アニメのデジタル彩色について:キルラキルとGレコによる線の進化

1990年代後半以降、アニメはセル画による手塗りより、デジタル彩色が主流となりました。デジタル化によるメリットは計り知れないものがあります。2014年から2015年にかけてアナログらしい線をデジタルで再現するアニメ作品が出てくるなど、新しい試みがなされています。

手間と時間のかかったセルアニメ時代

日本のテレビアニメ黎明期の鉄腕アトム

1914年にアメリカのジョン・ランドルフ・ブレイが世界で初めてセル画を使ったアニメーションを考案したといわれています。セルとは元来、セルロイドと呼ばれる透明なシートのことです。背景を紙に書いて、キャラクターやメカを描いた複数枚のシートを重ねて動かすようにフィルムに撮影していきます。

この手法によって、アニメーションには動きができました。1950年代には、燃えやすいセルロイドから不燃性のトリアセチルセルロース(TAC)に素材が変更されましたが、セル画という名称はそのまま使われました。

セルによる彩色は、基本的に中割り(原画間のつなぎ)にも必要であり、セルの裏面から手塗りで行っていました。その枚数は膨大なものであり、かなり手間のかかる作業だったのです。

デジタルに移行することによるメリット

出典 http://www.gundam-seed.net/ 『機動戦士ガンダムSEED』はデジタル彩色による表現方法の拡大を印象付けた

デジタル彩色は、コンピューター上にて仕上げや彩色することです。従来のアニメとは異なり、そのままデジタル出力できるので、フィルムに撮影することがなくなり、コストと手間が削減されました。

デジタルではセルを重ねることがないので、明るさの減小がないことと、自由な角度で表現できるカメラワークや、デジタル画像処理によって簡単に特殊効果が追加できることなどのメリットももたらしています。

1997年放送の『ゲゲゲの鬼太郎』や、『超特急ヒカリアン』で初めて全編デジタル彩色のアニメが製作されました。本格的なデジタル化は、1997年から2002年の5年間かけて行われました。


2002年放送の『機動戦士ガンダムSEED』での主役モビルスーツストライクガンダムのPS(フェイズシフト)装甲の表現が、デジタル彩色による新しい試みとして解りやすいです。

ストライクガンダムは、バッテリー駆動で動いているので、電力の供給が必要です。フェイズシフト装甲とは、実弾兵器などの物理衝撃を無効化する装甲のことで、電流を流すことで有効化します。

ストライクガンダムは、メタリックグレーからフェイズシフト装甲を有効にすると、トリコロールカラーになります。白、青、赤のガンダムカラーが、機体の中心部から徐々に機体表面に広がる従来のセルアニメでは出来なかった見事な表現に驚いたものです。

2002年には、ほとんどのアニメがデジタル彩色となり、2007年に『サザエさん』がセル画を止めると、テレビアニメの現場ではデジタルのみとなりました。

デジタル彩色の進化

出典 http://www.g-reco.net/ 『ガンダム Gのレコンギスタ』アナログのような質感をデジタルで再現した作品

デジタルによって受けた恩恵は絶大なものでしたが、無くしてしまったものもありました。線と線の境界がくっきりする分、綺麗すぎて勢いのない冷たい感じになってしまったことです。

セル時代にあった線の太さや、暖かみは人の手によって彩色されることで表現できた要素でした。しかし、綺麗すぎる線には荒々しさや、勢いといったアナログ感を再現することはできません。

出典 http://www.kill-la-kill.jp/ 『キルラキル』は荒々しい太い線をデジタルで再現した

2013年に放送されたアニメ『キルラキル』は、TRIGGER制作のテレビアニメ第1作です。監督は『天元突破グレンラガン』の今石洋之、シリーズ構成は中島かずき、キャラクター・デザイン、総作画監督にすしおがそれぞれ担当しました。

すしおによって、セル画制作アニメのようなレトロ感のある勢いのある線で描かれたキルラキルは、当時のアニメ業界に衝撃を与えました。監督の今石洋之は、伝説のアニメーター金田伊功を尊敬する、いわゆる金田フォロワーの1人です。

筆者が投稿したこの記事の動画です。

翌年の2014年に放送された『ガンダム Gのレコンギスタ』では、サンライズのスタッフによる、さらに進化したデジタル表現が持ち込まれました。Gのレコンギスタは、ガンダムの生みの親である富野由悠季監督による作品です。

Gレコのキャラクターデザイン、作画チーフの吉田健一と、撮影監督補佐の脇顯太朗によって、輪郭線の処理をセル画に近づける効果がふんだんに盛り込まれました。このデジタルにアナログの柔らかさを持ち込む作業により、Gレコの作画は生き生きとした躍動感がありました。

簡単に説明すると、セル画には線に色が混じることが多く、均一な太さの線ではありませんでした。デジタル彩色は、色がところどころ混じるようなことはなく、綺麗な線が出るのが特徴です。

「油彩処理」と「セルトレス処理」によって、色が混ざったり、線の太さに強弱が出ています。吉田健一と脇顯太朗は狙ってアナログ感を出しているのです。キルラキルでは、線を太くする効果を重視していたことが、Gレコでは強弱をつけるようになったのです。

現在のアニメは、この『キルラキル』と『ガンダム Gのレコンギスタ』に影響を受けたアナログの質感を取り入れた作品が増えています。アニメのデジタル彩色は、このように進化し続けているのです。

Gレコに関してはこちらのリンクが参考になります。

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