といわれるVTEC(可変バルブタイミング&リフト機構)を採用したB16A型エンジンを搭載することです。これにより、燃費と出力向上という二律背反した要素を併せ持ちました。

2代目インテグラと同様に1.6LのB16A型を搭載したSiRは、最大出力160PSと、1Lあたり100PSを超えるという当時としては、規格外の出力を持っていました。「エンジンのホンダ」を体現する素晴らしいパワーユニットだったと思います。

個人的には、初代のスタイルの方が好きでしたが、2代目も悪くありません。弱点とされた後方視界の悪さが良くなっていることと、ワイド&ロー化したボディと、黒をイメージカラーにしたマッチョなスタイルから、人気はあったと思います。僕としては、小さく軽かった初代CR-Xの方が好みでした。

ちょっと軟派な3代目

電動ルーフが特徴の3代目CR-X デルソル

1992年から販売開始され、3代目となったCR-X デルソルはこれまでの硬派なイメージから一変し、電動ルーフトップを装備したタルガトップボディとなりました。これまでのおまけみたいな狭さの後部座席を廃してツーシーターとなったのも特徴です。

FF車としてのスポーツ性を追及した車ではなく、スペシャリティカーとしての楽しみを重視したスタイルは、CR-Xのイメージと合わなかったのかもしれません。EGシビックや、インテグラにスポーツ車としての地位が移り変わり、CR-Xの販売台数は少なくなっていきました。1997年には、CR-Xは生産終了となり、14年間の歴史に幕を下ろしたのです。

ホンダは、ユーノス・ロードスター(初代NA型ロードスター)から始まった、ライトウェイトオープンスポーツカーブームを意識していたのかもしれません。1996年から販売されたポルシェ・ボクスターは、ソフトトップの電動オープンスポーツカーとしてヒットしましたが、マーケティング戦略がきっちりとハマった例だと思います。

3代目CR-Xは、車としての出来は悪くはありませんでした。B16A型を搭載するSiRの最大出力は、170PSまで向上し、車重こそ1tを超えましたが、2代目からのダブルウィッシュボーン・サスペンションにより足回りも豪華です。

それでも、CR-Xという車名のスポーツイメージとそぐわない大幅なコンセプト変更により、当時の僕も好きではない車となってしまいました(オーナーの人すみません)。こういったオープンスポーツが国産車では希少となってしまった今では、悪いクルマではなかったのではないかと思っています。

CR-Xが登場した漫画作品

出典 https://www.amazon.co.jp/

ホンダ CR-Xが大活躍する漫画作品としては、1980年代に週刊少年ジャンプに連載していた次原隆二『よろしくメカドック』です。ちょうど、物語中盤のゼロヨングランプリ編で登場するのがメカドックがチューンしたCR-Xミッドです。

FF車は、構造的にミッドシップに改造しやすいことから、メカドックのCR-Xはミッドシップに改造されています。この漫画で、パワーウェイトレシオのことを学びました(大汗)。紫電改の伝説的チューナーが渋かったゼロヨングランプリ編は、結構好きなエピソードが多いです。

よろしくメカドックはアニメ化もされていて、オープニングもカッコいいので、ぜひ見てください。キャノンボール編のセリカXXが、オープニングに登場しています。

また、同じジャンプの『シティハンター』冴羽獠の愛車として、登場しています。連載中期~後期には、ミニクーパーに乗っているので、冴羽獠の車といえば、クーパーなのですが、連載初期は初代CR-Xでした。余談ですが、シティハンターの作者北条司と、よろしくメカドックの次原隆二は友人です。

2代目CR-Xの登場する漫画といえば、西風のGT-romanです。ヤングジャンプワイドコミックスの5巻に登場します。アルファ・ジュリア・スーパーに乗る沢田の後輩が、CR-Xに乗っています。

後輩の杉本のCR-Xが、アルファと勝負して負けて、アルファに目覚め、アルファ・ジュリア 1300GTAに買い換えてしまうというエピソードですが、西風先生はCR-Xが国産車で一番好きだと書いていました。

ハイブリッド・スポーツカーとして登場したCR-Z

ホンダ CR-Z

1997年にホンダは、量産型のハイブリッドカーとしては、トヨタのプリウスとほぼ同じ時期(世界初はプリウス)に、インサイトを販売開始しました。インサイトは、3ドアハッチバッククーペボディという、CR-Xを彷彿とさせるデザインでした。

初代インサイトと、CR-Xのコンセプトを引き継いだクルマが、2010年に販売開始されたCR-Zです。当時のホンダのハイブリッドカーは、IMAシステムによって駆動していました。

エンジンとモーターを並行して作動させるというもので、トルクが必要なときにモーターが駆動し、トルクを補うというものです。あくまで主役はエンジンでありモーターで補助することによって燃費を改善していました。

それに対して、トヨタのプリウスはTHS(トヨタ・ハイブリッド・システム)を採用していました。このシステムは、一般的に動力分割方式と呼ばれているもので、エンジンとモーターの出力を片方ずつ動作させることも可能です。

ハイブリッド・システムとしては、トヨタの方が出力の切り替えが出来るというメリットがあります。しかし、スポーツ性能として考えると、ホンダのIMAは悪くありません。マニュアルのトランスミッションをハイブリッドカーでも搭載できる利点を生かし、6速MTを採用しました。


また、モーターを加給機のように活用することにより、1.5Lのガソリンエンジン車でありながらも、2L車のような加速性能を実現したのです。しかし、燃費性能も重視されるハイブリッドカーなので、エンジンは1.5Lの直列4気筒SOHCで、最大出力は113PSと、ホンダのスポーツモデルとしては物足りないものでした。

CR-Zはニッケル水素充電池を搭載するので、車重も1,130kgと重く、モーターによってトルクやパワーを補助しても、スポーツカーとしてはそこそこの性能だったのです。販売当初は、結構売れていたのですが、こういった欠点が露呈され始め、目新しさがなくなると販売不振となっていきました。

しかし、ホンダはCR-Zをマイナーチェンジしていきます。2012年には、リチウムイオンバッテリーを搭載し、モーター出力やエンジン出力を向上させます。一番印象に残った変更点がステアリングホイールに取り付けられたプラススポーツボタンです。

このボタンを押すと瞬時に3L並みの加速が得られる(ホンダの広報の説明)というふれこみでした。実際には、そこまでの加速ではないにせよ、ネガであった出力不足を解消するための改良が施されました。エンジン出力は、6PSアップの120PSとなり、モーター出力も14PSから20PSに引き上げられました。

モーターは実際にはトルクの方が重要です。8.0kgf・mの出力が1,000rpmで得られます。14.8kgf・mの最大トルクと合わせると、22.8kgf・mとなります。低回転から最大トルクを発揮するモーターの特性により、加速性能は高いです。

2015年には、リアトレッドを10mm拡大し、サスペンションを見直しました。これにより、FFとしてのハンドリングの質感の向上と、衝突軽減ブレーキの搭載といった地味ながらも的確なアップデートを施していったのです。

また、2012年からは、無限よりスーパーGTのGT300クラスに参戦しています。2013年シーズンからは、ARTAもCR-Zをベースにミッドシップ化したCR-Z GTで参戦しました。その年、無限はCR-Z GTでシリーズチャンピオンとなったのです。

狭い後席を倒すと荷物もそこそこ入り、JC08モードで19,4km/Lの燃費の良さもあります。前期モデル(ZF1型)はともかく、中期から後期モデル(ZF-2型)はもっと売れてもよかったと思います。

フィットにもハイブリッドグレードがあったり、ホンダのスポーツ車は、シビックタイプRでも売れない時代なので、仕方がないことだとは思いますが・・・。

※CR-Z後期型のスペック表

ホンダ CR-Z (ZF-2 MT)
最高出力(エンジン)PS/rpm 120/6,600
最大トルク(エンジン)kgf・m/rpm 14.8/4,800
最高出力(モーター)PS/rpm 20/2,000
最大トルク(モーター)kgf・m/rpm 8.0/1,000
車体サイズ mm 4,105×1,740×1,395
車両重量 kg 1,150
使用燃料 無鉛レギュラーガソリン

夢よもう一度!CR-Xの復活はあるのか?

CR-Xの広いラゲッジスペース

1980年代には、ライトウェイトスポーツカーの需要はありました。安価で、燃費が良く維持費の安い、スポーツカーが売れた時代だったのです。初代CR-Xは、そういった需要のおかげで売れました。しかし、バブルが弾けた後の1990年代後半には、スポーツカーの需要は減少していき、CR-Xも生産終了となってしまいました。

ホンダは、スポーツカーの整理をし、ライトウェイトスポーツカーは、シビックとインテグラにタイプRを設定することで存続しました。また、オープンスポーツカーとして、S2000を1999年から2009年まで販売し、シビックは残ったもののインテグラも2006年には生産終了となるのです。

21世紀になってから、ハブリッドカーの需要が高まると、インサイトを販売し、売れ筋のコンパクトカー、フィットにもハイブリッドを設定するようになりました。その流れの中で2010年に販売開始されたのが、CR-ZでありCR-Xのコンセプトを引き継いだクルマだったのです。

これからは、徐々にクルマもEV化していきます。夢よもう一度といういことで、ガソリンエンジンで、安くて走りの楽しいCR-Xの新型が出ることを期待しています。

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