LET IT BLEED:リードギタリスト不在を逆手にとったストーンズの名盤

The Rolling Stonesの名盤は数多くあります。その中でも60年代最後のアルバム”Let It Bleed“は、出色の出来で筆者がストーンズの中で最も好きなアルバムです。

リードギタリストが不在のまま行われたレコーディング

27歳で世を去ったブライアン・ジョーンズ

ローリング・ストーンズの初代リードギタリストといえば、ブライアン・ジョーンズです。バンド初期にはリーダーでもあったブライアンは、1960年代中頃には麻薬にのめり込み徐々にリーダーシップをボーカルのミック・ジャガーと、リズムギタリストのキース・リチャーズに奪われていきます。

前作”Beggars Banquet“でも、あまり調子の良くなかったブライアンの様子がジャン・リュック・ゴダールの”One Plus One”で見られます。かつては、ストーンズを主導する立場だったブライアンが、バンドの中で孤立していくのは悲しい出来事でした。

結局、ブライアン・ジョーンズは1969年の6月にバンドを脱退します。そして、同年7月3日に自宅のプールで亡くなっていました。諸説ありますが、入水自殺だったのではないかと思います。27歳の若すぎる死でした。


2021年に亡くなったチャーリー・ワッツの追悼のための、この記事の動画バージョンです。

ブライアン・ジョーンズと仲の良かったミュージシャンは、ジミ・ヘンドリックスやイアン・スチュワート、ジョージ・ハリソン、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、キース・ムーンなど多岐にわたっていました。

一方で、バンドメンバーとは良好な関係ではありませんでした。ブライアンのドラッグを初めとする奇行によって、諍いが絶えずベースのビル・ワイマンのみが脱退に反対していたといわれています。

ブライアンの恋人アニタ・パレンバーグが、1967年のモロッコ旅行の間にキースと恋仲となってしまったことが、軋轢を生んだともいえます。

レット・イット・ブリードのセッションに参加しメンバーとなったミック・テイラー

Let It Bleed“のレコーディングは、1968年12月の”You Can’t Always Get What You Want“から始まっています。1969年の6月にブライアンが脱退していて、ギターの大半は、キースが担当しています。

そして、ブライアンの代わりに2代目のリードギタリストとして招聘したのが、ミック・テイラーです。“Country Honk”、”Live With Me”の2曲にミック・テイラーは参加しています。

ミック・テイラーは、このときジョン・メイオールの紹介でストーンズのレコーディングに参加しただけだと思っているようでした。シングル曲の”Honky Tonk Women“のジャケット写真にミック・テイラーが写っていることから、はっきりと1969年7月以降は正式メンバーとして活動しています。

ゲスト・ミュージシャンの活用

出典 https://www.amazon.co.jp/ アル・クーパーもゲストとして参加していた

レット・イット・ブリードには、多くのゲスト・ミュージシャンが参加しています。ブライアン・ジョーンズがギターだけでなく、マルチプレイヤーとしても優れていただけに、ブライアンの不調による穴を埋める必要がありました。

ピアノやオルガンでは、イアン・スチュアート(ストーンズのサポートメンバー)、アル・クーパー(ボブ・ディランやマイク・ブルームフィールドとの活動で有名)、ニッキー・ホプキンス(ジェフ・ベック・グループ)といった3人が参加しています。

他に、マンドリン奏者としてライ・クーダーがクレジットされており、ホンキー・トンク・ウイメンのリフを作ったのは自分だと主張しています。キースは、「オープンチューニングの使い方を教わっただけ」と語っていますが、どっちが本当なのかわかりません。


サックスは、ボビー・キーズでストーンズのサポートメンバーとして有名な人です。4曲目のLive With Meでのソロは、ボビーによる名演です。他に、1971年のアルバムスティッキー・フィンガーズに収録されている”Brown Sugar”でも素晴らしいサックスを吹いています。

また、1曲目の”Gimmy Shelter“では、R&B歌手のメリー・クレイトンが、ミック・ジャガーと見事なデュエットをしています。プロデューサーのジミー・ミラーは、適材適所ともいえる、これらの豪華なゲスト・ミュージシャンをうまく活用し、レット・イット・ブリードを歴史的な名盤に仕上げたのです。

LET IT BLEED解説

出典 https://www.amazon.co.jp/

1曲目のギミー・シェルターから強烈なギターリフとノリのいい曲で始まります。ミック・ジャガーと、メリー・クレイトンのデュエットも素晴らしく、名盤のオープニングにふさわしい曲です。

2曲目の”Love in Vain”はロバート・ジョンソンのカバー曲で、アコースティックな曲となっています。この曲のマンドリンを、ライ・クーダーが担当しています。3曲目のカントリー・ホンクは、シングル曲ホンキー・トンク・ウイメンのカントリーアレンジ曲で、ミック・テイラーのギターが聴けます。

続くリヴ・ウィズ・ミーでは、アップテンポの曲でまたまたミック・テイラーのギターが炸裂しています。ミック・テイラーが、レット・イット・ブリードで参加しているのはこの2曲のみであり、ホンキー・トンク・ウィメンは、当時のイギリスのシングルの法則として、アルバムには収録されていません

5曲目のタイトル曲、”Let It Bleed“は、アコギ主体の明るめの曲でここでのピアノは、イアン・スチュアートが担当しています。6曲目の”Midnight Rambler“は、ブライアン・ジョーンズが参加した最後の曲です。ブライアンは、パーカッションを叩いています。

ブルース・ハープは、ミック・ジャガーが担当しており、ミッドナイトランブラーでのクロスポジションで吹いたパートは素晴らしい出来です。

7曲目の“You Got the Silver“は、初めてのキースのメイン・ボーカル曲です。ブライアンは、この曲でオートハープを弾いています。アコギとスライドギターが印象的な曲です。

Monkey Man“は、キース・リチャーズここにあり!といった感じのカッティングギターのカッコいい曲です。ジャガー/リチャーズ名義の曲の中でも屈指の出来で、アルバムのハイライトともいうべき曲です。

そして、ラストの”You Can’t Always Get What You Want“は、7分29秒にもなる大作です。シングルのB面には、短縮バージョンでしたが、ここではフルバージョンで収録されています。

ロンドン・バッハ合唱団によるコーラスから入る曲で、徐々にテンポが上がってきて盛り上がると同時に楽器の数も増えていき、厚みを出していきます。チャーリー・ワッツのドラミングと、ビル・ワイマンのベースの息もぴったりで、レット・イット・ブリードの42分21秒は終了します。

レット・イット・ブリードは、リードギタリストの交代や、デッカ・レコードとの関係の終焉という、バンドにとって過渡期にあった時代の傑作アルバムでした。僕がストーンズで聴き込んだアルバムの内の1枚であり、まごうことなき名盤です。

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