ヤマハYZF-R6は、他のメーカーの600ccSSがEURO4などの排ガス規制に対応しきれていない中で、唯一規制をクリアしてきたバイクです。逆輸入車扱いとはなりますが、最新型のミドルクラスSSが欲しい場合は、YZF-R6はその最右翼となるマシンでしょう。
国内ミドルクラスSSの斜陽
YZF-R6 13S後期型 厳しい騒音規制でプレストでも販売できなかったモデル
最近、ホンダやスズキ、カワサキですらも600ccSS(スーパースポーツ)の新型を国内市場に投入することがなくなりました。主な理由は、EURO4と呼ばれるEU圏の排出ガス規制にひっかかるからです。
排出ガス規制に対応するための触媒の増設や、出力の見直しなどコストのかかる開発ができなくなってきているからです。人気の無くなってきたミドルクラスSSを、公道走行のために新開発することは、メーカーにとって負担の大きいことだからです。
ミドルクラスSSの国内の販売台数は、年々減少しており、最盛期に比べると5分の1程度の販売台数しか見込めません。具体的な例で挙げると、ホンダのCBR600RRは、2007年に年間販売台数1,500台です。しかし、近年では年間300台程度しか売れないのです。
メーカーとしては、人気のないバイクをわざわざ販売するメリットはありません。今回紹介するYZF-R6も2011年の13S後期型は、厳しすぎる日本の騒音規制に対応できず、ヤマハの輸入車の正規代理店プレストで販売できなかったこと(最初の1年間のみ販売)があります。この時期の国内モデルは、異常なほど静かなマフラーで去勢させられていたのです。
しかし、現在の日本の騒音規制はEU圏並みに緩和(加速騒音のみ対象)されており、ヤマハYZF-R6のみがユーロ4に対応した新型の600ccSSとしてプレストから正式にリリースされているのです。
進化したYZF-R6
2017年からフルモデルチェンジされたYZF-R6 BN6型
ヤマハは、斜陽ともいえるミドルクラスSSに新型のYZF-R6を2017年に投入してきました。最大出力は、118PSと規制のために以前の129PSと比較して下がりましたが、EURO4に対応して、北米だけでなく欧州でも販売可能にしています。599ccの水冷並列4気筒エンジンは、より熟成されました。
主な特徴は、電子制御の進化です。今回から搭載されたトラクション・コントロールは6段階で、より細かく路面コンディションに対応できるようになりました。また、出力制御できるD-Modeも搭載しています。YZF-R1同様QSS(クイックシフトシステム)と呼ばれるシフトの際に、より滑らかにギアを繋ぐ機構を採用しています(スリッパークラッチの進化型)。
また、アルミ製の燃料タンクを軽量化にために採用し、マグネシウム製リアフレームは、20mmのスリム化に成功しています。フロントサスペンションもR1と43mm径のインナーチューブのものになり、足回りは充実しています。
更に、カウルのデザイン変更とそれに伴うCdA値(空気抵抗)は8パーセント向上しています。LEDのヘッドライトは、フロントカウルの左右に目立たない形で埋め込まれています。アッパーカウル下部の丸い形状のLEDがヘッドライトで、細長いライトはポジションランプです。
中央のダクトの真上は、ゼッケンプレートをそのまま取り付けられるような空間のあるデザインとなっており、競技用直系の血筋を感じさせます。YZF-R1と共通のカウルデザインです。
※ヤマハ YZF-R6 BN6型スペック表
YZF-R6 | |
最大出力 kW【PS】/rpm | 87.1【118.4】/14,500 |
最大トルク N・m【kgf・m】rpm | 61.7【6.3】/10,500 |
車体サイズ mm | 2,040×695×1,150 |
車両重量 kg | 190 |
燃料タンク容量 L | 17 |
使用燃料 | 無鉛プレミアム(ハイオク) |
WSS600ccクラス最速の意義とは?
現在、WSS(スーパースポーツ世界選手権)は、4気筒600cc以下、3気筒675cc以下、2気筒750cc以下で競われる市販車ベースのレースです。1999年からFIMの公認となり、600ccSSの人気を背景に各メーカーがしのぎを削っていたレースです。
スーパーバイク世界選手権(SBK)の下のクラスということもあり、改造の範囲も制限されているだけに、ベースとなる車両の性能が重要なカテゴリーだといえます。レースに勝つためのマシンとして初代YZF-R6(5EB型)は1999年に販売開始されました。
ライバルのホンダCBR600RRと共に、600ccクラスを盛り上げてきたのは、YZF-R6の功績でもありました。MotoGPとは違った市販車ならではの魅力が、ミドルクラスのWSSにはあったのです。
排気量別の維持費の区分として保険料という問題がありました。ヨーロッパでは、600cc以下の排気量は保険料が安くなるのです。リッタークラスのSSなどは、年間30万円くらいの高額な保険料が必要らしいので、現実的に維持できるのが600ccクラスということのようです。
ただ、最近は排ガス規制によって去勢されたようになってしまい馬力競争もなくなりました。かつての国内の400ccレーサーレプリカが59PS規制によってつまらなくなったのと同じ現象が起きたのです。
結果として、バイクメーカーはリッターSSにより力を入れるようになり600ccのSSは新型の開発がなくなってしまいました。斜陽ともいえるこのクラスにヤマハが執念を見せる理由は、ハンドリングが重視されるこのクラスでチャンピオンを取ることで、レースに直結するメーカーとしてのブランドイメージを保つことでしょう。
YZF-R6は、最新技術の塊なので峠やサーキットメインのバイク乗りにとってはこれ以上ない相棒となってくれるでしょう。850mmのシート高や、きつい前傾ポジション、税込み156万6,000円という価格が許容できるのなら、ぜひ乗ってみたいマシンではあります。
バイクの関連記事はこちら
ピンバック: ホンダ CBR600RR:ミドルクラスSSの雄 | K.T Dogear+