今回紹介するアニメは、高橋良輔監督作品であるFLAGです。2006年よりバンダイチャンネルで放送されたwebアニメです。30分の1~13話構成で、架空の小国ウディヤーナの内戦を、カメラマンの視点で描きます。
■FLAGとは?
ウディヤーナは、チベットかネパールがモデルになっていて、FLAGとは、主人公の白州冴子が撮った平和の象徴の旗のことです。白州の撮った平和への祈りのような写真が、国連の和平プロセスには重要でした。しかし、FLAGが式典前に盗まれ、国連は最新のロボット兵器ハーヴィックを中心にしたシーダック隊に奪還作戦を命じます。
白州は、シーダック隊への同行取材を国連から依頼されます。取材前、尊敬するカメラマン赤城圭一に国連からの資料の入ったディスクを渡して、戦場に向かいます。
■圧倒的なリアリズム
出典 https://www.amazon.co.jp/
高橋良輔が、監督として新しいアニメを制作するということで、当時は話題になりました。1話が無料だったのでバンダイチャンネルで見た覚えがあります。その後、無事に全13話見たのですが、話の切り口といい、余韻の残るラストといい、素晴らしいアニメでした。
ハーヴィックは、ガサラキのタクティカルアーマーよりリアルなロボット兵器でした。2足歩行兵器の弱点は、全高の高さです。戦車の車高を低くしたり、戦場で塹壕を掘ったりするのは、銃弾が当たらないようにするためです。ハーヴィックは、脚部を上下に展開し、車高を下げます。主な機動は、高速移動できるごついタイヤによって行われます。ボトムズのATのローラーダッシュを極端にしたものだと思ってください。
ハーヴィックをゲリラとの戦闘に用いる最大の理由は、戦術に応じたフレキシブルさです。戦車や攻撃機のような、大雑把な兵器だとゲリラ戦や市街地における戦闘には向いていないのです。FLAGの奪還という目的は、情報収集や、細かい動作の必要な局面もあります。そこで活用されるのがロボット兵器というわけです。
高橋良輔は、前作ガサラキでTAという兵器を登場させました。ハーヴィックと同じように、戦場での局地戦に特化した兵器としての扱いで、戦車や戦闘機には場所を限定いないと、からきし弱いという設定でした。ガサラキの主人公がチートな操縦能力を持っていたので、音速を超えるF-22ラプターに勝利したのには驚きましたが。
アニメを見るまでは、既存の高橋監督作のように、ハーヴィックがガシガシ動く作品だとばかり思っていました。ところが、主人公はカメラマンの白州で、外から戦場を追いかける先輩カメラマンの赤城が語り手となっています。
視点が白州と赤城の一人称で、画面はカメラのフレームとして描かれます。ところどころにピントを徐々にフォーカスしていくようなエフェクトがあり、カメラを扱ったことのある人には独特のリアリティがあります。
FLAGが放送された2006年頃は、CGによってアニメが作られることが増えていました。ハーヴィックの作画もそうですが、細かい視点の動きまでアニメで再現できるようになったのです。主人公をカメラマンにしたのも、CGを有効活用するためなのかもしれません。
内戦の様子を白州や赤城によって、内外から描くことで国連やウディヤーナ双方の事情を写しだしていきます。この作品の肝は、登場人物の感情の起伏が泥沼の内戦というやりきれない戦場の悲劇を鏡のように描写することです。ドキュメンタリーというよりは、白州と赤城の映像記録とした高橋監督の手腕は見事です。
■高橋良輔監督の作品
出典 http://www.votoms.net/
高橋監督は、長い間サンライズで数々のリアルロボット作品をてがけてきました。「太陽の牙ダグラム」(1981年)やリアルロボットの頂点「装甲騎兵ボトムズ」(1983年)、「蒼き流星レイズナー」(1985年)などが代表作です。
FLAG前後の作品としては、サンライズ作品の「ガサラキ」(1998年)と「幕末機関説いろはにほへと」(2006年)です。ガサラキは、中東の紛争地帯に投入されたTA(ロボット兵器)部隊の話に始まって、アメリカと日本の対立と日本国内の市街戦を描いた話でした。
能とクガイと呼ばれる、TAの元となった太古から伝わる鬼のような生体兵器などを盛り込んでいたのですが、全25話では尺が足りず最終話が駆け足になってしまった印象があります。日曜の10時に放映していたので、あまりにシビアな話に視聴者がついていけなかったようです(せめて夕方にしろよ!)。視聴率が低かったので、打ち切りになってしまって最終話が削られたようです。
リアルな戦闘をFLAGで、日本の歴史活劇をいろはにほへとで分けたのは正解だったと思います。いろはにほへとは、幕末で坂本竜馬を守ることの出来なかった剣士の話です。伝奇的要素が盛り込まれているので、苦手でないならおすすめします。
「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年)以降、セカイ系のアニメが増える中、リアルな戦闘描写を追求した高橋監督の作品は、主流でなくなったかもしれません。しかし、アプローチを工夫することで、CG化していくアニメの可能性を広げていったことは間違いありません。
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