2ストローク車はそのエンジンの構造上、4ストロークより、はるかに高い出力を誇っていました。しかし、排ガス規制が厳しくなり、現在は国内メーカーでは2スト車を生産していません。ホンダの最後の250cc2ストバイクCRM250ARは画期的な機構を持ったマシンでした。
CRM250ARのAR燃焼とは?
筆者が投稿したこの記事の動画バージョンです。
1990年代後半、年々厳しくなる排出ガス規制によって、2ストローク車を取り巻く環境が厳しくなっていきました。オートバイメーカーの旗手として、ホンダが1997年に販売開始したCRM250ARは、そんな状況を一変させるために開発されたデュアルパーパスバイクとして登場しました。
2ストは、ピストンが上昇するときに吸気をして混合気の圧縮をします。そして、ピストンが下降するときに排気を行います。この間クランク軸は1回転しています。
それに対して4ストは、吸気、圧縮、燃焼、排気をクランク軸が2回転する間に4回の行程(4サイクル)があります。
2ストは、このためにパワーは出やすいのですが、エンジンオイルを燃料と共に燃焼してしまうため、排気ガスの中にオイルが含まれることがあります。ですので、2スト車のチャンバーから出る白煙の中にはオイルが混ざっています。また不整燃焼によって、排気ガスのCO(一酸化炭素)やHC(炭化水素)が4ストよりも多いのです。
構造の単純さから、250ccまでの小排気量車には、用いられることの多いのは2ストでした。1990年代の後半までは、国内の小排気量の主流は2ストだったのです。
1997年に、販売されたCRM250ARは、2ストローク車の欠点を解消するための画期的なAR燃焼と呼ばれる機構を採用していました。4ストロークと比較して、行程の少ない2ストロークエンジンは、不完全燃焼が起こりやすいです。これは、シリンダー内のガス交換が不完全であるために起こります。
AR燃焼は、このシリンダー内の残留ガスと、新しい混合気を積極的にまぜて自然着火させています。つまり、2サイクル特有の自己着火現象(スパークプラグ以外の着火現象のこと)を積極的に誘発することで、低回転で起こりやすい不整燃焼を克服したのです。
これにより、従来の2ストエンジン車よりも32%の燃費向上と、HCを50%削減することに成功しました。
クリーンさだけじゃない?速かったCRM
出典 http://www.bikebros.co.jp/
CRM250ARは、クリーンな2ストローク車というだけではありません。114kgの車重と、40PSの最高出力により2ストロークのオフ車の中でも随一の速さを誇っていたのです。
またフロントには、倒立フォーク、リアにはストロークをアップさせたサスペンションを採用し、悪路走行に適した足回りを持っています。当時のライバルであるDT230ランツァや、KDX220SRや、DR250Sと比較してもCRM250ARの速さは抜き出ていました。
※CRM250AR スペック表
CRM250AR | |
最大出力 PS/rpm | 40/8,000 |
最大トルク kg・m/rpm | 4.0/6,500 |
車体サイズ mm | 2,195×825×1,215 |
車両重量 kg | 114 |
燃料タンク容量 L | 11 |
使用燃料 | レギュラー |
CRM250ARの燃費は、10.15モードでリッターあたり36kmで、モデルチェンジ前のCRM250Rの27.3km/Lよりも大幅に改善されています。249cc水冷単気筒エンジンとして、これだけの高性能と環境性能を両立した、ホンダの技術陣の執念には脱帽です。
2ストローク時代の終焉
ホンダ NSR250R SE
完成度の高いCRMを世に出した後も、2スト車に対する世間の風当たりは強く、これ以上の開発、販売を続けることは困難でした。ホンダは、1999年に全ての2ストローク車の生産を終了しました。
その中には、人気のあったホンダの2ストロークレプリカマシンNSR250Rも含まれていました。そして、画期的なAR燃焼システムを搭載したCRM250ARの生産終了によって、ホンダの輝かしい2ストローク軽2輪は、その長い歴史を終えたのです。
せっかく開発したAR燃焼のCRMを2年で生産終了された技術陣の気持ちは、さぞ無念だったでしょう。優れた技術による2ストローク最後の名車がCRM250ARなのです。
昔は、車検のない250ccのバイクでも400ccを凌駕するほどの性能を持ったマシンがあったのです。最近では、カワサキのH2シリーズのようにスーパーチャージャーを搭載したマシンが出てきています。ホンダにもそろそろ、CRMのようなぶっ飛んだマシンを作ってもらいたいものですね。
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