EASTER Patti Smith Group バランスのいいパンクのアルバム!

Rock名盤解説、File30のキリ番は、初のパンクアルバムです。パティ・スミス・グループの3枚目のアルバムのEASTERは、バランスのいい名盤でした。パティのフェンダー・デュオソニックについても解説します。

アメリカのパンクシーン

パティ・スミス・グループ

80年代の日本の漫画TO-Yについて紹介したとき、ちらっとパンクについて書きました。Rock名盤解説の30枚目のアルバムは、パンクのアルバムから選びました。本来は、ロックをあまりジャンル分けしたくないのですが、パンクというムーヴメントが、1970年代以降の音楽シーンに与えた影響も大きいので書きます。

セックス・ピストルズや、ザ・クラッシュの影響で日本では、パンク=イギリスのイメージがありますが、アメリカのパンクシーンの方が先で、優れたアーティストを輩出しています。今回はニューヨークパンクの女王と呼ばれたPatti Smithを取り上げました。

そもそもパンクとは、音楽的ムーヴメントであると同時に、文化的なムーヴメントでもありました。1960年代後半~1970年代にロックがハードロック的な進化を遂げると、徐々に複雑になり、産業化していきます。

パンクの音楽的特徴を簡単に説明すると、スリーコード主体のシンプルなロックです。どんどんテクニカルになっていき、大衆のためのロックではなくなっていった70年代のロックシーンとは対極のアプローチです。

単純でカッコいい音楽だった初期のロックに回帰しつつ、70年代の若者の心情をストレートに表現したのが、パンクといえます。

ラモーンズ、テレヴィジョン、パティ・スミス・グループ、トーキング・ヘッズなど、ニューヨークで活動しているバンドが、ニューヨークのクラブCBGBに集まって起こしたムーヴメントこそが、パンクだったのです。

ラモーンズのイギリス公演で影響を受けて、生まれたのがイギリスのパンクシーンなので、どちらかというとパンクの発祥はアメリカです。ニューヨークのCBGBこそが、パンクの聖地ともいえます。

演奏技術が高ければ、確かに音楽的な意味での広がりはあります。しかし、元来ロックとは、産業化する前は、大衆のためのものでした。レコードを頼りに、譜面の読めない若者がギターを耳コピできる単純なものだったのです。

シンプルで衝動的なロックの本来の姿を突き詰めたのが、パンクのムーヴメントで、ここから派生したニュー・ウェーブやオルタナティブ・ロックになると、もはやパンクとは呼べません。パンクのムーヴメントは、1970年代中盤から、1980年代にかけて大きな影響を与えました。

パンクは、ファッションや芸術全般に用いられるようになります。それだけ、70年代から80年代にかけて影響を与えたのがパンク・ロックといえるのです。

パティ・スミスは、クィーン・オブ・パンク(パンクの女王)と呼ばれたニューヨーク・パンクの黎明期のアーティストです。パティ・スミス・グループは、1975年のアルバム”Horses“でレコードデビューを果たします。

男性のような白いシャツと、ジャケットを片手に持ち、まっすぐ見つめるパティの写真は、当時29歳のミュージシャンの姿をストレートに写した名ジャケットです。

ホーセスには有名なヴァン・モリソンのカバー曲、”Gloria“などの名曲もあって今でも名盤と呼ばれているのですが、筆者にとって、パティ・スミスの一番好きなアルバムは、今回紹介する1978年発表のサードアルバム”Easter“なのです。

EASTER解説

出典 https://www.amazon.co.jp/

イースターは、ピストルズのアルバムのようなシングル曲だらけのバランスの悪いパンクのアルバムではありません。むしろ、上質なロックのアルバムのように、激しい曲からバラードまで、抑揚のあるアルバムです。

イースターのプロデューサーは、ジミー・アイオヴィンで、ジョン・レノンやブルース・スプリングスティーンのレコーディングエンジニアとして知られ、最近ではApple Musicの立ち上げに尽力したりしているミュージシャンです。

1曲目の”Till Victory“は、ギタリストのレニー・カヤとパティ・スミスの共作曲です。レニーは、フェンダー・ストラトキャスターでのカッティング主体のギターを弾いていて、長年のパティの相棒のギタリストで、ベースも担当しています。テンポのいい、力強いストレートなロック調の曲です。

2曲目の”Space Monkey“は、パティとギターのアイヴァン・クラールとの共作です。アイヴァンは、パティ・スミス・グループではギターとベースを担当していました。本作では、ギブソン・レスポールを弾いており(ライナーノーツに記載されている)、後にイギー・ポップのギタリストとして活躍する片鱗を見せています。

おそらく、ヘビーなリフは、アイヴァンのレスポールのトーンです。スペース・モンキーでは、パティお得意のシャウトと詩の朗読が聴けますが、基本的にハードな曲です。

3曲目の”Because The Night“では、ブルース・スプリングスティーンとの共作となっています。とてもメローな曲で、ピアノが主体のバラードです。そして、アコギ主体のレニー・カヤとの共作、”Ghost Dance“から、パティの詩の朗読がメインの”Babelogue“をイントロにした6曲目の”Rock n Roll Nigger“に繋がります。

ここで注目したいのが、ヘビーなギターリフと疾走感のあるロックチューンに、黒人差別に対する強烈な皮肉をこめた歌詞を乗せていることです。パティは、太いアルトのシャウトから、突然ファルセットでアクセントを付けるなど、高度なボーカリストとしてのテクニックを披露しています。

パティ・スミス・グループのメンバーは、パンクバンドとは思えない技量の持ち主が揃っています。このアルバムでは、前述のレニーや、アイヴァンのギターやベースに加えて、ドラマーのジェイ・ドゥ・ドゥーティーの勢いのあるドラミングが聴けます。

ぶっちゃけ、パンクに演奏力がないというのは、ピストルズのシド・ヴィシャスのイメージのせいで広まっていますが、イースターを聴くと、それが眉唾であることが良く解ります。


7曲目の”Privilege“と、8曲目の”We Three“は、バラード曲です。このアルバム全般で、ピアノやキーボードを担当しているのは、ブルース・ブロディです。イースターにおいて、ピアノやキーボードは叙情的な曲の多い、イースターにとって必須でした。

9曲目の”25th Floor“では、ボトムリフから入るロックチューンに戻り、そのままパティの詩の朗読が中心の10曲目の”High on Rebellion“に繋がります。

そして、11曲目の”Easter“はタイトルロール曲です。パティ・スミスは、1977年のツアー中にステージから落下し、1年半もの間、リハビリ生活をしていました。イースターとは、復活祭のことで、毎年春の日曜日に祝われるキリスト教の重大な行事のことです。

イエス・キリストは、ユダの裏切りで、十字架にかけられます。しかし、その3日後には、生き返り再び、弟子の前にあらわれたとされています。ユダヤの救世主として期待されていたイエスが、世界を救済することを主張したために、ユダヤ人と対立したアナーキストして、パティはイエス・キリストをとらえていたようです。

イースターでは、キリスト教の宗教的なことを歌詞に取り上げています。前2作とは異なり、イースターは、パティの復活をアピールするだけにとどまらず、世界的な成功を収めることになるのです。

パティのフェンダー・デュオソニックについて

死ぬほどカッコいいパティとデュオソニックの写真

基本的にボーカリストとして知られるパティ・スミスですが、意外とギターも弾いています。ボーカルの持つギターとしては、異例のフェンダー・デュオソニックというチョイスに、パティのセンスの良さを感じました。

Fender DUO-SONICは、1956年に初心者用(スチューデントモデル)として販売されたギターです。これの内部配線を改良し、トレモロアームを装備したのが、チャーの使用で知られるムスタングです。

2つのピックアップの片方を逆巻き、逆磁極にすることで、擬似ハムバッカーのようなパワーのあるトーンの出せるギターということで、デュオソニックと名付けられました。1ピックアップのみのミュージックマスターというギターから派生しています。

デュオソニックは、基本的にショートスケールです。デュオソニックやムスタングは、小ぶりなボディでとても軽量です。当時は、ストラトの半額で売られていたようです。デュオソニックのいいところは、シンプルな配線です。トグルスイッチの操作で、フロント、リア、フロント+リアの3種類のトーンが選択できます。

ジミヘンやジョニー・ウィンターも使っていたことがあるギターで、パンクではトーキング・ヘッズのデヴィッド・バーンも使っていました。トーキング・ヘッズはCBGBの常連で、パティといいクラブで流行していたのかもしれません。

※2019年6月追記

ジョニー・ウィンターが使用していたのは、1969年製のフェンダー・ムスタングでした。詳しく調べた結果、間違いに気付いたので、ここで訂正させてもらいます。

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