伝説巨神イデオン 接触編:逆境を覆す重厚なストーリー

『伝説巨神イデオン』は、ロボットアニメの最高傑作と呼び名の高いアニメです。『機動戦士ガンダム』日本サンライズ富野喜幸(由悠季)が総監督として1980年に制作し、放送した作品です。今回は前編(接触編)として主にテレビシリーズの解説をしていきます。

目次 記事の内容

  • 第1の逆境:主役メカのデザインが酷い?
  • 第2の逆境:ポストガンダムに対する期待の重さ
  • 第3の逆境:難解なストーリー展開
  • 伝説巨神イデオン:ストーリー解説

第1の逆境:主役メカのデザインが酷い?

出典 http://www.ideon.jp/index.html アイキャッチも含めて画像は全て公式ページより

イデオンのデザインはまさに第六文明人の遺跡だった・・・

1979年に放送された『機動戦士ガンダム』は、後にリアルロボットアニメの開祖として評価されますが、当時の視聴率は散々で、52話の予定が43話で打ち切りになってしまいました。

ガンダムの人気が出たのは、打ち切りが決定してからであり、放送終了直後に再放送するように嘆願書がテレビ局に送られてくるほどの人気が出たのです。また、放送終了半年後から販売されたガンプラ人気の加熱により、まさにガンダムブーム元年と言っても過言ではないのが、1980年でした。

同じ日本サンライズのオリジナルアニメとして、ガンダムの放送が終了した1980年5月から、東京12チャンネル(現東京テレビ)で放送されたのが、『伝説巨神イデオン』です。

ガンダムと同じ、日本サンライズ(現サンライズ)が制作し、ガンダムの生みの親富野喜幸が総監督する本作には、注目が集まりました。しかし、イデオンという作品には色々な逆境があり、一番の問題は主役メカのデザインが酷いということでした。

当時のロボットアニメは、おもちゃメーカーとコラボして企画がスタートするので、『伝説巨神イデオン』はトミー(現タカラトミー)がおもちゃを作って、それに対する宣伝費として番組のスポンサーになってもらっていたのです。

日本サンライズは、主役メカのデザインをサブマリンに外注し、あのイデオンのデザインで企画が通ってしまいました。その後、富野監督が本作に参加したので、デザインの変更が出来ない状態で監督をする羽目になってしまったのです。

はっきり言ってイデオンのデザインは酷いものでした。当時は、よくジム神様とか呼ばれていましたが、確かにガンダムの量産型MSであるジムに酷似した頭部です(笑)。

張り出した肩部、救急車のようなカラーの赤をベースに無意味に変形する3体のメカは、航空機、戦車、合体ロボという一昔前のスーパーロボットのようなダサいもので、ガンダム以降の大河原デザインのカッコいいリアルロボットを見慣れた視聴者には意味不明なものにしか見えません。

この主役メカのデザインを見て、富野監督は『これは第六文明人の遺跡です』という有名な?話をして、企画を考え始めました。確かに、このデザインのおもちゃを売れと言われればそうなります(絶対無理だろ!)。

筆者の投稿した、この記事の動画バージョンです。

つまり、イデオンのデザインが酷かったために、ハードで本格的なSF設定を盛り込み、ガンダム以上にシビアな世界で視聴者を引き込むしかなかったのです。このイデオンの凄いところは、これだけ酷いデザインが、富野監督の言う「第六文明人の遺跡」として見ると神秘性すら感じるようになる演出の凄さだと思います。

ちなみに筆者自身は、作品を見ているうちにイデオンの神秘のデザインにハマってしまいました。あくまでも客観的に見たデザインの酷さということでして、イデオンは好きなロボットです(大汗)。

第2の逆境:ポストガンダムに対する期待の重さ

主人公 ユウキ・コスモ イデオンAメカとイデオンのメインパイロット アフロヘアが斬新!

『機動戦士ガンダム』は、リアルロボットアニメの元祖として名作です。また、日本サンライズは、それまでに『無敵超人ザンボット3』や、『無敵鋼人ダイターン3』などの優れた作品を生んだアニメスタジオです。

当然ながら、イデオンにはポストガンダムとしての期待がかけられていました。ところが、路線は大きく異なり主役メカが遺跡でスーパーロボットのような合体メカ、敵となるバッフクランの重機動メカは、異質な文明の巨大メカでこれまたカッコ良くはありませんでした。

ガンダム以降を期待した層から反発された主な原因は、メカのデザインだと思います。しかし、イデオンが名作なのは逆にこのメカデザイン故だと思います。というのも、全高105メートルのイデオンと、同等サイズもしくは、それ以上に巨大な重機動メカとの戦いが主眼になります。

戦艦の半分のサイズのメカが、グレンキャノン(加粒子砲)やら、ミサイルなどを連射しながら殴り合うというコンセプトは、さながら大艦巨砲主義の戦艦同士の打ち合いのような迫力があります(小説版参照)。イデオンは、Bメカ魔のコックピットの他に砲手がよく死にます(涙)。

この後に作られたサンライズのロボットアニメが、ガンダムのようなカッコいいリアルロボットを志向したメカばかりになり、どんどん戦闘が高速化していく中にあって、イデオンと重機動メカのような迫力のある重量感のある戦闘は見られなくなっていくのです。

そして、後世において板野サーカスと呼ばれるようになる、アニメーター板野一郎の描くミサイルがうねりながら飛んだり、バッフクランのアディゴ(小型の重機動メカ)や、ギル・バウなどの戦闘機やイデオンの各メカ(飛行形態)が高機動で描かれる演出は素晴らしかったです。

イデオンの全方位ミサイル(スーパーロボット大戦にも登場)も、一度に各ミサイルが発射される表現は、群を抜く演出でした。また無限エネルギーイデによって発現する宇宙規模の武器は、アニメ史上最強クラスの威力を誇っています。外宇宙に広がるソロシップのスペース・ランナウェイは壮大なストーリー展開で魅了するのです。

このようにイデオンには、ガンダムにはない世界観によって逆境を跳ね返すほどの演出がありました。『ドラゴンクエスト』のすぎやまこういちの音楽も盛り上げていました。特に、重機動メカとイデオンの戦闘は大迫力で、劇場版をスクリーンで見たかったです。

第3の逆境:難解なストーリー展開

ドバ総司令の娘 カルル・アジバ

イデオンのストーリーは、とても難解だと言われています。島本和彦の漫画『アオイホノオ』の中で若き日の焔燃(ホノオモユル)が、本屋のおばちゃんに「難しいて、よーわからへんねん」と言われ、イデオンの内容についてアドバイスを求められたものの、聞かれた本人もよく解っていない(笑)という話がありました。

かく言う筆者自身も、イデオン放送時は5歳だったので、36チャンネル(サンテレビ)の劣悪な電波に格闘しつつ本作を見ていても、さっぱり意味が解らなかったことを覚えています。富野アニメのストーリーは、最低でも小学生高学年、もしくは中学生以上といった当時のアニメ視聴者としては年齢層の高い層に向けた作品だったのです。

そして、実はここに大きな矛盾がありました。トミーのおもちゃは、完全に小学生向きの作りをしており、イデオンのような重厚かつ壮大なストーリー展開の作品とは死ぬ程相性が悪かったのです。

しかし、ポストガンダムを期待されていた日本サンライズのスタッフも、富野監督も薄っぺらい子供向け番組を作る気はさらさらありませんでした。イデオンの凄さは、視聴率のとれない難解なストーリーにありました。

伝説巨神イデオン:ストーリー解説

西暦2300年に、地球から移民してきた人々によってソロ星と命名された移民星(アンドロメダ星雲の中にある惑星)には、人類が接触した第6番目の文明である第六文明人の遺跡がありました。

地球移民達は、その遺跡を掘り出しました。そして、3つのメカと一隻の船があることがわかりました。まるで戦闘車両のように見える3体のメカは、10万年前の地層に埋まっていたメカとは思えないような錆一つないマシーンでした。

一方で、バッフクランと呼ばれる地球とは異なる文明を持つ異星人もロゴ・ダウ(ソロ星)にイデの捜索隊を派遣していました。その捜索隊を指揮するギジェ・ザラルは、バッフ・クランの宇宙軍の総司令の娘で、婚約者のカララ・アジバを伴っていました。

イデとは、バッフクランの伝説にあるイデの果実を口にした英雄の伝説にある無限の力のことです。イデの調査隊が派遣された背景には、5年前からバッフクランの母星に降り続ける流星が、イデの星と呼ばれるロゴ・ダウ方面から来ていることが解ったからでした。


バッフクランの間で、再びイデの伝説が流行しているということは、正規軍規模ではないにしろ、外宇宙船を使って捜索をするには、十分な理由たりえました。カララ・アジバは17歳の少女らしい好奇心から、ソロ星の地球人とイデの巨人を直に見てみたいという欲求にかられ、侍女のマヤヤと共に降下したのです。

しかし、階級制度を導入し、ドバ総司令の娘であるカララの身に何かあった場合は、処刑されるバッフクランの軍人達は、ソロ星の地球人と交戦を初めてしまいます。

その混乱の最中、発掘されたメカを偶然動かしたのは、Aメカに乗り込んだユウキ・コスモアフタ・デク、Cメカのイムホフ・カーシャといった少年少女達と、Bメカの軍人であるジョーダン・ベスや、研究者のフォルモッサ・シェリルでした。

初代Bメカパイロットでソロシップの艦長 ジョーダン・ベス

3つのメカは合体し、一体の全長105メートルもの巨大なロボットになりました。その姿は、バッフクランの伝説にあるイデの巨人の姿そのもので、間近で目撃したカララは思わず、「伝説の巨人があんな機械であるはずがない・・・。伝説の巨人はもっと輝くものだ」と呟きます。

2機のコポラ(バッフクランの戦闘機)は、巨人メカに破壊されました。そして、地球人達は、合体する時に現れるゲージがIDEON(どちらかというとギリシャのアルファベット)と表記されることからイデオンと名付けるのです。ギリシャの哲学者、プラトンのイデアが元になっていると思います。

結局、コスモやカーシャは、イデオンを動かした時の起動のキーとなる存在であり(若い方がイデのゲージが上がりやすい)、それぞれAメカとCメカのパイロットをすることになるのです。Bメカは、ベスがしばらく担当します。

Cメカのパイロット イムホフ・カーシャ

そして、地球製のグレンキャノンやミサイルをイデオンの全身に配置して、サブシステムとして接続していたコンソールパネルと接続し、各メカに砲手も置くようになりました。

そして、イデオンにとって重要な母艦となるソロシップも、本格的に発掘され、Bメカのパイロットからベスが艦長となります。Bメカのメインパイロットは、よく死ぬことで有名ですが、ベスだけは唯一Bメカのコックピットで死ななかったのです。ベスの後任には、軍人のファトム・モエラBメカ・魔のコックピットに搭乗します(合掌)。

ソロ星から脱出する前に、ソロシップに乗り込んでいたカララは異星人であることが知られてしまいます。この頃には、ギジェを始めとするバッフクランは、カララを救出し、イデオンを奪還するという目的のために、ソロ星の地球人と戦闘を繰り返していました。

異性としてお互いに意識し始めたベスの計いによって、戦闘アドバイザー(バッフクラン軍の情勢に詳しい)としてソロシップに居場所が出来つつあったのですが、家族をバッフクランに殺された少女パンダ・ロッタによって暗殺されかかります。

しかし、パンダ・ロッタは、銃の弾丸が尽きるまで撃ってもカララに当てられませんでした。「弾が・・・出なくなっちゃったよ・・・。弾がなくなっちゃったよ」と泣き崩れるパンダ・ロッタをカララは抱きしめ、ソロシップのクルーはカララを信用するようになります。

重機動メカ ジグ・マック

一方で、ソロ星でカララを救出出来ずにいたバッフクランでは、失敗し続けたギジェに代わり、カララの姉、ハルル・アジバがイデオンの奪還作戦の指揮を取るようになります。正規軍の参戦により、最新鋭の重機動メカであるジグ・マックが登場したり、最新鋭戦闘機、ズロウ・ジックがイデオン各機を苦しめました。

カララは、なんとか姉のハルルと話をして、無益な戦争を止めさせようとします。無限エネルギー、イデによって文明同士の接触が謀られ、ソロシップの孤児の一人で赤児のハイパー・ルゥの防衛本能により、イデオンとソロシップのバリヤーが強化されている事実は、無視出来ないものとなっていたからです。

ドバの娘でカルルの姉でもあるハルル・アジバ

しかし、ハルルは異星人に囚われながらも、生き恥を晒しているとカララとの話合いを拒絶します。肉親に見放されたカララは、バッフクランに戻れなくなるのです。ベスは、そんなカララとの関係を深めていくのでした。

ブラジラー基地で、総司令カミューラ・ランバンに母のように親しんだコスモでしたが、カミューラ・ランバンはバッフクランの攻撃により、死んでしまいます。コスモはイデオンで戦い、「カミューラ・ランバンのかたきー!」と叫んで、イデオンの両腕を交差し全身からミサイルを発射します(俗にいう全方位ミサイル)。

このシーンの凄いところは、ただの地球製のミサイルの一斉発射なのですが、コスモの意思に共鳴したかのように、バッフクランのメカを一瞬で全て破壊するところです。そして、イデオンのメインカメラから光芒が伸び、コスモの叫びと同じく、イデオンも唸るのです。

姉妹の関係をイデがもっと知りたくなったからか、DSドライブと呼ばれる亜空間飛行(ワームホール理論によるワープ)中に、ソロシップと、ハルルの指揮するドロワ・ザンがニアミスしたことがありました。

物理の法則すら曲げてしまう、イデオンとソロシップの力の前にハルルは、危うく死にかけます。しかし、かつて恋仲であったオーメ財団の傭兵ダラム・ズバにより救出されます。

伝説巨人イデオンの中で一番強烈なキャラクターといえば、フォルモッサ・シェリルです。言語学や考古学者として一目置かれている女性ですが、とにかくヒステリー気味で、いつも周りに当たり散らしているという、とんでもない性格でした。

更にこのシェリルは稀に見るほどの不幸体質のキャラクターで、肉親やら好きな男性が必ず死に、その度に酒浸りになります。一応18歳という設定なのですが、萌え要素は皆無です(笑)。

強烈なキャラクター フォルモッサ・シェリル

キャラクター・デザイナーの湖川友謙の白眉ともいうべき、イデオンの登場人物は、重厚なストーリーにふさわしい個性を持っていました。異星人バッフクランは、左利きが多く、髪や目の虹彩が微妙に地球人と違っていたり、やたらとサムライという概念を持ち出します。

途中で立ち寄ったアジアン星にバッフクランが撃った準高速ミサイル(準光速にまで速度を高めることで多大なエネルギーを持ったミサイル)を、イデオンが勝手に照準してミニブラックホール(MBH)を腹部から発生させ防いだのです。制御不能なメカとしてのイデオンの姿が出始めてきました。

また、囮としてオーメ財団のダラム・ズバに攻撃されていた植民星のキャラルで、コスモは孤児達を守るキッチ・キッチンと知り合います。コスモは、キッチンに仄かな恋をするのですが、イデオンと戦闘し、重機動メカから脱出したダラムが、銃を持って攻撃してきた子供達と応戦してしまい、キッチンは射殺されてしまいます。

また、イデオンはソロ・シップに埋め込まれる形で存在していたイデオンガン(波動ガンから改名)を腹部のMBH発生装置のコネクターと接続して使用します。このイデオンガンの威力はとんでもなく、たった一撃でバッフクランの艦隊を消滅させるほどのエネルギーを放出したのです。

最初に登場した頭痛メカ ガルボ・ジック

アニメでは、エネルギーの光芒が走った先に、竜巻のようなブラックホールの渦が光芒周辺の物体を飲み込み破壊していくような表現がされていました。まさに天文学的なエネルギーの奔流が大艦隊を消滅させるのです。

イデオンガンは、サンライズアニメの第1作『無敵超人ザンボット3』イオン砲と呼ばれる強力な破壊力の大砲が元ネタです(バイオニック・コンデンサーというセリフは共通している)。

このようなロボットが使う大砲は、『重戦機エルガイム』のバスターランチャー、『機動戦士Zガンダム』の百式のメガ・バズーカランチャーといった後の富野作品にも登場しています。

ゲル結界と呼ばれるパイロットの脳波を破壊する重機動メカと戦った時に、偶然乗り込んでいたハイパー・ルウの泣き声に呼応する形で発現したイデオンソードと呼ばれるイデオンの手首から発生する長大なビームの剣は、惑星をも両断するほどのエネルギーを発生するようになっていきます。

このように宇宙規模の無限力の持つ強大な力は、バッフクランを怯えさせ、戦いはエスカレートしていくのです。次回は、発動編(後編)を書いていきます。

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