巡航ミサイルの導入について考察してみる

日本政府は、巡航ミサイルの導入を発表し、22億円の予算を組み込むことを小野寺防衛大臣が要請しました。巡航ミサイルとは、ジェットエンジンにより推力を持ち、航空機のように飛行することのできるミサイルのことです。


日本が導入する巡航ミサイルの種類

有名なのがアメリカのトマホークで、地形を縫うように低空飛行し、レーダーをかいくぐることが出来ます。ジェネラル・ダイナミクス社が設計したトマホークは1980年に量産型のBGM-109Aが発射成功し、1983年には実戦配備されています。

トマホークは、本来核弾頭を搭載することを前提として開発されています。トマホークは、核弾頭も通常弾頭を搭載し、地上目標もしくは、対艦ミサイルとして運用が可能です。

日本が導入する予定の巡航ミサイルは、対艦・対地巡航ミサイルであるジョイント・ストライク・ミサイル(JSM)と、ステルス巡航ミサイルJASSM-ER、そして長距離対艦ミサイルのLRASMの3種類です。


JSMは、ノルウェーの巡航ミサイル、ナーヴァル・ストライク・ミサイル(NSM)を元に開発されたF-35向けの巡航ミサイルです。JSMは、F-35のウェポンベイに収納できるコンパクトなサイズで設計されており、NSMの射程距離280km以上の能力を持つ予定です。

JASSM-ERは、レーダーに発見されにくいステルス性能を有した射程距離925kmの高性能な巡航ミサイルです。アメリカ空軍では、B2AやB1Bなどの爆撃機の他に、F-15EやF-16といったマルチロール機にも搭載します。

LRASMは、アメリカ海軍が開発した対艦巡航ミサイルで、射程距離は800kmです。JRSAMは、F/A-18、F-35などの航空機の他にMk41(ミサイル発射機)を搭載している艦艇に配備できます。

対艦ミサイルとしての運用の延長線上として比較的配備しやすい巡航ミサイルですが、国際的にはミサイル技術管理レジームの規制対象となっています。

今のままでは無用の長物?巡航ミサイルの必要性

アメリカ空軍のF-35A 胴体にウェポンベイを持ち、高いステルス性能を誇る

航空自衛隊に、空対地ミサイルが配備されていない理由は明確で、専守防衛に反するからです。支援戦闘機F-2によって運用している対艦ミサイルについては、攻撃をしてくる艦艇を迎撃するためということになっています。

今回の巡航ミサイルの導入した目的の一つは、対艦ミサイルとしての能力です。射程の長い巡航ミサイルは、艦船を攻撃する能力の高い兵器です。ただ、航空自衛隊にはすでに、F-2支援戦闘機に搭載できるXASM-3空対艦ミサイルがあります。

対地攻撃用として活用できるJSMとJASSM-ERを検討する意味は一つしかありません。自衛隊にとって不足している能力とは、敵基地攻撃能力です。核ミサイルを迎撃するより、発射する前の基地を叩く方が戦術的には有効な手段といえます。

しかし、よく考えてみると日本の自衛隊は憲法によって先制攻撃できないようになっています。巡航ミサイルを配備しても、先に攻撃できないのでは意味がありません。

基本的に、アメリカが攻撃(アタック)をして、自衛隊が本土を守る(ディフェンス)するというのが、日米安保条約のはずです。現状では巡航ミサイルを配備しても戦略的に活用できないということになっています。

2007年の日米安保戦略会議において、巡航ミサイル導入を玉澤徳一郎元防衛庁長官がアメリカ側に強く要請しています。2010年の中期防衛計画にも、巡航ミサイルの導入は盛り込まれていました。

この計画は、その後の民主党政権の誕生や、自民党と連立を組む公明党によって頓挫していました。今年の衆院選で公明党が議席数を減らしたとたんに、巡航ミサイルの導入が発表されました。

本来は、憲法を改正する以外に導入することのできない兵器を、あろうことかシビリアンコントロールをしなければならない立場の政治家が配備に積極的になっているのです。

戦術的には必要性の高い兵器ですが、戦略的に活用できないなら無用の長物です。巡航ミサイルを導入するなら、憲法改正とセットにするべきでしょう。

国民の間で、憲法改正の議論が熟成していない段階で、一部の政治家や現場の判断で購入していい金額ではありません。最近の自民党は、安保法案といい、共謀罪といい、碌に審議しないまま戦後レジームを破壊することに躍起になっているようですが、主権在民という言葉を忘れているとしか思えません。

既成事実を積み重ねていく手法が危ういのは、一度流れが出来上がってしまうと、誰にも止められなくなるからです。武器輸出3原則が、防衛装備移転3原則になったように、徐々に憲法の持つ非戦の思想と乖離し始めています。

こういう流れを作る前に、国のあり方自体を国民投票で問うべきです。安倍政権のように、姑息にこそこそとやっていいことではありません。

現在のアメリカはトランプのような危うい人物が大統領になっています。日米安保自体も考える時期になっているのかもしれません。自国で安全保障をしないと国家として成立しません。その場合は、憲法改正も含めた敵基地攻撃能力の付与、すなわち巡航ミサイルの導入を真剣に考える必要はあるでしょう。

巡航ミサイルは、MD計画よりも遥かに戦術上の価値の高い兵器です。ただ、現行の日本国憲法の第9条2項には、まったくそぐわない攻撃型の兵器なのです。

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