前回で紹介した9mmパラベラムの名銃には、それぞれ革新的な機構がありました。9mmパラベラム、ダブルアクション、ダブルカラムの3つの要素を備えた東西冷戦下における名銃を紹介していきます。
チェコの名銃Cz75
Cz75は評価の高いオートマチックピストル
Cz75に「世界最高のコンバット・オート」とお墨付きを与えたのは、コンバット・シューティングの第一人者、ジェフ・クーパーです。しかし、45ACPならという但し書きがつきます。ジェフ・クーパーは、この後10mmオート弾の開発に協力し、その失敗の後で、現在アメリカでポピュラーになりつつある40S&W弾が開発されます。
ジェフ・クーパーが開発に協力した10mmオートの自動式拳銃ブレンテンは、Cz75のコピーといえる銃でした。1960年代から開発がスタートし、チェコスロバキア(当時)で1975年に製造開始されたのがCz75です。Cz75は、ダブルカラムにより15発装填でき、薬室に1発の計16発の装弾数を誇っています。
9mmパラベラムは、当時敵対していた西側諸国では、NATO(北大西洋条約機構)の共通規格の拳銃弾で9mm×19 NATO弾とも呼ばれています。チェスカー・スブロヨフカ国営企業は、輸出を見込んで9mmパラベラム、ダブルアクション、ダブルカラムという要素を高レベルでまとめたオートマチック・ピストルを開発したのです。
当時、この3大要素を備えた銃は、アメリカのS&W M59がありました。M59は、先見の明のある銃でしたが、グリップの太さによって手の大きなシューターでないと扱いにくい欠点と、元になったM39の基本設計が古い問題がありました。
Cz75は、人間工学に基いた握りやすいグリップを持ち、マニュアルセーフティが、コックアンドロック方式で、コルト M1911(コルト・ガバメント)と同じ操作性という面でアメリカのシューターにも高評価を得たのです。更に、スチール削り出しの美しい仕上げが、一部のコレクターにも受けたのです。
また、シグ・ザウエルP210同様にフレームがスライドを包み込む構造を持ち、その結果として、スムーズな動作による命中精度の向上がありました。当時共産圏であったために、コストを度外視して製造されたCz75の初期モデルは、評価が高く、西側では関税により高価な銃でした。
それに対して、東側では比較的安価であることから、警察や軍に数多く採用されています。Cz75は、中国では、NZ75、北朝鮮では白頭山拳銃としてコピーされています。前述のブレンテンの他、イタリアのタンフォリオTA90、イスラエルのジェリコ941など、コルト1911のように、コピーが大量に作られた銃としても有名です。
後期型(ロングバレル)から高価で塵や埃に弱い削り出し構造を、大量生産向けのロストワックス製法に変更しましたが、見た目の問題であまり評価されていません。現在は、Cz75B型という40S&Wも使用できる改良型が、スタンダードモデルとなっています。
日本のジュブナイル小説、菊地秀行の『エイリアンシリーズ』で、主人公のトレジャーハンター八頭大が愛用していました。菊地先生の小説の主人公は、Cz75を使うパターンが多かったです。
筆者の個人的なCz75信仰は、エイリアンシリーズと、『バイオニック・ソルジャーシリーズ』からきています。他には、『007 カジノ・ロワイヤル』でジェームズ・ボンドが使用していました。
アメリカ軍制式採用の拳銃!ベレッタ 92
アメリカの陸軍兵とベレッタ M9
1911年から、1985年までの長い期間、アメリカの制式採用銃といば、コルト M1911です。45ACPによる絶大なストッピングパワーに、長年培われた高い信頼性で、多くの兵士や、一般のガン・シューターに愛された傑作銃です。
しかし、東西冷戦下の1970年代でのNATOでは、9mm×19mm NATO弾こと9mmパラベラムが、標準仕様の弾丸となりました。NATOで、アメリカだけが45ACPを使うことが許されなくなってきた情勢がありました。
先行のアメリカ空軍でのトライアルを、アメリカ軍全軍規模にした、新たなトライアルが1981年に行われ、該当銃がないということで、一度は見送られました。
1984年にトライアルをやり直し、最後まで争ったベレッタ 92と、シグ・ザウエル P226の2丁のうち、米軍制式採用の栄冠を勝ち取ったのは、イタリアの銃器メーカーであるベレッタでした。
ベレッタ 92と、シグ・ザウエルP226は、2丁とも、9mmパラベラム、ダブルアクション、ダブルカラムとオートマチック・ピストルの新たな3要素をクリアした優秀な銃でした。
ベレッタが、1985年に米軍制式採用銃となった理由は、マニュアル・セーフティがあったことと、シグ・ザウエルよりも安価だったからだといわれています。実際に、Navy SEALsなどの特殊部隊において、P226は配備されているので、一般の兵士にとって扱いやすいベレッタ 92が制式採用されたというのが、本当のところだと思います。
イタリア軍が、1951年に制式採用した9mmパラベラムを使用する銃、ベレッタ M1951から発展したのが、ベレッタ92で、スライド上部を削ってバレルを露出させているのが、外観上の大きな特徴となっています。
アメリカ軍のベレッタ M9(92のこと)
ベレッタ 92は、厳しい条件の米軍トライアルを経て制式採用されただけあって、優れたハンドガンでした。ダブルカラムマガジンに15発、薬室内に1発の計16発の装弾数と、9mmオートならではの連射性能や、優秀なグルーピング、マニュアルセーフティといった米軍に必要な要素を総て備えていました。
よく勘違いされてベレッタ M92Fと表記されることがありますが、米軍での通称がM9で、改良型の92Fと混合されています。ちなみにM9A1という、フレームの下にオプションを設置できるレールのあるモデルもあります。
ゲームでは、『バイオハザードシリーズ』や、『メタルギア』などでも登場しています。ハリウッド映画、『リーサル・ウェポン』のマーティン・リッグス刑事が愛用しています。
2017年に後継の制式採用銃、シグ・ザウエルP320が配備開始されるまで、32年間も米軍を支え続けた名銃です。ちなみに日本では、ウェスタン・アームズ(WE)社が、ベレッタ社とライセンス生産契約をしてエアガンを製造しています。
プラスティック製の銃?グロック17
プラスティックを多用した銃グロック17
1983年にオーストリア軍に制式採用されたグロック社のオートマチックピストルPi80の民間用モデルが、グロック17です。この銃の特徴は、9mmパラべラム、ダブルアクション、ダブルカラムの他に、フレームなどの部品の多くにプラスティックが使われていることです。
プラスティック素材を用いた拳銃は、1970年に開発されたH&K P9Sという先例もありましたが、フレームやトリガー周り、マガジンの周囲と樹脂製パーツを徹底的に使った商業的に成功した拳銃は、グロック17が初めてです。
この手のポリマーフレームの銃で、問題視されるのは、703gと従来のメタルフレームと比較して、200g以上軽量な重量です。拳銃は、反動があるので、樹脂性の軽い銃では押さえきれないのではないか?という問題も、銃口とグリップの間隔を短くすることと、ポリマーに粘りを持たせて緩和しています。
また、空港などの税関での検査に関しては、金属部品を使っているので、普通に検知されてしまいます(笑)。携行する場合、軽量であることはメリットの方が大きいので、ポリマー・フレームは、グロック17が登場してからトレンドになりました。また、マガジンには17発、薬室には1発の計18発の装弾数も魅力です。
グロックには、マニュアルセーフティや、ハンマーがありません。完全なDAO(ダブルアクションオンリー)な銃です。セーフティの役割としては、トリガーからわずかに出っ張っているトリガーセーフティレバーのみです。
スライドを引いて、初弾を装填すると、撃鉄兼撃針(ストライカー)が、半分後退した位置でロックされるので、撃発はしません。発射状態にするには、ここからスライドを軽く後退させるのみで、他の操作は必要ありません。
トリガーの位置が後退していれば、発射は出来ず、前進してトリガーが発射出来る状態になっていたら、発射可能です。シンプルなトリガーと、スライド操作のみという優れた操作性が、グロック17の強みです。
約50ヵ国の軍で制式採用され、日本でも海上保安庁のSSTが採用しており、各国の警察にも多数の納入実績のある優れた銃です。90年代以降は、完全にグロック17のポリマー樹脂フレームは、スタンダード化しました。
『新世紀エヴァンゲリオン』のネルフが、制式採用している拳銃がグロック17です。他には『ヨルムンガンド』のココ・へクマティアルの愛用の銃として登場しています。
20世紀のトレンドと、21世紀のオートマチック・ピストル
米軍が制式採用したシグ・ザウエルP320
東西冷戦下のNATOにおける、9mmパラベラムの標準化によって西側のスタンダードな拳銃弾の地位を9mm×19が獲得しました。また、ダブルアクションや、ダブルカラムも盛り込まれた銃が、ベレッタ 92や、Cz75、シグ・ザウエルP226といった傑作によってスタンダード化されていきました。
1990年代になり、グロック17のようなポリマーフレームの銃の優秀さが証明されてくると、今度は樹脂製の銃がトレンド化していきます。2017年の米軍制式採用コンペには、グロック17も参加しましたが、シグ・ザウエル P320が制式採用されました。
シグ・ザウエル P320は、モジュラー構造が最大の特徴となっている銃です。グリップの大きさも任意で選ぶことができ、使用できる弾丸も9mmパラベラムの他、40S&W、357SIG、45ACP、380ACPと5種類もあります。
アメリカの警察などでは、ストッピングパワーの強い40S&Wが採用されたり、逆にFBIでは9mmパラベラムに戻したりしていますが、これからはモジュラー構造というのが、一つのトレンドになっていくのかもしれません。
21世紀は始まったばかりなので、拳銃も新時代のものが登場してくるでしょう。しかし、20世紀後半に活躍したCz75、ベレッタ 92、グロック17は、間違いなく名銃として語られる存在なのです。
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