湾岸ミッドナイト解説 後編:唯一無二のクルマ漫画

前編に引き続き、湾岸ミッドナイトの解説の後編です。後編では、中盤〜終盤のストーリー解説と、全体的なこの作品の評価、そして続編であるC1ランナーについて解説します。

目次 この記事の内容

  • 中盤のストーリー解説
  • アキオとZの変化
  • 教わるから教えるへのシフト
  • C1ランナーに繋がるラスト
  • 続編C1ランナー
  • 唯一無二のクルマ漫画

中盤のストーリー解説

エイジとシゲ

13巻までケイと80スープラの話で、そこからはFLAT RACINGの黒木というチューナー兼ドライバーが登場します。黒木は、R-200CLUBという200マイル(約322km/h)を目指すという名のチューナーが集まるクラブに所属していました。

黒木はR33乗りで、レイナのR32と、悪魔のZに出会います。そこで、チューナー兼ドライバーとして、彼らとの走りをすることに決めます。一方で、ブラックバードに負けたR-200クラブの他のメンバーは、黒木が信頼していたチューナーが夜逃げした時に工場から荷物を引き取ろうとします。

黒木は、そんなR-200クラブに見切りをつけ脱退し、フラットレーシング単体で悪魔のZとブラックバードと決着をつけようとします。一方でZは、富永のキャブセッティングを受け、未知なる速さを得ていくのです。

筆者の投稿した、この記事の動画バージョンです。

次は大阪で会社を経営しつつ、ランエボ(三菱車!)を走らせているエイジが登場します。エイジは義理の母とその連れ子の弟と3人で暮らしていました。

エイジの会社は、トラックの輸送などの事業をやっていて、チューニングのショップというわけではないのですが、大阪でも有名なチューナーを阪神高速(筆者もよく知る高速道路)でカモるほどの腕を持ったプライベーターだったのです。

そして、不調だったブラックバード北見と共にマフラー作りの名手、シゲに会いにきたことをきっかけに東京に行くことにするのです。そして、RGOの太田、その娘で同じくチューナーのリカコと出会います。

リカコ、太田、ヤマに気に入られたエイジは、ファミレスとRGOで働きつつ悪魔のZとブラックバードと走るためにランエボをチューンします。ここで、ヤマとエイジがエンジンの組みとか機械の当たり外れについて話ますが、こういう部分は確かに工場で生産されるものにはあります。

特にチューンドカーのエンジンの組みは、チューナーのセンスがモロに出る部分で、天才チューナー、太田の血を受け継いだリカコはセンスの塊でランエボのエンジンを見事に組みます。そして、アキオ、ブラックバードと走るときにランエボの隣に乗り込みます。

エイジは上質な質感のあるリカコのエンジンをブローさせない選択をします。ブーストスイッチ10秒でブローすることを察知したからです。そして、悪魔のZとブラックバードは湾岸線で決着を付けますが、今回はっきりとブラックバードに力負けしてしまいます。

エンジンの何かが尽きたという表現がされていますが、オーバーホールする必要が出てきたということです。そして20巻から、色々変わることがあります。

アキオとZの変化

城島と悪魔のZ

自動車評論家で、元ゼロ(ブーストアップ専門のショップ)のテストドライバー城島が登場します。城島は有名な評論家になっていますが、元の愛称は『ビッグマウスの一発屋』と言い、タイムを出すドライバーとして名を轟かせていました。

城島がレイナと自動車番組で知り合い、その流れでアキオと出会います。そして、悪魔のZを操縦し、再び首都高を走る決意をします。一方でアキオはリカコにZのエンジンのOHを依頼し、リカコはZをRGOの工場に入れます。そして、とあるチューンを含めてZを仕上げるのです。

城島が探し当てた、かつてゼロで乗っていたアタリのFC(RX-7)は、御殿場(静岡)にありました。そこにいたのは、プライベーターとして北見や太田とやり合っていたというチューナーでした。

城島はFCの所有権をかけて、地元のFD乗り(オキ)と首都高バトルのドライバーとして、アキオを指定します。そして、アキオは城島の仕事を手伝いながら、FCに慣れるために走りこみ、オキとバトルします。その結果FCは城島のものになり、林の手で対悪魔のZ向けマシンとしてチューニングされるのです。

その一方で、なんてことのない速度で酔っ払いを避けるために起こした事故で、ブラックバードの911のボディは破損します。フレームの歪みが酷く、そこからリビルドする際に、パイプフレームをクロモリ鋼で形成し、ボディ外装をカーボンで仕上げるという脅威のチューニングを高木がすることにしました。

そしてその助手は、アキオが担当します。つまりアキオはボディワークの高木の仕事を手伝い、さらにブラックバードの911ターボのリビルドに協力することになるのです。

ここで着目すべき点があります。城島がアキオに車の知識を叩き込み、北見と富永はリカコにチューナーの先輩としてアドバイスをします。また、ここでも高木がアキオに自分の持つ技術を伝えていきます。20巻以降は大人のチューナーが若い世代に伝えるということがより重要視されています。

RGOのリカコ

また、ライバルとしてのドライバー同士の関わりも深くなっていて、ブラックバードのポルシェをアキオが高木と共に組み上げ、城島のFC探しを手伝うということまでやっています。

そして、この3人はこれまでの関係とは変わって馴れ合いません。首都高での決着を付けに走ります。つまり友人とか、チームとかではなく、競い合うことでしか分かり合えない関係=ライバルということなのです。

城島が300km/h手前でアクセルを踏めなかったことによりスピードダウンし、ブラックバードが軽量化されたボディの影響で250km/hでの挙動に不安を感じ脱落しました。勝ったのはアキオとZです。そして、今回の最大の変化はリカコの組み直したエンジン以上にドライサンプ化が大きかったのでした。


簡単にいうとエンジンの真下にオイルパンを配置し、そこにオイルを溜めるウェットサンプ式から、別にオイルタンクを設けて、オイルを圧送するドライサンプに変更したとことです。これにより、エンジンのマウントを下げることができるようになり、より重心を低くできるようになるのです。

ここから新たな悪魔のZの物語が始まるのですが、城島編以降、アキオは他のドライバーとの関わりが大きくなっていきます。

教わるから教えるへのシフト

20巻以降はアキオも変化していく

次に、インテグラ タイプRに乗る友也編から、アキオのスタンスはよりライバルに密接になっていきます。ACEと言うチューンドショップの代表、後藤は友也のインテRをC1でやり込めます。

そして友也をACEに誘い、ACEでのテストドライバー兼雑用係として、面倒を見るようになります。友也はACEのR34乗りとして、首都高を走り込むうちに悪魔のZと遭遇し、アキオと走るようになります。

その走りは、友也に首都高での走行のコツを伝授するようなものでした。しかし、友也はブラックバードとのバトルで事故を起こし、ACEのデモカーは大破します。

友也はインテRを売り、R32を探してACEのデモカーを製作することにします。アキオは友也とR32探しから手伝い、ACEの昔の客の乗っていたR32をベースにしたデモカーを手がけます。最後に後藤がR34のエンジンを載せ替え、R32は完成します。そしてアキオとブラックバードと走るのですが、友也は一番最初にアクセルを戻します。

次に登場したマコトは珍しく女性のドライバーで、キャバ嬢です。ランエボから、Z32に乗り換えます。元々このZ32は町の自動車工場をやっている山下の所有する車でした。山下は、元々Z32しか速くできないチューナーでした。

第二世代GT-Rと同時期に出たZ32は同じ日産車でも、扱いが違いました。R32〜34まで改良され続け、チューンドカーのベース車として人気のあったGT-Rと違い、Z32は日陰の存在として描かれています。実際には北米市場では人気があったみたいなのですが、言われてみればGT-Rの方が日本ではよく見かけていました。

33巻からは、YMスピードの山本が再び登場し、半分だけ血の繋がりのある異母兄弟のユウジというカメラマンをドライバーにして、ゼロ戦に近い車を作ろうとします。その候補として、GT-RやFDや、NSXも出てくるのですが、最終的にユウジが選んだのは、富永の乗っていたS2000でした。

このS2000にタービンを入れて、対悪魔のZとブラックバード向けにチューンするのですが、S2000はそのままの状態が一番完成されたマシンでした。ここから手を入れる行為こそ、チューニングの間違った面であり、その崩れたバランスの先にある速さもまた、チューニングでないと得られないものなのです。

C1ランナーに繋がるラスト

荻島とBMW M3CSL

最後の相手は、荻島というGTカーズという車雑誌の記者だった男です。荻島は、FDマスターという通り名があり、RX-7のFDを愛車として乗っていました。荻島はGTカーズが廃刊となってから営業マンになり、主に病院関係を回っていました。その理由は医者である島達也ことブラックバードを探すためでした。

そんな中夜の首都高でYMスピードの山本のR33に会ったことを皮切りに、RGOの太田とも知己を得ます。そして、リカコに北見と高木を紹介されます。なんのかんのとRGOに入り浸るようになる荻島は、太田と共に吉井というチューナーを探しに出かけます。

そこで出会ったのは、北見を隣に乗せたブラックバードでした。太田は吉井をRGOに誘います。そして、荻島はレイナのR32と走り、最後に悪魔のZと出会うのです。そして、荻島は会社を辞めてRGOに入り、吉井と太田が目指す究極のRX-7のベース車に自分のFDを提供するのです。

荻島の理想はニュルでタイムを出したBMW M3CSLでした。そこで太田は高木にM3CSLを用意させます。助手として高木を手伝っていたアキオと荻島はCSLのニュルスペシャルとしてのポテンシャルの良さに気づきます。

ニュルブルクリンク北コースを8分切るタイムを叩き出したM3 CSLはFRで360PSのエンジンを載せています。つまり、超弩級スポーツに匹敵するタイムをM3CSLは出していたのです。

RX-7のネックは、パワーを出してもボディが受け止めきれないことでした。そこで、高木は一度FDを重くし、そこから軽量化するという方法で仕上げることにしました。また、太田と吉井の組むエンジンの上限を400PSとすることで、バランスを取ることにしたのです。

明けの明星とアキオ

一方でレイナが、日本から離れてアメリカへ行くことになりました。ここでアキオと明けの明星(金星)とルシファーの話をします。そして、太田は荻島に記者に戻ることを勧めます。ここは続編のC1ランナーに繋がっていきます。

そして、3台のバトルは、アキオが一番前で、荻島が真ん中、ブラックバードと続いて決着がつきました。最終回では、アキオがそれぞれの門出を祝うかのように走り、明けの明星を見つめるようなレイナとZ、そして首都高が描かれて42巻に渡る長い物語は幕を閉じるのです。

続編C1ランナー

ノブと荻島

湾岸ミッドナイトの第二章である『湾岸ミッドナイト C1ランナー』は、第一作の連載終了時の2008年から2012年にかけて週刊ヤングマガジンに連載されました。その内容も、荻島編をそのまま引き継ぐ形で、首都高ランナーと雑誌編集という二つのテーマのある作品となっていました。

首都高、それも環状線であるC1における走りの部分を、ノブというFD乗りの青年を通して描きつつも、カー雑誌、GTカーズの復活というテーマを荻島と荒井の2人で突き詰めていくという内容でした。

面白かったのは、雑誌を作るということもそうですが、会社として経営するという視点があったことです。そこは、荻島の元カノのドゥリー代表良美と、S2000乗りのエリの視点でも語られることが多く、ロマンを追求する男達よりも、実務を重視する女性達の印象が際立っていました。

また、FDマスターとFD乗りの青年が主人公ということで、RGOの太田とリカコも登場し、後半ではブラックバードこと島の留学に伴い、ノブにポルシェが託されるという展開があったりしました。

12巻できちんと完結し、かなり面白い作品だったのですが、やはり車と首都高というストレートなテーマのある前作の方がインパクトがあったように思います。

また、第3作目となる『銀灰のロードスター』はの小学館から刊行されていましたが、2巻で終わり、その続編の『首都高SPL』が再び講談社に戻って現在、10巻まで刊行されています。

唯一無二のクルマ漫画

S2000とユウジ そして北見と島 悪魔のZ

この湾岸ミッドナイトは、車好きの友人が好んで読んでいたことを思い出します。この友人とモーターショーでR35のGT-Rを見に行ったのもいい思い出です。2人とも、実車見て大興奮して、後からR35の値段聞いて買えねーって叫んでたのは苦い思い出ですが(笑)。

楠みちはるの湾岸ミッドナイトは、確かに旧車と90年代の最新型との走りという一見するとファンタジーのような要素にちゃんとした裏付けのある作品でした。というのも、チューンドカーというものは、チューナーのセンスによってゴミにも宝石にもなる、というセリフの通りだからです。

そして作中で荻島が語っている通り、メーカー肝入りの純正チューンの良さも語られていたり、作者(楠みちはる)の愛車RX-7の欠点も含めてきちんと描かれているのです。また、頭文字Dとよく比較されますが、あっちは峠、こっちは首都高と棲み分けがされており、イニDではちゃんとホンダ車が活躍しています(笑)。

ただ、車を作るという工程は、確かに湾岸ミッドナイトの方が印象が強く、首都高で速く走るというところは、『キリン』にも通じるところがあり、突き詰めるとパワーはあればある程いいと思わせてくれた作品でした。バイクは峠で楽しむことが多いので、大パワーはいりませんが、車で阪神高速乗るならハイパワー車欲しいです(大汗)。

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  1. ピンバック: 湾岸ミッドナイト解説 前編 首都高ランナーのリアルな描写 | K.T Dogear+

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